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日本一カッコいい変態。宮城県石巻「神経〆師」の目利き

日本一カッコいい変態。宮城県石巻「神経〆師」の目利き

私(筆者)が尊敬してやまない、1人の男性が宮城県の石巻にいます。

日本中の港を回ることを仕事とする私ですが、ここまで魚“1匹ずつ”に向かい合い、そのポテンシャルを引き出そうと奮闘する人を、他に知りません。

私は敬意を込めて彼をこう表現します。
「日本一カッコいい変態神経〆師」

とにかく「数を獲ればいい」。そんな日本の漁業は限界を迎えつつあります。魚価の低迷による「大量漁獲主義」は、さらなる値下げを招き、関係者を疲弊させ、担い手不足や生態系の乱れなど深刻な問題を引き起こしています。そうした「数」が勝敗を決める日本の漁業を「質」を重視する世界へと変える。漁業界のゲームチェンジに真っ向から取り組んでいるのが、この男性「大森 圭(おおもり けい)」さんです。

その取り組みは一つ一つが常識外れ。先人達が「効率化」を目指して築いてきたルールを疑い、ぶち壊し、「大森式流通」という新たな方程式を作り上げます。そんな大森さんの方程式と変態ぶりを「目利き」「神経〆」「届ける」「食す」という4つのキーワードにわけて語りたく、石巻を訪れました。

~目利き~
「魚は尻で見極めろ」

ある日の早朝。日本一の長さを誇るという石巻漁港ではベテラン勢がキビキビと魚を競っています。広すぎる敷地に敷き詰められた魚介の山。その間を足早に通り過ぎながら一瞬で目利きをしていく若い男性、それが大森さん。

他の仲買人が競り人(競りを仕切る方)の後についてぞろぞろ移動するのに対し、大森さんは基本、自分が買うと決めたターゲットから付かず離れず購入の瞬間を狙っています。他の仲買人たちの値付けを見て「安ければ買う」のではなく、自分の目利きを判断基準にしているのが伝わる光景です。

この日、大森さんが確実に競りにいったのはこの「ブドウエビ」。果物の葡萄と似た色で、漁獲量が非常に少なく、幻のエビといわれています。なんと原価で1匹1500円ほど。非常に高値ですが、濃厚な味わいは人気があり、高級寿司屋で1貫4000円の値がつくこともあるそうです。まるでハンターのような競りの仕方。しかし、この方法をとっているのが大森さんだけかというと、ちらほらと同じようにじっと自分の獲物を狙う仲買人は見られました。

これが大森流? 質問しようとしたそのとき、大森さんが動きます。「次の市場へ移動します」。そう、ここからが大森さんの本領を発揮する時間です。

到着したのは石巻漁港から車で1時間ほど。牡鹿半島の南にある小さな漁港。先ほどの石巻市場の数十分の一ほどのサイズですが、違うのは広さだけではありません。ここにいる魚はどれも「生きて」います。

実は大森さんは生きた魚「活魚」を得意とする仲買人。生きた魚を生きたまま、または神経〆など最適な処置を施して、全国の飲食店や小売店に販売をしています

生きた魚を前に、大森さんがどのように目利きをするのか。

一般的には「黒目がはっきり澄んでいる」「エラが鮮やかな赤色」などさまざまなポイントがあります。私がじっと見守る中、真鯛の水槽の前に立った大森さんは1匹の真鯛をそっと引き寄せ、愛おしむように体表を撫で回します。

体表にヌメリがあるのが、網擦れなどない元気な魚。

そして次の瞬間……。

「お尻の中に指を!!!」

お腹と思われがちですが、ここがお尻です。

えっ!? 思わず声をあげた私に、大森さんは真顔のまま仰います。「魚は尻で見極めるんです」。どんなに美しい女性も、中身(性格)が悪ければイイ女とはいえない。それと同じように、魚も見た目だけで良し悪しを判断するのは限界があります。そこでお腹を開く前に少しでも中身を知れないか……そう探求して辿り着いたのが、「お尻で見極める」という方法。

まずは指を入れたとき、ヌルヌルと脂のような感触がある魚は、身にも脂がしっかりのっています。さらに中を探ったときに「ジャリッ」としたものを感じたら甲殻類、「ベロン」という感触なら小魚などを食べて育ったことが予想できるそう。そういって指を抜く大森さん。

なんてマニアックな!と見ていると、おもむろにその指を……自分の口の中へ!

えええっ!!? さらに驚く私。大森さんはひょうひょうと続けます。「こうして排泄物を味わうことで、何を食べて育ったかの判断をさらに正確にできます」

他にも、以前に排泄物を舐めた際「なんとなく血の味がする」と思った魚は、後でお腹を開いたら身に血が滲み出していたなど、健康状態も分かるそう。外から見ただけでは分からない情報が、お尻にはたくさん詰まっているのです。しかし、こんな目利き(尻利き?)をする人は見たことも聞いたこともありません。早くも大森式ならでは、変態級の方程式が見えてきました。その後も次々と生きた魚のお尻を基準に、魚を買い取っていく大森さん。

良いお尻をした真鯛たち。

「お尻に指を……」なんて文字にすると複雑ですが、真剣な表情で1匹1匹に対峙し、その育ち方にまで想いを巡らせる大森さんは、見ていて本当にカッコよかったです。

ちなみにお尻は中だけでなく、外側もしっかり見ています。ボリュームがあり、プリッとハリのあるお尻がいいとのこと。人間と同じですね

私の手描きです。伝わりますか?

あっという間に活魚を運ぶトラックはいっぱいになり、いよいよ大森さんの舞台。神経〆の作業場へ向かいます。 Vol.2「神経〆」の回へ続く

 

●ダイスイ
住所:宮城県石巻市魚町3-13-6
電話番号:0225-25-4421
大森式流通 HP:https://www.omorishiki.com/

 

撮影・取材・文/中川めぐみ
釣りアンバサダー 兼 ツッテ編集長。釣りを通して感じられる日本全国の地域の魅力(食、景観、人、文化など)を発見・発信するため、メディア「ツッテ」の運営や、初心者向けの釣りイベントを実施。自ら全国の港を飛び回っており、2018年は100地域での釣り旅を計画。レアニッポンでは全国の港町で見つけた地域や海にまつわるおもしろいものをお伝えしていきます。https://tsutte.jp

 

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