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【東京バレエ団】柄本 弾×秋元康臣×歌舞伎俳優 中村歌昇 響き合うバレエと歌舞伎の心

【東京バレエ団】柄本 弾×秋元康臣×歌舞伎俳優 中村歌昇 響き合うバレエと歌舞伎の心

歌舞伎屈指の名作『仮名手本忠臣蔵』から生まれた『ザ・カブキ』の魅力

左から中村歌昇さん、柄本 弾さん、秋元康臣さん

この12月、東京文化会館で上演される東京バレエ団の『ザ・カブキ』。バレエ界の奇才、モーリス・ベジャールによるこの作品は、現代の青年が忠臣蔵の世界にタイムスリップし、大星由良之助となって仇討ちを果たすまでの物語です。歌舞伎の名作『仮名手本忠臣蔵』との違いは? 共通点は? 演目や役にかける思いは? 主演をつとめる東京バレエ団プリンシパルの柄本 弾さん、秋元康臣さんが、同世代の花形歌舞伎役者 中村歌昇さんを迎えて語ります。

歌舞伎では「風格ある大人物」の由良之助が、
『ザ・カブキ』では等身大の現代の青年に

中村歌昇(以下、歌昇) 『ザ・カブキ』の前回(2016年)の公演のDVDを拝見しました。物語も、衣装や大道具も、歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』のエッセンスを上手く取り入れていて、「こういうやり方もあるんだ……」と、自分に新しい風が吹いた気持ちになりました。

柄本弾(以下、柄本) ありがとうございます。嬉しいですね。

歌昇 『仮名手本忠臣蔵』は全十一段の長い長いお芝居で、歌舞伎では昼の部と夜の部を通して上演しても、どこかをカットしないと上演しきれないのですが、『ザ・カブキ』は見事にコンパクトにまとめられていますよね。僕らは芝居も歌舞伎舞踊の舞台にも出ますが、物語や心情を表現するのは台詞のある芝居のほうが楽だと思います。ストレートに言語で伝えられますからね。だから、忠臣蔵の世界観や役の心情をバレエで表現する、というのも興味深かったし、面白かったです。

柄本 僕の場合、先にバレエの『ザ・カブキ』で忠臣蔵を観て、その後、歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』を観たので、「この場面にはこんな意味があったのか……」と、歌舞伎によって物語の理解が深まりました。

秋元康臣(以下、秋元) 僕はまだ、歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』は観たことがなくて……。『ザ・カブキ』の大星由良之助を演じる上でも、ぜひ観てみたいと思っているのですが。

2013年12月国立劇場での伝統歌舞伎保存会 研修発表会で中村歌昇さんが演じた『仮名手本忠臣蔵 七段目』の大星由良之助。撮影/二階堂健

歌昇 歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』の由良之助は、50代、60代、70代の座頭級の先輩が演じる役。僕は5年前に研修発表会で一日だけ勉強させていただきましたが、当時24歳くらいだったのかな? 年齢を言い訳にはしたくないけれど、風格や人物の大きさはとても表現しきれませんでしたね。普段の自分の人生をよっぽど深くしないと演じきれない役だと思いました。

柄本 『ザ・カブキ』の由良之助は僕らと同世代の現代の青年が江戸時代にタイムスリップして由良之助になっていく、という設定です。僕が東京バレエ団に入団した時には、このバレエを生み出した振付家のモーリス・ベジャールさんはもう亡くなった後だったので、直接、演出や振付の指導を受けたり、由良之助をどういう人物として演じればよいかを聞くことはできていないんです。だからこれは僕自身の解釈なのですけれど、現代の青年がタイムスリップし、由良之助ではない人物が、本来由良之助がやるべき仇討ちに向かっていく……そんな気持ちで演じています。だからこそ、「決意のヴァリエーション」や討ち入りの場面が感動的になるのだと。

秋元 僕は、生まれた時代は違えど自分は由良之助になるべき人物だったのだということに、徐々に気付かされていく…という解釈ですね。

歌昇 演じ手、踊り手によって解釈が違うんですね! 『仮名手本忠臣蔵』のような歌舞伎の古典演目だと代々受け継がれている絶対的な”型”というものがあるから、僕らの解釈が入り込む余地などまだまだないのだけれど…。これは、お二人が主演する両方の公演を見比べたくなります!

秋元 ぜひお願いします(笑)。同じ自分の由良之助でも、前回と今回ではちょっとずつ違う部分をお見せできるかもしれないですし。

歌昇 バレエって、もっと演出や振付に縛られているのかと思っていました。これは『ザ・カブキ』のような現代作品だから? 古典の時もそれぞれが自分の解釈を入れているのですか?

