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福島県・会津漆器「めぐる」――親から子へ、孫へと受け継いでいきたい器

福島県・会津漆器「めぐる」――親から子へ、孫へと受け継いでいきたい器

2015年に誕生した「めぐる」は、飯椀・汁椀・菜盛り椀が重なる三つ組の漆器です。ぬくもりのある手触りに心地よい口当たり、そしてフワッと包み込みたくなるフォルム。上塗りには国内で使われている漆のうち、わずか数%といわれる稀少な国産漆が使用されていて、使い込むほどに色艶が増していきます。

「今日はこれで何を食べようかな?」そんなふうに、食事の時間をわくわくさせてくれる漆器「めぐる」。モノに対する価値の尺度として“安さ”や“便利さ”が重視されがちな現代。ともすると、漆器のような“手間暇のかかる”存在は敬遠されがち。そんな時代に生まれた、新しい漆器とはどのようなものなのでしょうか?

漆器の産地、会津の現状

「めぐる」が作られている福島県会津地方は、もともとウルシの木が育つ適地であり、縄文時代の遺跡からも漆製品が出土してきた土地です。安土桃山時代には、千利休の弟子であった蒲生氏郷(がもううじさと)という武将が、近江の国(現在の滋賀県)から木地師(きじし)や塗師(ぬし)を連れて会津入りし、漆器生産の基盤を作りました。以来400年以上にわたり、漆器作りは技術革新を重ねながら、今も会津の地に根付いています。

しかし、そんな歴史ある産地も、生活様式の変化や需要の減少などから衰退の一途を辿っています。木地に漆を塗った本物の漆器ではなく、プラスチック素地にウレタンなどの化学塗装をした器も増え、生産額は最盛期の7分の1以下にまで減少。このままでは、職人の本来の仕事がなくなり、産地としてのブランドも崩壊してしまいます。何か手を打たなければなりません。そんななか、誕生したのが「めぐる」です。漆器初心者にこそ最初に使ってもらいたい。これを買ったら間違いない!という漆器が、会津で生まれたのです。

長く使い続けられる本物の漆器

器を手に持っていただく日本の食文化。漆器の魅力の一つ、それは手触りや口に触れたときの感触です。漆器に使われる漆は人肌に一番近い塗料といわれ、独特のしっとりとしたぬくもりがあります。「めぐる」はこの点に注目し、デザイン・商品開発を“目を使わずに生きる人たち”と行いました。「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という、暗闇の中での体験プログラムの案内人として活躍する全盲の女性たちに参加いただいたのです。モノの形や感触を“視覚以外で感じ取る”ことができる彼女たちと試行錯誤を繰り返し、1年をかけて“五感で心地よさを感じる”器のデザインが完成しました。

水平シリーズ(左)と日月シリーズ(右)。 「めぐる」は 禅宗の修行僧が使用する「応量器(おうりょうき)」からヒントを得た、きれいに重なり合う入れ子の三つ組で作られています。応量器には、命の重さ・心の深さ・天地への感謝を学ぶためのデザインが施されており、「めぐる」にもこれらが取り入れられています。

デザインが完成したら、いよいよ実際の制作です。漆器は使い込むことで艶や透明感が増し、味わい深くなっていきます。そんな漆器の魅力がより感じられるよう、「めぐる」の上塗りには上質な岩手県浄法寺産の漆が使われています。ウルシの木から漆が採れるようになるまでには10年以上、しかも1本の木から採れる漆液の量は牛乳瓶1本程度の量(約200ml)と、いかに稀少であるかがうかがえます。

また、漆器作りは主に「木地作り(木を器の形に削る)」と「漆塗り(素地に漆を塗り重ねる)」「蒔絵(色漆や金粉などで模様を描く)」の3工程に分かれていて、塗りの中でも木固め、下地塗り3回、下塗り、中塗り、上塗りと、とても手間がかかります。1つの漆器ができるまでに約10か月を要するといいますが、「めぐる」は会津の職人によって、すべて手作業で仕上げられています。

こうして手間暇をかけて作られた漆器は、修理を重ねながら代々使っていくことができます。長年使って塗膜が薄くなったら塗り直しができ、仮に割れたり欠けたりしてしまっても、漆で補修をすることで新品のように生まれ変わることができるのです。「めぐる」のお直しは、この仕事が将来まで続いていくよう、産地の若手職人たちが担っているそう。さらに「めぐる」の売上げの一部は、会津での漆の植栽活動費として使われています。将来、塗り直しがされる漆へと繋いでいくために……。

作り手が丹精込めて生み出した「めぐる」は、使い手によって育てられていきます。新たな作り手が、新しく育った漆でお直しすることで、親から子へ、そして孫へと受け継がれていく――。「めぐる」を手にした人は「まるで我が子ができたよう」と話されるそうです。これまで筆者にとっても少し縁遠かった漆器ですが、「めぐる」を家族の一員として迎えたい、取材を通してそんな気持ちになりました。

めぐる
URL:http://meguru-urushi.com/

 

取材・文/長谷川梨紗(株式会社くらしさ)
広告出版社を退職後、世界一周の旅へ。海外で受け入れられている日本文化≒COOL JAPANと、日本が学ぶべき海外の文化≒BOOM JAPANを発信しながら40か国を巡る。その後、全国各地に根ざしたモノコトヒトを取材・発信する日本一周の旅へ。現在では、(株)くらしさを立ち上げ、日本各地の「らしさ」を伝え、つないでいく活動に尽力している。

写真提供/漆とロック株式会社

 

 

 

 

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