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日本一カッコいい変態。宮城県石巻「神経〆師」の【お手当て】

日本一カッコいい変態。宮城県石巻「神経〆師」の【お手当て】

私(筆者)が尊敬してやまない、「日本一カッコいい変態神経〆師」。

「数」が勝敗を決める日本の漁業を、「質」を重視する世界へ変えるべく、漁業界のゲームチェンジに真っ向から取り組む仲買人「大森 圭(おおもり けい)」さんの方程式と変態ぶりに迫る連載です。Vol. 2では「神経〆」についてお伝えします。

 

~神経〆~
「それは魚1匹1匹に向き合う“お手当て”」

なかなか衝撃的な映像ではないでしょうか。私は初めてこの光景を生で見たとき、瞬きを忘れるほど釘付けになりました。

はじめにアイスピックのような道具で魚の頭に穴をあけ、ぐりぐり回すような動作。これは「脳殺」と呼ばれる技法で、脳を壊して「死」という信号を止め、旨味の元となるATPという物質の放出を防ぐ目的があります。

次に長いワイヤーを脳殺で開けた穴から差し込み、激しく出し入れする動作。こちらが「神経〆(神経抜き)」と呼ばれる技法で、魚の中枢神経を破壊して死後硬直をゆっくりおこすことが目的です。魚は死後硬直の間に旨味の元となるATPを旨味物質であるIMPへ変化させ、全身へ巡らせます。しかし死後硬直が短時間でおきるとそれらの作用がじゅうぶんに発揮されず、臭みが残ったり、旨味が薄くなってしまうのです。

船上で漁師がよく行う「氷〆(大量の氷で一気に魚を冷やす保存方法)」では死後硬直の時間は一般的に4時間程度。それに比べ神経〆を施した魚は、死後硬直の時間をなんと約24時間にまで引き延ばせます。もちろん神経〆した魚も温度を下げることで死後硬直を早め、24時間が経過する前に血抜きや旨味の循環をストップさせることが可能。つまり神経〆は「24時間のなかで自由自在に、魚の血量や旨味の頂点を調整できる」技術なのです。

今回はあらかじめ済ませてありましたが、ここに「放血」といわれる技法が加わります。「放血」は細菌が繁殖する格好の場となる血液を抜き、長期保存のための耐性をつくる目的があります。

「脳殺」「神経〆」「放血」この3つの技法を組み合わせて、大森さんは魚を最高の状態へ導きます。

ところでこうした処置をする人物は大森さんの他にいないかというと、実は日本中で徐々に取り組む人は増えています。しかし、他の人と大森さんでは圧倒的に違う点があります。それは、魚を「魚種で捉えているか」「1匹1匹として捉えているか」です

真剣に、愛おしそうに真鯛の放血を見つめる。

通常、神経〆などの技術はその方法をノウハウとして蓄積していきます。「この魚種は頭のこの位置に穴を開け、○秒に1度の速度で○回ピックを回して脳死させる。そしてワイヤーはこの位置まで入れて○回出し入れし、放血は○分行う」など、魚種に応じて処置の仕方を整理しているのです。こうすることで技術をより正確に広く伝達することができる。一見正しい考えに思えます。

しかし、大森さんは魚種によるノウハウの蓄積をよしとしません。それは、「一流料亭の出汁」と同じ考えだといいます。同じ鰹節で出汁をとるにも、一流の料理人はその日の気温や湿度をはじめさまざまな条件で出汁のとり方を変えていきます。鰹節の量、厚み、煮出す時間など、単純なノウハウでは太刀打ちができない「経験の積み重ね」でしか辿り着けない域があるのです。

大森さんは魚で最上の域を目指すべく、自分の中で確立しそうになる常識さえも、常に打ち捨て更新する努力を続けているそうです。頼れるのは数えきれないほどの経験値。そして目の前にいる魚がくれる「今」の情報。

私も一緒にペロリ。ほんのりと旨味が。

ところで、最初にご覧いただいた動画で大森さんが尾ビレの切り込みや神経〆後のワイヤーを舐めていたのを覚えていますか? あれは身や髄液の味から、その魚が何を食べて育ってきたのか、身の状態が今どうなっているかを推測しているのです。そうすることで追加すべき処置を考えたり、販売先にどういった調理が合いそうかを提案していくそうです。こうして1匹1匹に対峙するなかで、大森さんはこれらの処置のことを自然と「お手当て」と呼ぶようになったそう。

お手当てに使う道具たち。

目の前にいる魚を唯一の存在として向き合い、どうすれば最上の域に引き上げられるかを考え、お手当てをする。「大量漁獲主義」の現代において、非効率の極みに思えるこのやり方は、常人では続けることができないでしょう。しかし、そんな大森さんだからこそ引き出すことのできる味わいは、もはや芸術的作品。東京をはじめ、九州など全国から「大森式の魚を!」と求める声が止みません。

次は差別化のしようがないと思っていた Vol. 3「届ける」の回で、またもや大森さんが変態ぶりを発揮します。

 

●ダイスイ
住所:宮城県石巻市魚町3-13-6
電話番号:0225-25-4421
大森式流通 HP:https://www.omorishiki.com/

 

撮影・取材・文/中川めぐみ
釣りアンバサダー 兼 ツッテ編集長。釣りを通して感じられる日本全国の地域の魅力(食、景観、人、文化など)を発見・発信するため、メディア「ツッテ」の運営や、初心者向けの釣りイベントを実施。自ら全国の港を飛び回っており、2018年は100地域での釣り旅を計画。レアニッポンでは全国の港町で見つけた地域や海にまつわるおもしろいものをお伝えしていきます。https://tsutte.jp

撮影/久保田彩子

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