秋元 基本的な振付はもちろん決まっていますが、演技で表現する部分は人によって変化をつけているかもしれません。

歌昇 そうなんですね! 歌舞伎では、先輩に役を教わったら、初演の時はその通り演じるのが絶対なんです。何度か再演を重ねるうちに、徐々にその人の個性が出てくることはありますが。

柄本 由良之助は僕にとってほぼ初めての主役だったので、最初は無我夢中の状態でした。再演を重ねるうちに、ああしたい、こうしたいが出てくる、というのはわかります。今回もリハーサルしながら、前回よりよいもの、自分らしい由良之助にしていきたいと思っています。

秋元 僕は由良之助を演じるのはまだ2回目なので、この役に関しては自分をあまり出さずに、高岸直樹さんのお話を聞きつつやっていこうと思います。

忠臣蔵で、特に好き&魅力的な
キャラクターは誰?

柄本 忠臣蔵には、主人公の由良之助以外にも魅力的な登場人物がたくさん出てきますよね。僕は入団してすぐから、憧れは塩冶判官。切腹のシーンがとにかく綺麗だと思っていました。バレエって大きなジャンプやテクニックが見どころになることが多いですが、『ザ・カブキ』の切腹の場面は、役どころの男気が出るというか……演じる人が羨ましい。

秋元 僕のことですか? プレッシャーですね……(笑)。

歌昇 あの切腹のシーンは、歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』の切腹の場面に近い緊張感がありました。昔からの口伝ですが、『仮名手本忠臣蔵』で塩冶判官を演じる役者は、その後の長い芝居の中でも他の役を兼ねたりしないで、切腹したら後はお客様の前に顔を出さないようにするものらしいです。僕は見たことはありませんが、塩冶判官が切腹している大道具の後ろでは、家来を演じる役者さんたちがお客様には見えないのにずっと平伏ししているともいいますし……。 とにかく、塩冶判官という殿様がいたから浪士たちは討ち入りへと突き進むわけで、それだけ重い役だと思います。

秋元 ますますプレッシャーが…(笑)。でも、この役は由良之助と比べて、大きい動きがあるわけではないゆえに、細かいところまで歌舞伎に近い動きや所作を習得しないと伝わりません。先日もリハーサルでいざ音に合わせてみると、手の動きだけでも思い通りに行かなくて…。難しいですね。

柄本 僕は討ち入りのシーンも好きなんです。バレエで舞台上に男性だけが47人もいて踊るというのは、なかなかないこと。一番の見どころかもしれません。

秋元 女性のコール・ド・バレエが見どころになっている作品はたくさんありますが、男性が迫力を出せるのは忠臣蔵という日本の物語ならではかもしれません。

柄本 今回の公演では高師直も演じます。出番自体は多くないのですが、悪役が光れば塩冶判官がより際立つと思うので、いかに憎々しくできるかが、これからの課題です。

歌昇 師直は“巨悪”でなければダメなんです。五、六段目の勘平が切腹する悲劇をはじめ、四十七士のドラマはすべて、師直を討ち取るためなのですから。

柄本 忠臣蔵が面白いのは、場面によって主役が変わっていくこと。松の廊下から切腹までは塩冶判官の物語ですが、そこでいかに高師直の役で濃い主張ができるかと考えています。

歌昇 僕が『ザ・カブキ』で面白かったのは伴内。歌舞伎とはちょっと違う場面にも登場して「あ、ここにも出てきた!」と新鮮でした。衣裳の配色もとても可愛かったし、あの役、やってみたいですね……。それにしてもベジャールさんは数ある歌舞伎演目の中から、よく『仮名手本忠臣蔵』をモチーフに選びましたよね。隈取りとか荒事とか、海外の方のイメージする“KABUKI”とは違って、忠臣蔵はとても日本的な物語。戦後すぐは“仇討ちを推奨するのはよくない”とGHQに上演を禁止されたこともあったくらいなんですよ。

真逆の基本形から広がる
バレエと歌舞伎舞踊の美

歌昇 ところで、お二人にお会いしたらぜひ聞いてみたかったのですが、バレエの舞台に立つ時って、自分のことをどう客観的に見ているんですか? 僕は“客席でもう一人の自分が観ているような気持ちで”と教えられて育ってきたのですが。

柄本 バレエの稽古場には鏡があるので、自習は鏡を見ながら“どう見えているか”を意識するようにしています。

歌昇 歌舞伎舞踊ではもちろん形の綺麗さも求められるけれど、形だけではない部分に表現の幅があると思うんです。でもバレエを観ていると、一つ一つの形が肉体的な美の極致に感じます。指先までの神経の届き方、もっというなら踊り手の筋肉のつき方まで、すべてが絵面にハマるというか。

秋元 まずは鏡で確認しながら形を綺麗に作る。動いているうちに、そこから自然に気持ちなど内面的なものが加わってくるという感じでしょうか……。

柄本 逆に僕らが歌昇さんに聞きたいのは“すり足”ですね。

歌昇 いやいや、どう考えてもバレエのジャンプや回転の方が大変な気がしますけど…。お互い、体の使い方が違うのでしょうね。

柄本 バレエって股関節を開いてできるだけ重心を高くするのが基本ですが、歌舞伎の所作は真逆ですよね?

