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【神楽坂】登録有形文化財で学ぶ「きもの」。現代の寺子屋に潜入!

【神楽坂】登録有形文化財で学ぶ「きもの」。現代の寺子屋に潜入!

日本人のよさを、もっと海外の方々に伝えたいという思いで活動する「Terakoya Kagurazaka 寺子屋神楽坂」主宰、株式会社ビヨンドワークスの佐々木康裕さんと着物家の伊藤仁美さん。佐々木さんは、26年にわたって勤務していたトゥモローランドで、多くの海外訪問を通して色んな人種の方と触れ合うなかで、日本人の丁寧さ、礼節、きめ細かさに改めてポテンシャルを感じたといいます。しかし、言葉の壁、アピールが苦手な控えめ気質、などを見ていてもったいないと感じたそう。もっと日本人が海外で活躍できる場を広げたいとの思いで開いたのが、寺子屋神楽坂です。

伊藤さんは、京都の建仁寺塔頭両足院に生まれ、和の空間に囲まれて育ちました。法要のときの色とりどりの衣をまとった僧侶がお経を唱える姿の美しさが、きものの世界へと進むきっかけとなりました。西陣和装学院にて師範を取得、さらに婚礼・芸舞妓の技術を身につけ、祇園を拠点に着付けやスタイリング、和装小物の企画に携わりました。2015年より活動の拠点を東京へ。白金にプライベートサロン「enso」をオープンさせました。伊藤さんは毎日きもので過ごしています。妊娠中もきもの、出産後も病院内で浴衣で過ごしたという自身のキモノライフを通じて、きものを身近なものとして提案し発信しています。

東京・神楽坂にある登録有形文化財の古いアパート「一水寮」(いっすいりょう)の一室で定期的に開かれる寺子屋では、日本の伝統様式や技術のワークショップ、イベントなどを堅苦しくなく、時にカジュアルにおこなっています。フランスの匂いがするような雰囲気に惹かれ、神楽坂という場所を選んだという佐々木さん。アパートのリノベーションの仕事で神楽坂を訪れたとき、偶然隣が「一水寮」だったことで、この建物を知ったからだそうです。

■「一水寮」について

一水寮は1951年に建てられた東京都新宿区横寺町に所在する歴史的建造物で、登録有形文化財です。もともとは大工寮として建てられたもので、当時の大工の匠の技も残されています。隣家からのもらい火で屋根、小屋裏を焼失したそうですが、住み込みの大工の手により復旧したといいます。今でも梁が焦げているのは、その名残なのでしょう。その後、数度にわたる改修工事の後、大工寮から一般の賃貸アパートへと使用目的が変更。現在はシェアオフィスとして、ギャラリーや店舗なども入っています。

昭和にタイムスリップしたような歴史的建造物の空間で、本物を体感してほしいという伊藤さん。「日本のお稽古ごとは少し入りにくいので、最初の一歩が踏み出しやすいように心がけています。この空間も楽しんでもらいながら。お稽古ごとが風景とともに心に残り、また行ってみたいと思ってもらいたいんです」。流派に関係なく着付けや茶道をカジュアルに学べる場にしていきたいとも。例えばきものなら伝統的なコーディネートやTPOはありますが、それだけでなく現代の気候や肌感覚に合う着方、帯ときもののコーディネートをファッションとしても楽しめる。そんなライフスタイルに合わせたきものの着こなしを提案していきたいと言います。現代の日々に“日本文化”を。伝統の日本文化と日常との距離を縮めるお手伝いができたら、と話してくれました。

取材させていただいたワークショップは「現代の日常に寄り添うきものの楽しみ方を学ぶ、男性着付けの教室」。粋に見せるちょっとしたコツも交えながら、家で自分だけで着られるよう実習をおこないます。

まずは襟元からのぞく襦袢(じゅばん)の見せ方。首をスッキリ見せたいときには、首から胸に向かって襦袢の見える幅を細くします。肩ががっしりとしている人は、肩からの幅に対して、襦袢の見せ方を少し調整することで、肩幅を狭く見えるようにもできるそう。着崩れてしまうのは、腰ひもの結びが緩いことよりも、きものの皺が取れていないことも原因だそう。体に生地を密着させるように着ると、着崩れにくくなります。少しゆるみを出した着方のほうが、大人の色気を演出できるといいますが、背の中心はズレないようにするのがコツ。

腰ひもは腰骨の下で結ぶように。これは、腰ひもが上がってこないようにするためです。椅子に腰かけるときは、普段より浅めに座ること。深く腰かけると、胸元がはだけてしまいがち。着崩れてしまったら襦袢を下に引っ張いて直しますが、そのときは真下ではなく、着ているきものの皺をとるよう、前身ごろが閉じる方向へななめ下に引くのがコツです。

