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【宮城】~カフェと漆と禅寺と~「玉虫塗」のある風景を旅して

【宮城】~カフェと漆と禅寺と~「玉虫塗」のある風景を旅して

さながら仙台のブルックリン。晩翠通りで出会った
ヒトとカルチャーの交差点「SENDAI COFFEE STAND」

杜の都・仙台に、コーヒーが似合わないはずがない。仙台駅や繁華街の喧騒から少し離れた、イチョウやエンジュの街路樹が立ち並ぶ晩翠(ばんすい)通りにある、ちょっと話題のコーヒー店「センダイコーヒースタンド」。“一杯のコーヒーが街を豊かにする”をコンセプトに、自転車での移動販売(現在も「本店」として出動しています!)からスタートしたセンダイコーヒースタンドには、仙台カルチャーを担うさまざまな人たちが集います。スタッフ、観光客も交えた心地よいgood coffee timeは、自然とそこに集まる人々の交流へと繋がり、新たなカルチャーを発信しているようです。「好きなものを集めて、僕らなりのスタイルができあがっていきました」と語る店内を覗いてみましょう。

店内の壁には、スタッフやお客さんが巡ってきた世界中のコーヒーショップのカードが。コーヒーが繋いだ縁、コーヒータイムという豊かな時間の積み重ねを感じさせます
センダイコーヒースタンドでは、世界中から厳選されたスペシャルティコーヒー豆のみを使用し、オーダーが入ってから一杯ずつ丁寧に淹れていきます。誰かの“ひといき”のために
グラスやカップなど食器類にも、センダイコーヒースタンドならではのこだわりが。アイスラテのグラスは、宮城県指定伝統的工芸品「玉虫塗」の技法を注ぎ込んだシリーズ「TOUCH CLASSIC」。

え、これが漆なんですか!? にわかには信じがたいモダンなグラスは、ミルクの白×エスプレッソの茶色×玉虫塗の黒というグラデーションが混ざり合って涼しげです。「このグラスは薄さが際立っているので、ストローを使わずにグラスに直接口をつけて飲んでください、と提案しています」。センダイコーヒースタンドでは、アイスコーヒーにはTOUCH CLASSICのオールドグラスを使用しているそう。

宮城のゆるやかな山の稜線、波打つ海をイメージして玉虫塗で彩られたグラスは、伝統×モダンの新たなスタイルを感じさせます。「ストーリーのある、語りのあるモノが好きなんです。お客さまとの会話のきっかけになるような、丁寧に作られたモノが。それが地元のプロダクトならなおさらです。まぁ、僕らも最近までは知らなかったんですけどね(笑)」。近代工芸発祥の地・仙台では、若い世代が、彼らなりの感性で“工芸を使う”というシーンを紡いでいるのです。

●SENDAI COFFEE STAND
住所:宮城県仙台市青葉区国分町1-3-12 スキャンダルビル 1F
TEL:022-797-1015
営業時間:10時~19時
無休(不定休あり)
URL:http://coffee-stand.com/


TOUCH CLASSICのルーツ「玉虫塗」を求めて
「東北工芸製作所」ショールームへ

波打つようなろくろ線(すじめ)が光沢と陰影を生み出すシリアルボウルは、モダンな黒がTOUCH CLASSIC、シックな赤が玉虫塗です。TOUCH CLASSICのルーツが玉虫塗の伝統的技法であること、玉虫塗の新たなスタイルをTOUCH CLASSICが表現していることを感じさせてくれます。左/TOUCH CLASSIC「シリアルボウル」3000円 右/玉虫塗「シリアルボウル」2000円(ともに本体価格)

