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【六本木】31年ぶりのわっしょい!朝日神社「こども神輿」復活ストーリー

【六本木】31年ぶりのわっしょい!朝日神社「こども神輿」復活ストーリー

朝日神社 禰宜 綿引 崇さん

日本で生まれた神道がレア!ニッポンに

もともと神道(しんとう)は日本人の生活の身近にあったといいます。神道では「言挙(ことあ)げせず」といい、教えは言葉にして説明するものではなく、神様とともに歩む道が地域固有の伝統として根付いているもの。そもそも日本人同士のため説明をする必要がなかったことも理由だそう。八百万(やおよろず)の神様がいる日本では、地域ごとの神社で違う習俗があっても決して不思議ではなかったといいます。「しかし、時代とともに神社とお寺が区別できない日本人も多くなり、このままではレア!ニッポンになってしまう……」。これからは神道についてもっと言葉にしていかなければならないのではないか。六本木駅から徒歩3分の場所にある「朝日神社」禰宜 綿引 崇さんは語ります。

朝日神社は、940年創建で年間を通してお正月の歳旦祭、2月の初午祭、御田植祭、夏越の祓、ほおずき市、例大祭、新嘗祭、年越の祓などの祭典がおこなわれます。なかでも例大祭は、神社に由緒ある日に行われる特別な大祭。今年は例大祭が9月22日、こども神輿渡御が9月23日に斎行されます。

子どもの少なくなった六本木で、こども神輿を復活!

朝日神社は、昨年31年ぶりとなる“こども神輿(みこし)”を復活させました。「この界隈には31年間、『わっしょい』という掛け声が聞こえることがなかったんです。その掛け声を取り戻したかった」。神輿を担ぐという行事を復活させるのではなく、「わっしょい」という掛け声を復活させたかったという綿引さん。「わっしょい」という掛け声は、”和を背負う” ”和にしよう”といった言葉が語源ともいわれています。みんなで神様を担いで練り歩き、平和で元気な街になってほしいと願う。そんな共同体の願いが神輿にはあります。

綿引さんが小学校の高学年の頃まではあったという朝日神社の神輿。それが、約30年前の六本木都市計画により区営団地などの住宅地域が取り壊され、大人が減り、子どもも減ってしまい、こども神輿の存続が難しくなったのです。それ以来、神輿と山車は蔵の中で長い眠りについていました。4年前、地元住民の関心が神輿に向いたことがあったそうですが、修繕費が思いのほか高く、規模の小さな町会で負担できる金額ではなかったことから断念せざるをえなかったそう。綿引さんは、「一時でも神輿に関心が集まったことは事実。この機会を逃したら、神輿の復活は難しいかもしれない」と、解決の糸口を探すことに尽力しました。

そんなとき、新潟県村上市のとある蔵元の杜氏が朝日神社を訪れます。その方は、朝日村という村で生まれ育ったことから“ご縁”を感じたそうで、杜氏と綿引さんの話は自然と神輿の話題になりました。村上市には「おしゃぎり」という伝統的な山車があり、その作り手である木工師の方が朝日神社の神輿を修繕してくれることに。六本木から新潟までの神輿の運搬も、すべて杜氏や村上市の方々がおこなってくれたそうです。この修繕費用を賄うため、綿引さんは「こども神輿山車修繕事業」と銘打ち、地域の方々にこども神輿の復活について説明をしたそう。しかし地元の町会はわずか50世帯。年代も70代と高齢で、町内に神輿が担げる子はたったの1~2人。担ぐ子どもがいないのに、神輿を修繕してどうするんだという意見も出たといいます。

そのとき、綿引さんが説いたのは「中今(なかいま)」という考え方でした。「中今」とは神道の生き方を示す考え方で、私たちが生きている今は、過去と未来が続いていくちょうど真ん中であるというもの。神々が築き祖先が守り続けてくれたものに感謝し、今を一所懸命に生き、未来の子孫へと引き継いでいく義務があるということ。今は子どもは少ないかもしれない。でも、いずれ新しい街は成長し、子どもは育つもの。未来の子どもたちのために、私たちが現在できることを一所懸命にしましょう、と一人一人に声をかけたのです。少しずつ賛同の声とともに寄付が集まり、観光などで六本木を訪れた人たちも協力してくれるようになってきました。古くからの住民、新しいレジデンスの住民、昔からの地元企業、新しく地元企業となったIT会社など、さまざまな方が神輿の修繕事業を支えてくれたといいます。

日常である「ケ」と、お祭りなどの特別な日「ハレ」。お祭りは、昔から忙しい日常から離れ、ストレスを発散する場でもありました。朝日神社には、40年以上前から大切に保管されていた子ども半纏が80着残されていました。木綿の手縫いの半纏は、長い年月が経っても色あせることなく使うことができたそう。祭り化粧を施し、祭り衣装を着付け、小さな女の子には花笠も。たすき鈴に手ぬぐいを準備して、子どもたちを迎えます。

