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【Vol.3】金継ぎ職人は“タイムトラベラー”である!

【Vol.3】金継ぎ職人は“タイムトラベラー”である!

Vol.3 金継ぎの技の継承は伝言ゲーム

 

「金継ぎ」は、日本人ならではの昔からの知恵や粋な文化。割れたところをわからないようにする「とも直し」という技法もありますが、これは割れたところを化学塗料で隠す技法。それを清川さんはしないと言います。本当の金継ぎは割れたところを前面に出す。隠すことではないのです。割れやヒビ、欠けも自然なものとして捉えて、それを新しい景色として甦らせることが金継ぎの新たな美の創造なのです。

漆芸修復師 職人  清川廣樹さん

実際、金継ぎされた赤楽茶碗(本阿弥光悦作 銘 雪峯 江戸時代 畠山記念館)やかすがい補修の青磁茶碗(銘 馬蝗絆〈ばこうはん〉 東京国立博物館)などは重要文化財に指定されており、赤楽茶碗(楽長次郎作 銘 早船 桃山時代 畠山記念館)や、国宝の青磁 鳳凰耳花生 銘「万声」(和泉市久保惣記念美術館)にも金継ぎがなされています。

清川さんは、自然のものを使って、最終的には自然に返すということをモットーに化学素材は使わずに自然由来のものだけで修復をおこなっています。合成接着剤などの化学素材を使用すると破損していた部分が一層傷んでしまうといいます。防腐や防水の面でも漆は優れています。もともと「漆芸」は日本の風土から生まれ、そこに住む人々のために育った技術。日本文化は自然素材の組み合わせによって育まれてきました。 そんな日本文化を暮らしに取り入れ、少しでも日常に伝統技法が寄り添えるよう清川さんは努めています。

最近、清川さんは江戸時代の兎の香合を修復する機会がありました。すでに化学樹脂で修復がされていたので、古来の方法でやり直したいとの要望で、 化学樹脂の部分はすべて削り、土と漆を混ぜたもので、少しずつ耳の形の土台を形成。この作業を4、5回ほど繰り返し、土台を形成し終えたら、耳の形に研ぎ出し、漆でコーティングをしていきます。直しを頼まれることに対して「100年前のものを修復させていただく、なんとも贅沢なひとときです」と表現します。時や時代を経て、作った職人と対話しているような感じなのでしょうか、素敵な言葉で、そこに平安堂さんの真摯な姿勢を感じました。仕上げに銀粉をあしらった上品な兎に。この銀粉も年月とともに、深みのある色に変わっていくそうです。 この兎の香合は錆漆で少しずつ耳を盛り上げ、耳の形に研ぎ、銀粉をあしらうまでにおよそ5カ月。この香合の持ち主である生徒の方には、ほぼ毎週教室に通っていただきながら仕上げていったそうです。金継ぎ教室には、京都の歴史ある料亭の板長さんや、仲居さんなども通っているといいます。金継ぎをしながら、日本料理や伝統工芸の話も。修復の話は日本料理にも通ずる部分があるようで、教室は文化交流の場ともなっているとのこと。モノを大切に愛(いつく)しんで使う日本古来の文化、見直していきたいものです。

兎の修復に関してもそうですが、一度、昔ながらの工程ではないやり方で直してしまうと、それを見た次の世代の人は、修復とはそういうものだと間違って認識してしまうことがあります。

文化財を修復する際には、どのような手順で作られたのかを見極めて、当時の技法と材料で仕上げるそうです。清川さんは、ただ修復するのではなく、その技法を200年後にまで繋げていくことを見据えています。42年この仕事を続けているけれども、江戸時代の職人の技には敵わないと言います。自分には、先人の技や心を学び、それを後世に伝えていく役割もあると考えています。技術継承は伝言ゲームのようなもので、もし少しでも手を抜いてしまうと、それがそのまま後世に伝わってしまう。修復は、納期の関係で時間が十分に取れないこともあります。その際に2工程をせずに完成させた場合、それが後世では通常になってしまうという怖さがあるのです。「技術は少し手を抜くことで後退してしまうんです。その意味で江戸時代はなんといっても、迫力が違います」と清川さんは言います。

江戸時代の職人はまさに命を懸けていた。今の組織の仕組みでやると違うものになってしまう恐れがある。例えば文化財の修復も、にわかな職人さんがおこなうことによって違うものになってしまうことがあるといいます。後世に本物を伝えていくこと、文化を伝えていくためには、末端にたくさんの職人さんがいなくてはなりません。時代を経て、見知らぬ職人から技を学ぶことができるというのは、素晴らしいことでもあり、その技を継承していくことは重要なことであるとわかります。

また修復するときには、当時の風合いを残すことも心がけているそう。すべて綺麗に直すと今のものになる。だから昔のところも残す、それが日本人の本質だといいます。金には悪いものをはね返す力があると信じられてきました。エジプトの遺跡をみてもそうですね。邪悪なものをはね返すことと、浄化の作用も金にはあるとされてきました。お寺などでは、豪華さと自分自身を映し出すという意味合いもあるといいます。

