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金継ぎ職人は“タイムトラベラー”である!

金継ぎ職人は“タイムトラベラー”である!

Vol.1 技をつなぎ、時代をつなぐ「金継ぎ」

壊れたものを繋ぎ合わせるだけではありません

京都市北区に工房「漆芸舎 平安堂」を構える職人、清川廣樹さんは漆芸修復師として、古くからの文化やモノを守り伝えています。伝統の技法である「金継ぎ」はモノを直すという行為によって、後世へと繋いでいきます。モノに宿っている人の想いを過去から未来へと橋渡しする技術。この金継ぎの技法を継承している清川さんは江戸時代の職人とモノを通して会話をし、そしてまだ見ぬ将来の職人へと伝言していく。時代をさかのぼったり、はたまた未来へと思いを馳せたり。時間を行き来している、いわばタイムトラベラー。過去の人と対話をし、今あるモノをその人の想いとともに未来へと繋げていきます。

漆芸修復師 職人  清川廣樹さん

40年以上にわたって伝統工芸にたずさわり、 神社、寺院仏閣、美術館の所蔵品などの修復をおこなっている。対象は建築、仏像、陶磁器、漆器、アンティーク家具、古美術品など多種多様です。

清川さんは40年以上にわたって磨き上げた技術である、漆を用いた日本古来の技法「漆芸」によって神社や仏像、陶磁器の修復をしています。「漆芸修復」とは、仏像・建築・茶碗などを、漆を用いて修復する伝統技法のことをいいます。その文化には、縄文時代に起源がある素材や技法の歴史と「モノを大切する精神性」「精緻な技巧性」という日本的な特徴があります。漆芸修復は建築や仏像、工芸といった文化財の保存・継承に不可欠な技術。とくに茶碗などを修復する「金継ぎ」は現在、海外からも注目されています。

いわゆる「金継ぎ」とは、器の割れや欠けを漆によって修復する伝統技法。自然素材である山の土から器が作られ、その修復には同じく自然の木からとった漆を使います。さらに金粉などを加えることで、新たな美が生まれます。自然とともに文化を守ってきた日本のモノを守り伝える心と、モノを修復する伝統技法、その2つの調和が「金継ぎの世界」を実現しているといいます。一つの作品に6~10の工程が必要で、手作業で数か月かけて丁寧に仕上げていきます。

金継ぎの素晴らしいところは、ただ割れた部分を直すのではなく、日本の伝統的な修復の技で、壊れた部分を漆で接着させ、金粉や銀粉などを施して、新たな景色を与えるところにあります。 金継ぎの大きな魅力は、偶然のヒビや欠けを「金」で装飾することによって、元の器とは違った〝風情″と〝味わい″が出てくること。この技術は室町時代に、茶道の普及にしたがって盛んになった日本の伝統的なもの。壊れたものを再び使うというよりも、偶発的に生まれたヒビや欠けに新たな〝美″を見出し、風情を感じることにこそ、「金継ぎ」の魅力があります。

清川さんは陶磁器の割れ、欠けなどを漆工法(漆芸)で修復した後に、金粉を使って新たな景色を生み出していきます。欠けた部分だけに金を入れるのではなく、その傷を生かした新たな作品に生まれ変わらせることができるのが、金継ぎの面白さ。ここに清川さんのセンスが光ります。例えば、過去に割れてしまったヒビの形を、現在においておたまじゃくしと捉えて直す。さらに、ヒビがない箇所にもあえて数匹描くことによって新たな景色として楽しめるものにする。するとヒビが入ってしまったものなのに、金継ぎによって直したことでさらにモノに対する愛しさが湧くのです。過去のヒビに、現在において新たな景色を見出し、未来への愛着へと繋げる。ここでも、時空を超えたタイムトラベルが発生しているようです。

清川さんが修復を手掛けた朝鮮の青磁の器で400年前のものがあります。すでに風化していたそうで、少し亀裂が入っていたところに自分のちょっとした感性を加えて目玉をつけることによってメダカに見立てたそう。飲み干したときにメダカが出てきてあらまぁ、と話題づくりをするという粋な遊び心です。そういう遊び心はお寺の修復にもあったといいます。

2017年からは、東京の日本橋三越からの招聘(しょうへい)に応じ、年4回、金継ぎ・漆器修復の見積会も開催。清川さんの技を求めて、お客さんが足を運びます。割れたらまた買えばいい、という人もいますが、二度と買えないものもあります。それは、大切な人からもらった品物など。最愛の父が生前に使用していたワインカップを三越で修復に出された方は、金継ぎによって新たなデザインが施されていて驚いたといいます。清川さんの提案で、思い出のワインカップに合わせて桐箱と敷物も誂え、父の思い出とともに末永く大切にしていきたいと嬉しく思われたそう。

愛着のあるモノを直すという行為によって、その記憶は未来へと続いていくことができます。金継ぎによって、時間も引き継いでいくことができる。過去の思い出を、現在に、さらに未来へと繋ぐ、まさにタイムトラベル。

このように日本各地からの依頼に応え、多くの愛蔵品を修復している清川さん。高価なものでなくとも、想い入れのあるものを直すことに貢献していきたいと語る清川さんは、京都の工房で金継ぎの教室を開いています。金継ぎを習われている方の中には、最初は趣味の骨董を愛でているうちに、日本古来の金継ぎの技法に興味を抱いたという方もいます。「清川さんに技術を習いながら修復した古伊万里には、日本の伝統的な技術がたくさん詰まっています。古くから続く技法に出合うことができて感謝しています」と金継ぎを習ってからは、より骨董が好きになったといいます。ここでも、骨董という過去のモノを現在において修復し、未来へと繋いでいっています。まさに金継ぎは、昔と向き合い、そして未来へ向かうという時空のロマンを感じさせます。

 

漆芸舎 平安堂 清川廣樹 〜伝統的技法による漆芸修復 文化財から金継ぎまで〜
平安堂では、陶磁器の割れ、欠けなどを漆工法で修復する金継ぎ教室、漆工法を用いてオリジナル漆器を作り金箔、蒔絵、色漆で文様を施す漆芸教室なども開催しています。
●住所:京都府京都市北区紫野門前町14 ●電話/FAX:075-334-5012 ●営業時間:10時~18時 ●水曜定休
公式HP:https://shitsugeisya.jimdo.com/
公式Facebookページ:https://www.facebook.com/shitsugeisya
参考著書:『「漆芸修復の世界 京都 漆芸舎平安堂」日本文化 自然の構造』
日本文化構造学研究会 編 https://projectkyoto.jimdo.com/

 

ライター
磯部らん
文筆業・マナー講師
日本酒やモノに関するエッセイや雑誌の取材記事、書籍を執筆。利き酒師として、日本酒と風呂敷・酒席でのマナーについての講師としても活躍。著書に『正しい敬語どっち? 350』『イラストでよくわかる 敬語の使い方』『超入門 ビジネスマナー 上司が教えない気くばりルール』『人から好かれる話し方・しぐさ 基本とコツ』などがある。http://www.isoberan.com/

 

イラスト/田中 斉

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