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【Vol.2】金継ぎ職人は“タイムトラベラー”である!

【Vol.2】金継ぎ職人は“タイムトラベラー”である!

Vol.2 師匠の教えと人生の金継ぎ

 

「日本文化は他に類を見ない先人たちの独特の感性によって育まれ、すばらしいモノ作りを追求してきました。そしてそれだけではなく、創作に伴って培われた精神や技能、想いまでも、後世に伝えることを忘れてはいません。しかし、近年、化学製品や大量生産・大量消費が主流となり、人々が抱いてきたモノへの想いが大きく変化してきたように思われます」と清川さんは語ります。すべてのモノを対象にするということではなく、大切なモノを思い出とともに受け継いでいきたいという、お客さんの自然な気持ちを、伝統技能の心と技で受け止め、その美を表現していきたいと考えているそうです。

漆芸修復師 職人  清川廣樹さん

清川さんが修業したときは、まず2年以上は師匠の身辺の世話をして、漆の作業部屋に入るのを許されたのは、なんと4年目だったといいます。「ある時、自分の湯吞みに漆が塗ってありました。かぶれる練習なのですが、明日から1週間休んでいいぞ、と言われました。1週間休めるのか、と思ったら翌日からかぶれと発熱が続きました

漆のかぶれが引くのがちょうど1週間だそうで、それが、漆と一生向き合う覚悟を持っているのかという師匠の弟子に対する確認作業だとか。1週間後に師匠の元に現れるか否かで、弟子の見込みを判断することでもあったのだと清川さんは当時を振り返ります。

今の感覚では人はなかなか待てずに、どの業界においても、すぐに基本から教えるような状況になっていますが、本人の見込みや、それに人生を懸ける気概があるかなどを判断するためにも、本来は必要な期間なのかもしれません。

また修業は、手取り足取りではなく、見て覚えるというもの。手取り足取り教えると、それ以上のことを想像できなくなる。見て覚えることで、僕だったらああするのにな、という想像力が養われます。その時には、師匠に対してナニクソと思ったけれども、その師匠の本意は自分を超えてくれというものだったと気が付きます。また御礼奉公という文化もありました。恩返しとして、師匠の仕事を安価で手伝う。これは、何かあったら相談しなさい、いつでも何か言ってやれるようにパイプを繋いでおく、という師匠のはからい。当時はいつまで奉公をやらないかんのかと思ったけれども、御礼奉公は、師匠のやさしさでもあったのです。御礼奉公は、今はなくなりつつある、日本の技術を伝承していく文化でもありました。「技術を後世に残すことが僕らの使命です」と話す清川さんは、42年やっていても、江戸の昔の人の技術にはまだまだ追いつかないと言います。一般的に、未来のほうが技術は発展しているものですが、清川さん曰く、まさに命を懸けていた江戸時代の技術には敵わないと、江戸時代の職人さんがライバル

第1回でも触れた「金継ぎはタイムトラベル」という話に当てはめていうならば、世の中の技術は一般的に新しいほど優れているが、金継ぎの世界には過去の技術をいまだ越えられない壁がある。しかし、それを想像して可能な限り近づき、未来に残し伝えるという、時間を行き来する独特の世界なのです。

清川さんの京都の工房の金継ぎの教室では、時間も費用もかかりますが、足繁く通われている方が多くいます。親から受け継いだ大切なものなど、買い直すことができない、想いがモノに入っています。金継ぎというと抹茶茶碗などの修復を思い浮かべますが、和物の陶磁器だけでなく、洋物、ガラスなどにも金継ぎをおこなうことができます。関東から京都に移住し、余生を過ごされている方で、こだわりの器を持ち込み、納得のいくまで金継ぎをされ、自身の作品を作る方もいらっしゃるとか。皆さん近所の大徳寺の四季の変化を楽しみながら、教室に通われているそうです。また自身の手で修復することによって、気に入った器が再生する喜びを感じ、よりいっそうの愛着が湧いてくるといいます。日本独特の美意識を肌で感じることができるからでしょう。