秋元 毎日、筋肉痛との闘いですよ(笑)。

歌昇 “すり足”は、お能から取り入れられた足運びで、腰を入れた状態で、つま先をあまりあげずに足の裏全体ですり前に進みます。“重心は低く”が基本ですから、確かにバレエとは真逆ですね。

柄本 そんな歌舞伎の要素を取り入れた『ザ・カブキ』では足を大きく開いて、腰を落とした状態のままジャンプするなど、クラシック・バレエには絶対ない動きもあるので、もう、足がパンパンで(笑)。

歌昇 逆に僕はバレエの何番とか、いろいろな足のポジションがあってよく足がつらないなと思いますけれど……。お話ししてみるとバレエと歌舞伎では、いろいろと違いがあって、でもいろいろと共通項もあって、今日はいい刺激をいっぱいいただきました。1月の新春浅草歌舞伎では舞踊の演目にも出演しますので、ぜひ観にいらしてください!

柄本 こちらこそ、今日はありがとうございました。『ザ・カブキ』の由良之助は演じるたびに気付くものが多い役です。今回はよりグレードアップしたものをお見せできればと思っています。

秋元 今回は初日に塩冶判官、2日目に由良之助を演じます。それぞれの役を大切に演じきり、判官が由良之助に耳打ちをする場面では、自分が演じる次の日の役につなぐような気持ちで臨みたいと思っています。

●東京バレエ団『ザ・カブキ』
日時:2018年12月15日(土)・16日(日) 14時〜
会場:東京文化会館
振付:モーリス・ベジャール
音楽:黛敏郎
予定される主な出演者:
12月15日(土)
柄本弾、上野水香、永田雄大、秋元康臣、森川茉央、岡崎隼也、川島麻実子、宮川新大
12月16日(日)
秋元康臣、奈良春夏、森川茉央、樋口祐輝、柄本弾、井福俊太郎、沖香菜子、池本祥真
お問い合わせ:NBSチケットセンター 03-3791-8888
URL:https://www.nbs.or.jp/main/ticket.html
※2019年7月にはオーストリアのウィーン国立歌劇場と、イタリアのミラノ・スカラ座での上演を予定。

柄本 弾さん プロフィール
京都府京都市出身。5歳よりバレエを始める。2008年に東京バレエ団に入団し、『ドナウの娘』で初舞台を踏む。主演作品に『ザ・カブキ』由良之助、マラーホフ版『眠れる森の美女』デジレ王子、『ジゼル』アルブレヒト、『ラ・バヤデール』ソロル、『ドン・キホーテ』バジル、『ラ・シルフィード』ジェイムズ、『くるみ割り人形』くるみ割り王子、『白鳥の湖』ジークフリート王子、『ボレロ』。

秋元康臣さん プロフィール
神奈川県出身。3歳よりバレエを始める。2000年、12歳でボリショイ・バレエ学校に留学。06年18歳で同校を卒業。05年モスクワ国際バレエコンクールでファイナリスト、06年タンツオリンプ第3位。14年ペルミ国際バレエコンクール“アラベスク”で銀賞を受賞。国内のカンパニーを経て、チェリャビンスク・バレエに入団。プリシパルとして活躍する。15年夏、東京バレエ団にプリンシパルとして入団。

中村歌昇さん プロフィール
1989年生まれ。播磨屋。中村又五郎の長男。1994年6月、歌舞伎座『道行旅路の嫁入』の旅の若者で四代目中村種太郎を名乗って初舞台。2011年、『菅原伝授手習鑑』車引の舎人杉王丸ほかで四代目中村歌昇を襲名。2018年12月は国立劇場『通し狂言 増補双級巴』に大名田島主水、早野弥藤次役で出演。2019年1月の新春浅草歌舞伎では『戻駕色相肩』の浪花の次郎作実は石川五右衛門ほか、第1部と第2部で4つの演目に挑む。

撮影:笹口悦民(SIGNO) ヘア&メイクアップ:杉野智行、東みさと 構成・取材・文:清水井朋子 編集:宮本珠希

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