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ホントに日本の伝統工芸? 「江戸切子」の数奇な運命

ホントに日本の伝統工芸? 「江戸切子」の数奇な運命

「江戸切子が日本の文化かっていうと、ちょっと疑問だね」。そう語るのは、伝統工芸士・小林淑郎さん。今や世界的な知名度を誇る江戸切子ですが、その歴史を見ると、伝統工芸の古き良きイメージとは相反する“数奇な運命”を辿っていたのです!  江戸切子の今昔を知る老舗工房「小林硝子工芸所」の3代目・小林さんと、4代目・昂平さんを訪ねました。

【数奇な運命・1】
始まりはインポート物フォロワー?

 

江戸切子とは、その名の通り東京で作られる切子細工=カットグラスのこと。江戸時代後期の1834年(天保5年)、ガラス製品を商う加賀屋久兵衛によって始まったと言われています。

3代目・小林淑郎さんと4代目・昂平さん。「当時、長崎を通して輸入される西洋の美しいカットグラスは人々の憧れの的。江戸切子は、それらを真似て始まったんです」と淑郎さん。

人気のインポートブランドにインスパイアされて……というのは現代でもよくある話。江戸切子に至ってはデザインもそのまま!とのことで、淑郎さんの「江戸切子は日本のものか?」発言も納得できるところです。しかし江戸切子の数奇な運命は、ここからが本番。

今、江戸切子の最大の特徴といえば、日本独特の繊細なカットデザイン。「江戸切子の柄は、基本の文様十数種類を自由に組み合わせて作ります。ここでいかに個性を出すかが職人の腕の見せどころなんです」と淑郎さんが語る江戸切子のキモです。

じつはこの文様、西洋のカットグラスに刻まれていた柄を日本風のモチーフに置き換えアレンジしたもの。中でも、海外では“ダイヤモンドカット”、江戸では“魚子紋(ななこもん)” と名付けられた文様は、細かくシンプルな柄が「粋!」と大好評を博しました。

職人歴45年の淑郎さんの十八番の文様は、6〜8本の線の交差で描く直径10mmの菊に、八角形を組み合わせた「菊籠目(きくかごめ)」。「菊繋ぎ」「籠目」を組み合わせた文様です。素人目にも技術の高さが一目瞭然の緻密な細工に、「菊籠目」の作品が人気を集めているというのも納得!

こうして柄は続々と江戸ナイズされ、インポートフォロワーから一転、江戸切子はたちまち日本ならではのオリジナリティを確立してしまったというわけ。
それもそのはず、当時の江戸は、19世紀のヨーロッパで大流行した浮世絵や歌舞伎などの町民文化の最盛期。その最先端を切っていたセンス抜群の江戸職人となれば、もし別の世なら海外から逆オファーが殺到間違いナシだったかも?

簡単なアタリ線をひいたら、デザインの下絵ナシ、下書きほぼゼロの状態からグラインダー(円盤カッター)で正確に文様を刻む。「私が細かい文様を多用するのも、個性を出すためと、外国にはない日本的な印象を大事にしたいという思いがありますね」と、淑郎さん。

 

切り子の見方 文様●

江戸切子の“和”の佇いのもとが、ガラスの表面に細かく刻まれた文様。作者ごとにスタイルがあり、職人であれば作者を瞬時に見分けられるのだそう。

 

有限会社 小林硝子工芸所

1908年、初代・小林菊一郎が切子職人になったことから始まった老舗工房。その後、後に2代目となる長男の英夫と共に現在の猿江にて開業。1973年に淑郎が3代目を、また2010年に淑郎の長男昂平が4代目を継ぐ。現在は工房に直売所、切子教室を併設している。

〒135-0003 東京都江東区猿江2-9-6
電話・FAX:03-3631-6457
Mail:del2salusa1@yahoo.co.jp

《直営店》
営業時間:10:00〜18:00(12:00〜13:00は休憩時間)
定休日:祝日
※ 駐車スペースあり。
※訪問時は、前日までに要連絡。

写真・取材・ 文/POW-DER

(参考文献)
●江戸切子―その流れを支えた人と技 / 山口 勝旦
●NHK 美の壺 切子 (NHK美の壺) / NHK「美の壺」制作班 (編集)

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