腰ひもで丈合わせを

男性は身長に合わせてきものをあつらえますが、古着やレンタルの場合には、腰ひもで調整することができます。二重になった腰ひもの間から余る部分を出し、自分の丈に合わせることができるのです。

帯を巻くときのコツ

男性の帯は幅が狭いですが、帯幅の全体をつかむのではなく下線(したせん)を持って締めましょう。帯は、持つ場所で締まる位置が決まるといいます。帯の上側は少し余裕を持たせ、下側がきっちり締まるようにすると緩みもなく、お腹回りもきつくありません。帯はお腹側が一番低く、背中に向かって上がっていくように巻くのがポイントです。

帯はお腹側が一番低く、背中に向かって上がっていくように
貝ノ口

男きものはバックシャンで!

写真の結び方は「貝ノ口」。結び目は真ん中から少しずらすのが粋。背中と脇の間に位置するようにします。貝ノ口を締めるとき帯の生地に皺が入らないようにするとフォーマルな雰囲気に。カジュアルなときにはキュッと結んでもよし、TPOやきものの雰囲気に合わせて、粋な着こなしに挑戦してみてください。簡単でより解けにくい「片ばさみ」(浪人結び)という結び方もあります。また女性と違って、男性は背中の帯上にきもののゆとりを持たせるようにします。

片ばさみ

きものは、各人の体型に合わせて着るのがコツです。またきものの魅力は、たとえ恰幅(かっぷく)がよくなったとしても調整できること。前身ごろの合わせで調整することもできます。身長とのバランスを考えて、結び目から出る帯の長さを調整したりします。背の高い男性は、少し長めに。そうするとバランスがよく見えます。実際に着てみて、自分ならではの着こなしを体得するのが、自然に着こなすコツです。男性の帯は、女性よりもサイズの把握が必要にはなってきますが、1日あれば覚えられるでしょう。

きものの畳み方や脱いだ後の始末まで、一人ひとりの質問にも答えながら丁寧にレクチャー

今回の寺子屋は3名の方々が参加。50代の男性は、人生で初めてきものに袖を通したといいます。家には20代の頃に親が仕立ててくれたきものが眠っているそう。これをきっかけに、きものを着る機会をつくってみたいそう。また別の方も、きものは初めて! 退職後には、きもので生活してみたいそうです。「思ったよりも腰が締まるので、気持ちまでピシッと引き締まりますね。欧米では料理ごとに専用のナイフが用意されますが、日本はお箸1本で食事を済ませることができる。体型に合わせて調整できるきものに、箸に通ずる日本らしさを感じることができました」と感想を語ってくれました。

Terakoya Kagurazaka(寺子屋神楽坂)では、まずは1回で学べるような、お茶やきものの作法について知る機会を設けています。そこから芽生えた興味を、ビジネスシーンや日常に活かしてほしい。そのために必要な礼節を、併せて伝えていきたいと語ります。参加者同士のコミュニティが自然と生まれる空間で、和やかに過ごしてもらいたいとも。実際に、会の最後には自然と名刺交換をする場面が……。

「寺子屋ワークショップによって、きものに興味を持ってもらえたら。引き出しを開けて、受け継がれて眠っているきものに触れてもらえたら。そして、世代を超えた繋がりやストーリーがそこに生まれたら嬉しいんです」と伊藤さん。

佐々木さんは「身近に感じられるよう、わかりやすく日本文化を伝えていきたいです。それも、本物を。日本のよさを知っていただく活動を、ゆくゆくはパリ、ロンドン、ニューヨークなど海外でも行っていきたいですね。そのためのイベントも計画しています」と語ってくれました。

Terakoya Kagurazaka は、まさに現代の寺子屋。神楽坂から海外に向けて発信するのは、日本文化やそれに携わる日本人のスピリッツです。その活動は、まだ始まったばかり。ここから何が世界に発信されていくのか、今後がますます楽しみです。

ビヨンドワークス
URL:http://beyondworks.jp/

伊藤仁美さん
URL:http://hitomi-ito.com/

取材・文/磯部らん
文筆業・マナー講師。日本酒やモノに関するエッセイや雑誌の取材記事、書籍を執筆。利き酒師として、日本酒と風呂敷・酒席でのマナーについての講師としても活躍。著書に『イラストでよくわかる おとなの「言い回し」』『正しい敬語どっち? 350』『イラストでよくわかる 敬語の使い方』『超入門 ビジネスマナー 上司が教えない気くばりルール』『人から好かれる話し方・しぐさ 基本とコツ』などがある。http://www.isoberan.com/

撮影/赤石 仁

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