割れたからといって新しいものを買うのではなく、直すことによってさらに愛着が増すものへと生まれ変わらせることができるのが金継ぎです。食器などは欠けたらすぐに処分されてしまいがちです。それが修復され金が入ることで甦り、しかもそれまで以上に丁寧に扱われるようになる。金が入ることによって、美しい所作にもつながります。モノを大切に使うためには所作が大事、それが文化にもつながっているといわれます。茶道では「残心」という作法があり、思いを残すようにモノを扱います。私はよくお茶の師匠から、名残惜しそうにお茶碗から手を離しなさいと教わりました。金継ぎの文化も茶道と一緒に育っています。

また、「かすがい」で修理することも、金継ぎの原点ともいうべき技法。昔はお茶碗や湯飲みの数が少なかったので、職人さんが各家庭にまわり、かすがいを入れて修理をしていたといいます。お客さんの中には「昔は、こういうお茶碗がいっぱいありました」と懐かしんで帰る方もいらっしゃるとか。「素朴でなんの飾り気もない修理が、より親しみを感じさせてくれます。子はかすがいという言葉も愛らしく、でもしっかりと繋ぎとめてくれる……そんなかすがいの雰囲気から生まれたのではないかと思います」と、平安堂でアシスタントをしている藤田さんは語ります。

今や伝統工芸の職人たちは後継者不足に悩み、手間暇かけたものはやはり高価で手に取る人は少なくなってきています。でも、作り手の思いがこもったものを大切に使っていく文化。高くてもいいものには、時代を超えて使えるものも多くあります。消費社会から、本当に大切なものを直しながら使っていくという時代に移行することも大事なことだと気づかされます。

金継ぎの話をしていて、「人生の金継ぎ」という話題になりました。私は昨年骨折し、手首に手術の痕が残ってしまいました。清川さんに「私も、傷というか、景色ができてしまったんです」と伝えると、金継ぎをしていると生徒さんは、人生でやり残してしまったことや、自分の失敗を、全部それも自然のことだったと感じることができるようになったと話されるそうです。「人生で転んでしまったときの起き上がり方、その後にどうしようかというのが大事なんですよ」と清川さん。「受験や就職、結婚で失敗しても、その後に、その失敗をどのように自分の人生で活かしていくか、というのも大事。金継ぎと同じなんです」と。「人生の金継ぎ」、これは、古くからの仏閣の修理や師匠から学んだことだと言います。人生において、傷を作ってしまったことがあっても、それも自然なこと。金継ぎのように、それをどう景色として活かしていくか、が大事だということですね。よいお話を聴きました。

漆芸舎 平安堂 清川廣樹 〜伝統的技法による漆芸修復 文化財から金継ぎまで〜
平安堂では、陶磁器の割れ、欠けなどを漆工法で修復する金継ぎ教室、漆工法を用いてオリジナル漆器を作り金箔、蒔絵、色漆で文様を施す漆芸教室なども開催しています。
●住所:京都府京都市北区紫野門前町14 ●電話/FAX:075-334-5012 ●営業時間:10時~18時 ●水曜定休
公式HP:https://shitsugeisya.jimdo.com/
公式Facebookページ:https://www.facebook.com/shitsugeisya
参考著書:『「漆芸修復の世界 京都 漆芸舎平安堂」日本文化 自然の構造』
日本文化構造学研究会 編 https://projectkyoto.jimdo.com/

 

ライター
磯部らん
文筆業・マナー講師
日本酒やモノに関するエッセイや雑誌の取材記事、書籍を執筆。利き酒師として、日本酒と風呂敷・酒席でのマナーについての講師としても活躍。著書に『正しい敬語どっち? 350』『イラストでよくわかる 敬語の使い方』『超入門 ビジネスマナー 上司が教えない気くばりルール』『人から好かれる話し方・しぐさ 基本とコツ』などがある。http://www.isoberan.com/

 

イラスト/田中 斉

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