Close
ad-image
【愛知・豊田】「木桶再生」と「手前味噌」プロジェクトのススメ

【愛知・豊田】「木桶再生」と「手前味噌」プロジェクトのススメ

愛知県豊田市で味噌を天然醸造している「野田味噌商店」4代目 野田好成さんが、「トウキョウ・バレル」と題して100年以上使われてきた直径3メートル、高さ2.8メートルもある木桶を東京で組み立て、多くの人に見てもらう「木桶再生プロジェクト」を立ち上げました。もともと木桶は昭和20年頃まではリサイクルされていたそうで、日本酒や醤油の醸造に使い、最後に味噌にまわってきていたといいます。発酵文化と密接なかかわりのある木桶ですが、木桶を作る職人の減少やコストの問題で、木桶作りの醤油や味噌は数パーセント以下になってしまっています。「人口が多い東京で、実際に本物に触れて、この木桶文化とその技を知ってほしいんです」と語る野田さんは、代々木にある味噌料理店の入り口に木桶を設置することにしました。

木桶をくぐり抜けないと入れない店内。その内部に足を踏み入れると、味噌の香りがふわりとし、木の内面は微生物の名残からか、白い粉のようなものに薄く覆われています。これは、長年味噌桶として使った名残でアミノ酸が結晶化したものだそう。

この木桶は56枚の杉板を周囲から締め付け、竹製の8本のタガと竹釘で作られています。ものによっては150年ももつという木桶。現在は、このような大きなものを作る職人はいなくなっていて、この半分くらいの大きさのものしか作れないそう。昔ながらの作り手はいなくなってしまいましたが、蔵人たちは自分たちで修理をしています! 木桶蔵では、木桶は地面から少し高く上げて置かれています。その理由は風を通すためと、味噌だまりの漏れが発生したときの修理のため。木桶の下にもぐれるよう、あまり恰幅よくなりすぎではいけないそう。「桝塚味噌」には70年から150年ものの木桶が約400本あり、じっくりと味噌を育てています。木桶の寿命は約100年から200年だそうですが、その差は当時の木桶職人の実力や木材の質、またそれまでの使われ方によるといいます。

現在、木桶熟成の味噌は全生産量の2%ほど。「金属製の発酵タンクが並んだ工場」というのが、今の日本の伝統食品文化の現実なのです。しかし、蔵付きの菌や桶付きの菌が、味噌の香りや味をより複雑で豊かなものにしているのは想像に難くありません。この味噌蔵で一番新しい木製でも、なんと昭和23年に作られたもの。このままでは、日本の伝統的食文化が失われてしまうのは時間の問題……と、約60年ぶりに大桶の新調をおこなったそう。木桶味噌の文化、大桶の文化は、次世代へと引き継がれているのです。

桝塚味噌での熟成方法は天然醸造。温度管理をせずに、日本の四季の温度変化に合わせてゆっくりと熟成させる方法です。熟成期間は1年半ほど。それに対して速醸法(温醸法)は、温度をかけながら約半年で熟成させるもの。味噌の種類や蔵ごとの方針で、熟成の方法は異なります。野田さんは、熟成に一番大事なのは「時間」だと語ります。味噌の成分が長い時間を経ていく過程で、結合、分解を繰り返して複雑な味わいになり、旨みも増していくのです。

木桶の内部
木桶が完成!

また野田さんは、家庭で味噌を作ることを推進するワークショップ「手前みそのススメ」も愛知県や都内で月に数回開催しています。手前味噌という言葉は「自画自賛」「自慢」といった意味で使われることが多いですが、語源はかつて多くの家庭で「手前」、つまり自家製で味噌を作っていたことからきています。味噌は配合・環境・時間で家ごとに味が違い、家ごとに個性があります。手塩にかけて育てた味噌を他の人に自慢したことから、現在の意味に繋がったとされているのです。

かつては家庭でも作っていた味噌。昔ながらの手間と時間がかかる製法を守ってきた味噌店として、多くの方に知っていただきたいこととして「かけた手間と時間は愛着や思い出となり、おいしさに変わる」と語ります。手間暇を楽しむことが、手前みその醍醐味の一つなのです。微生物には好みの温度がありますが、ある程度の温度内であれば神経質にならなくてもよいそう。暖かいときには麹菌が働き、寒いときには乳酸菌が働く。おいしさには複雑性が欠かせません。「味はもちろんですが、誰と食べるか。雰囲気であったり、発酵などの知識であったり。作り手の思いも”おいしさ”には含まれていると思うのです」。そう語る野田さんは、味だけでなく作り手のストーリーを知ってもらいながら、おいしいという「感情」が生まれるきっかけづくりができれば、とイベントでも発信をしています。

蔵元 桝塚味噌
URL:http://www.masuzuka.co.jp/

MISO18ヶ月
URL:https://miso18month.wixsite.com/home
URL:https://www.temaemiso-susume.com/

取材・文/磯部らん
文筆業・マナー講師。日本酒やモノに関するエッセイや雑誌の取材記事、書籍を執筆。利き酒師として、日本酒と風呂敷・酒席でのマナーについての講師としても活躍。著書に『イラストでよくわかる おとなの「言い回し」』『正しい敬語どっち? 350』『イラストでよくわかる 敬語の使い方』『超入門 ビジネスマナー 上司が教えない気くばりルール』『人から好かれる話し方・しぐさ 基本とコツ』などがある。http://www.isoberan.com/

 

Close