昨年の復活初回のお祭りでは、2歳のお子さんから小学校の高学年まで、86名のお子さんが参加。六本木の道々に「わっしょい」の声が響きました。実は、復活の第1回を予定していた2016年の神輿渡御は大雨。綿引さんのご友人のご厚意でご神馬も一緒に巡行する予定でしたが、完成した神輿を組み立てるだけで出すことは叶わなかったといいます。そんな思いもあり、昨年のお祭りは大盛況!「大きなお兄ちゃんやお姉ちゃんたちが神輿を担ぐ姿をカッコいいと感じて、子どもたちがお祭りにずっと興味を持ち続けてくれたら」と綿引さんはいいます。

神輿渡御は午後から始まり、芋洗坂~六本木ヒルズのけやき坂~麻布警察署裏の住宅地域へ。休憩しながら3時間かけて担いでいきます。けやき坂ではテレビ朝日と六本木ヒルズ自治会の方々が、ピラミデビルでは森ビルの方々が、こども神輿を出迎えてくれます。「今年は2回目、まだまだこれからです。毎年毎年、周囲の人たちとの関わりを深めて、もっと祭りが賑やかになってほしいです」と綿引さん。かつてあったものを、永遠に失くしてしまうことへの怖れから始まった”こども神輿”の復活。それはゼロからではなく、まさにマイナスからのスタートでした。「私は、後世の人たちが繋いでいけるような“段取り”を整えているんです。未来へと繋げていけるように――」と語ってくれました。

「大人が本気になると、子どもも本気になるんですよ。お金はかけられなくても手間は惜しまない。これも昔の人たちから教わったことです」と、手ぬぐいを一本ずつ丁寧にアイロンがけして準備をします。担ぎ手の募集は、地域住民へのチラシ配布と掲示板。それだけでは子どもの数が少ないので、地域に住んでいない人へのアプローチとしてSNSを活用。朝日神社のFacebookページで募集したところ、30名ものお子さんがSNSをきっかけに参加してくださったそう
今回の取材には、地元の神輿会会長も同席。地域住民の、神社を守り続けていきたいという熱い思いもうかがうことができました。「綿引さんは、一人でたくさん抱え込んでしまうから。もっと周りを頼っていいんだ。後押しするよ」。地元の方々の温かな目に見守られていることを、あらためて実感しました。「昨年の祭りは満点だったよ!」との言葉に、綿引さんも笑顔に

六本木のこれまでを見つめ、未来を願って

六本木の都市開発は、渋谷、新宿、銀座などに比べ、街という大きな単位で変化していったと感じるそう。いずれ、日ヶ窪という古い町名もなくなってしまうかもしれない。しかし、日ヶ窪の名前は、神輿の駒札や半纏に託され、後の世へと継承されていきます。

「いつの時代も、変化の瞬間はあったのです。でも、国際色豊かな六本木の街で、さまざまな国のさまざまな文化を持つ子どもたちの『わっしょい』とともに、こども神輿が再び産声をあげたのですから。変化を後ろ向きに考えるのではなく、未来を願い、もう二度と中断することがないよう、今できることに一所懸命に励んでいきたいと思っています」と語ってくれました。また、「東京都内で同じように祭りの存続を難しく感じている町内会があることも聞いています。一度なくなると、再び復活させることがいかに大変であるか。でも、働きかけることでお祭りを賑やかに復活することもできる。小さな神社でもできることがあるはず。そんなことを知っていただく機会になれば……」とも。

六本木は、これからも計画準備中の5丁目の再開発が始まります。町会も現在の50世帯が、第2次再開発の後には35世帯へと減ってしまうそう。しかし、開発後には新たな住民も増えるのです。新たな住民との関係性は、またゼロからのスタート。でも綿引さんは「町会や自治会の枠を超えて、誰でもいらっしゃい! みんなで六本木を盛り上げていきたいんです」と意気込みます。SNSというツールも取り入れて、周囲を巻き込んでいく力で。六本木の「わっしょい」の輪は、今後ますます広がっていきそうです。

2018年の例大祭 ”こども神輿” は9月23日(日)です。

朝日神社
URL:http://www.asahi-jinjya.com/
※祭り衣装の数には限りがあるため、事前の申し込みが必要となります。詳しくはホームページでご確認ください。

 

取材・文/磯部らん
文筆業・マナー講師。日本酒やモノに関するエッセイや雑誌の取材記事、書籍を執筆。利き酒師として、日本酒と風呂敷・酒席でのマナーについての講師としても活躍。著書に『イラストでよくわかる おとなの「言い回し」』『正しい敬語どっち? 350』『イラストでよくわかる 敬語の使い方』『超入門 ビジネスマナー 上司が教えない気くばりルール』『人から好かれる話し方・しぐさ 基本とコツ』などがある。 http://www.isoberan.com/

撮影/赤石 仁 2017年のお祭り写真提供/朝日神社

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