現代においては、一つの物事に掛ける時間が少なくなってきているといわれます。文化財の修復にしても、工期が決まっているので、すべての工程を経ることは難しい。清川さんはそれがジレンマだと言います。金継ぎは過去の想いを未来に繋げていく技術でもあります。第1回、第2回と、タイムトラベルというキーワードで、過去から未来へと想いを馳せることで自由に時間を行き来できる金継ぎというテーマを掲げてきましたが、現代においては、大事な技術を未来に繋げていく時間がきちんと取れないという悩みが発生しています。過去から未来へと、きちんと技を伝えていくためにも、取り組んでいかなくてはならない問題です。

さらに修復の仕事は、漆の木を育てる人、漆かきをする人、漆を精製する人がいて初めて成立するもの。一つ欠けてもいけないのです。「職人は道具に仕事をさせるんだよ」とは、清川さんがよく言うことの一つです。昔は筆を作る人、筆を洗う人、色を塗る人、線を描く人と細かく分業されていたそうです。それぞれの作業にスペシャリストがいた時代。そんな時代に作られたものだからこそ、修復をしてずっと後世に伝えていくことが重要です。だからこそ、昔の職人さんの塗りで生きているところは、それを活かしているのだそうです。昔の風合いは残して悪くなったところだけを直す。すべて新しくしてしまったら、「今の技法」になってしまうからです。

清川さんは国内産の漆をこだわって使っています。現在の日本の国内で使われている漆の98%は外国産。日本の漆を使わなくなってしまうと、漆かきをする職人さんや精製する職人さん、道具を作る人がいなくなってしまう。需要がなくなれば、作る人はいなくなってしまうのだから、値段が高くても日本の漆を使い続けていきたいと語ります。「僕が作業するまでに、携わっている職人さんが何人もいて僕の仕事が成立する。そのすべての職人さんに目を向けてほしい」と清川さんは訴えます。蒔絵の筆がないと漆の世界は成立しなくなってしまう……というのは、有名な話です。

やはり本物の塗の品物は高価なもの、だからこそ生活の中で使い分けることも大事ではないでしょうか。お正月などのハレには本物を。日常には、安価なものを使ってもいい。使い分けることは、今の日本人には特に大事なことのように思います。ハレとケという言葉を最近は聞かれなくなってしまいました。春夏秋冬がある島国だからこそ、自然の恵みをいただくという文化や、外国とは違った、感謝の気持ちを表す繊細な文化が日本には生まれたと思うと清川さんは語ります。清川さんの元には、世界中から人が訪れていますが、日本のモノ作りは世界一だと言ってもらえる。でも、それを日本人は忘れかけてしまっていることも悲しいといいます。

限りある資源のなかで、モノを大切に扱ってきた昔の人たち。自然のものから、焼き物を作り、欠けたら、それも自然のもので直して、いつかは自然に返すというサイクルができていた日本。「金継ぎには、モノを大切にする心があるんです。それは次世代に心と技を伝えてゆくことです」と清川さん。漆芸修復を文化的な意味や価値の側面から表現すると、「自然を調和させ、再生し、美を結ぶ技」となります。モノを再生するために、技によって、自然の素材を調和させ、新たな美を結ぶこと、その心を後世に伝えていくことは日本人としての使命ではないかと思います。

器の歴史の中で生じた割れ、欠け、ほつれ、それを自然と受け止め新たな表情、文様として甦らせる。自然が創り出したものにできる限り忠実に、そして少しばかりの感性を……。それが金継ぎの心です。金継ぎは、過去、現在、未来へと、タイムトラベルをして、その想いを時というものを超えて感じることができるもの。大切なモノを未来へと繋いでいく、金継ぎによる時のロマンを感じてみてください。

 

漆芸舎 平安堂 清川廣樹 〜伝統的技法による漆芸修復 文化財から金継ぎまで〜
平安堂では、陶磁器の割れ、欠けなどを漆工法で修復する金継ぎ教室、漆工法を用いてオリジナル漆器を作り金箔、蒔絵、色漆で文様を施す漆芸教室なども開催しています。
●住所:京都府京都市北区紫野門前町14 ●電話/FAX:075-334-5012 ●営業時間:10時~18時 ●水曜定休
公式HP:https://shitsugeisya.jimdo.com/
公式Facebookページ:https://www.facebook.com/shitsugeisya
参考著書:『「漆芸修復の世界 京都 漆芸舎平安堂」日本文化 自然の構造』
日本文化構造学研究会 編 https://projectkyoto.jimdo.com/

 

ライター
磯部らん
文筆業・マナー講師
日本酒やモノに関するエッセイや雑誌の取材記事、書籍を執筆。利き酒師として、日本酒と風呂敷・酒席でのマナーについての講師としても活躍。著書に『正しい敬語どっち? 350』『イラストでよくわかる 敬語の使い方』『超入門 ビジネスマナー 上司が教えない気くばりルール』『人から好かれる話し方・しぐさ 基本とコツ』などがある。http://www.isoberan.com/

 

イラスト/田中 斉

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