■玉虫塗とは――。そして、TOUCH CLASSICとは

仙台生まれの漆芸にして、宮城県の伝統的工芸品である「玉虫塗」は、仙台に設立された国立工芸指導所で、輸出用の国策として1932(昭和7)年に開発されました。海外の嗜好に合う「用の美」を求めて、色、デザイン、質感すべてに熟考を重ねて誕生した新しい漆工の技法。それは「銀粉」を蒔き、その上から染料を加えた「透明な漆」を塗り上げるという独特の技法でした。艶やかに照り返す発色、そして光沢。光の加減で色合いが微妙に変化する幻想的な色調がタマムシの羽根に似ていることから、この名が付けられたといいます。

玉虫塗の発色と光沢が堪能できる、外側も内側も曲面で表現された「ナッツボウル」5800円(本体価格)

■「見る工芸から使う工芸へ」というモノ作りの精神

1935(昭和10)年に玉虫塗の特許実施権を得たのが、1933(昭和8)年創業の「東北工芸製作所」でした。その後、次々と国内外向けに玉虫塗の新商品を製作。1985(昭和60)年には宮城県の伝統的工芸品に指定され、仙台の特産品としてこれまで親しまれてきました。また、東北工芸製作所では、現代のライフスタイルに合うさまざまな新商品の開発も続けています。2011(平成23)年には『戦国BASARA』『ジョジョの奇妙な冒険』など、話題のアニメ化作品とコラボレーション。くらしの中で自然に触れ、味わい、楽しんでいただきたい――。玉虫塗の新たな可能性を追求して東日本大震災後の2012(平成24)年に誕生したのが、新シリーズ「TOUCH CLASSIC」でした。従来の玉虫塗を印象づけていた赤や緑ではなく、黒という“現代のライフスタイルになじむ色”をベースにしたTOUCH CLASSIC。「見る工芸から使う工芸へ」という創業当時からのモノ作りの精神を拡大させた新シリーズ。東北工芸製作所は、TOUCH CLASSICブランドを通して、東日本大震災の被災地域の持続的な復興・振興を目指し、世界に通用する産業振興のモデルケースになりたいと語ります。

素地は、薄く透明度の高い松徳硝子製。センダイコーヒースタンドで使用されているTOUCH CLASSIC「タンブラー」6500円(本体価格)

■玉虫塗の製作工程

玉虫塗は、仙台市青葉区上愛子にある東北工芸製作所「愛子工房」で製作されています。 番号は上写真の左から。素地の状態ごとに説明します。

1~7 「下地作り」
木、金属、ガラス、樹脂などでできた素地を磨いたり削ったりして、凹凸や傷のない、上塗りができる状態にしていきます。

8~12 「中塗り」
漆を塗る、研磨する、を何度も繰り返して、表面を滑らかに強くしていきます。TOUCH CLASSICの商品は、ここからが製作工程になります。

13 「銀粉蒔き」
玉虫塗の最大の特徴である“艶やかな光沢”を生み出す、玉虫塗だけの独特の工程です。漆を接着剤にして、銀(アルミニウム)の粉末を蒔きつけていきます。その後、銀粉の粒子の凹凸を滑らかにするとともに、上塗りとの密着を良くするための工程「銀粉研ぎ」へ。

14~16 「上塗り」
赤や緑の玉虫漆を塗り、研いでいきます。湿度や温度に合わせて適切な塗料の配合を調整し、均一に色を塗っていきます。その後、木製の室(むろ)で一晩から1週間ほど、上塗りの乾きが落ち着くまで自然乾燥させます。

17~ 「加飾」
沈金(模様を彫っていく技術)や蒔絵(漆で絵を描き金粉などを蒔く技術)といった模様を施していきます。ひとつひとつ専門の職人が手作業で、漆器独特の華やかな飾り模様を描きます。

東北工芸製作所の創業の地、上杉にあるショールームでは、定番商品からTOUCH CLASSICまで、さまざまな商品が販売されています。1941(昭和16)年頃、初代社長 佐浦元次郎氏の時代に作られたという、東北工芸製作所のロゴマークが描かれたのれんにご注目! この六角形は東北6県を表し、“手しごとで東北6県をつないでいきたい”という思いが込められているそう。TOUCH CLASSICが誕生した経緯、そして創業当時から変わらないモノ作りへの姿勢。すべてが繋がっていることを感じさせてくれるエピソードでした。

