【数奇な運命・4】
近年まで「江戸切子」は存在しなかった?
明治時代に近代化に成功して以降、今日まで順調に発展してきた江戸切子。しかし「江戸から大正あたりのどの文献を見ても“江戸切子”なんてどこにも出てこないんです」と、またしても淑郎さんから衝撃発言が。これまで語られた歴史とは一体??
「西洋のものを下地に始まった経緯から、近年まで江戸切子は“カットグラス”と呼ばれていたんです。工房の初代・菊一郎も江戸切子を『舶来物のカットグラス』と呼んでいたほど。今思えば、40年ほど前に2代目の英夫が、問屋の方のアドバイスで名刺に入れたことが、職人で“江戸切子”を名乗った先駆けだったと思います」
実用品“カットグラス”が、伝統工芸“江戸切子”となったのは、1985年に東京都の伝統工芸に指定されてからのこと。それまでほぼ知名度がなかったものの、その後2002年には国の伝統工芸に全国で唯一のガラス工芸として指定され、2008年の国際会議では国賓への贈呈品に採用されるなど、その名を一躍世界にまで広げたのは周知の通り。
今や日本を代表する伝統工芸となった江戸切子ですが「伝統を背負っているなんてとんでもない。それはあくまで結果論です」と淑郎さん。「ガラスの器を使う習慣なんて、将来はなくなってしまうかも(笑)。だから、技術をいろいろなことに活用していかないと」

その想いを受け継ぐように、今の切子界には小林硝子工芸所の4代目・昂平さんをはじめ、器に囚われない作品に挑戦する若手職人が活躍しています。
山アリ谷アリの数奇な運命に、かたちや名前を変えても受け継がれる技術。今後は、当たり前に身近にある日用品が「じつは江戸切子!?」と驚く機会が増えていく予感!
有限会社 小林硝子工芸所
1908年、初代・小林菊一郎が切子職人になったことから始まった老舗工房。その後、後に2代目となる長男の英夫と共に現在の猿江にて開業。1973年に淑郎が3代目を、また2010年に淑郎の長男昂平が4代目を継ぐ。現在は工房に直売所、切子教室を併設している。
〒135-0003 東京都江東区猿江2-9-6
電話・FAX:03-3631-6457
Mail:del2salusa1@yahoo.co.jp
《直営店》
営業時間:10:00〜18:00(12:00〜13:00は休憩時間)
定休日:祝日
※ 駐車スペースあり。
※訪問時は、前日までに要連絡。
写真・取材・ 文/POW-DER
(参考文献)
●江戸切子―その流れを支えた人と技 / 山口 勝旦
●NHK 美の壺 切子 (NHK美の壺) / NHK「美の壺」制作班 (編集)