●東北工芸製作所「上杉ショールーム」
住所:宮城県仙台市青葉区上杉3-3-20 1F
TEL:022-222-5401
営業時間:10時~18時
定休:土・日曜、祝日
URL: http://www.t-kogei.co.jp/


玉虫塗で描かれたお釈迦様の生涯!?
塩竈市の禅寺「松巌山 東園寺」釈迦生涯図プロジェクト

「松巌山 東園寺」は、松島瑞巌寺(まつしまずいがんじ)の末寺で、瑞巌寺27世 大林宗茂禅師(だいりんそうもぜんじ)により開かれた禅寺です。この本堂に、玉虫塗を用いてお釈迦様の生涯を描いた「釈迦生涯図」があると聞いて、塩竈までうかがいました。併設する幼稚園の園長も務めるご住職 千坂成也さんは、東北工芸製作所との釈迦生涯図プロジェクトについて振り返ります。

東園寺 住職 千坂成也さん

「お寺にいらっしゃる方々にお釈迦様の話をする際、お子さんにも伝わりやすいよう“お釈迦様の生涯を伝える絵”を設置したいと思ったことがきっかけでした。2005年から始まり、10年ほど前に1枚が完成。その後、東日本大震災を経てもう1枚が今年の6月に完成したんです。思えば、本当に長い時間をかけて制作していただきました」。

本尊釈迦牟尼佛を安置する本堂。その左右の壁に1枚ずつ、2枚の釈迦生涯図が掛けられています

■お釈迦様が生まれてから35歳までを描いた1枚

制作全般を東北工芸製作所、下絵を兵庫県鶏足寺住職 平出全价さん、蒔絵を蒔絵師の渡辺栄一さんが担当。畳一畳分ほどの巨大な絵を10枚制作し、5枚ずつ繋いで2枚の壁画が完成しました。ご本尊に向かって左側の壁には、“お釈迦様が生まれてから35歳まで”が描かれています

薄暗い本堂で輝きを放つ赤の玉虫塗。そこに、蒔絵、螺鈿(らでん)など漆芸ならではの加飾が施されています。蒔絵師の渡辺さんは、花の形などを忠実に表現できるよう、博物館で数々の文献を読みつつ制作に取り組んだそう。六牙の白象の姿でお母さんのお腹に入ったとされるお釈迦様。象の肌は、たくさんのウズラの卵の殻を貼り合わせて制作されました

■お釈迦様の35歳から80歳までを描いたもう1枚

今年の6月に完成したばかり。“35歳から80歳までのお釈迦様”が描かれた、ご本尊に向かって右側の壁画。2011年3月11日の東日本大震災の瞬間、東北工芸製作所の方々、渡辺さん、ご住職は、本堂でこの壁画の打ち合わせをしていたそう。近隣の方々の避難所となった東園寺も地震による被害を受け、制作はしばらく中断せざるをえませんでした。その後、復興とともに思いを繋いできた皆さんは一層の意欲をもって制作に取り組み、13年という年月をかけてこの壁画を完成させたのです

いつまでも眺めていたくなる釈迦生涯図。お釈迦様の後半の人生は、お経にもまとまった記述がなく、ご住職が伝えていきたいエピソードを集めて制作されました

お釈迦様の慈悲を感じさせる、温かな輝きに包まれた本堂。対の壁画が揃った釈迦生涯図は、一般の方でも観覧可能です。

漆のある風景を訪ねた宮城の旅。そこで出会ったのは、次代へと繋ぎ、伝えていきたいと願う人々の思いでした。

●松巌山 東園寺
住所:宮城県塩竈市旭町4-1
TEL:022-362-0777(寺務所)
URL:http://www.toenji.com/

撮影/久保田彩子 取材・文/レアニッポン編集部

 

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