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【鳥取県八頭町】田舎には本当に何もない? みんなが帰ってきたい町への「トリクミ」

【鳥取県八頭町】田舎には本当に何もない? みんなが帰ってきたい町への「トリクミ」

郡家、船岡、八東の旧3町が平成の大合併で一つになった鳥取県八頭町(やずちょう)。人口2万人にも満たない小さな町は、周りを見渡せば必ず視界に山が入り、のどかな田園風景が広がっています。そんな田舎町に今、新たな風を起こしているのが古田琢也さん、その人です。地元の同級生と地域を盛り上げようと小さな活動から始め、今では3店舗のカフェやゲストハウスの運営、さらに廃校舎をリノベーションした複合施設の運営会社の代表も務める31歳です。

隼駅前の農協跡地をリノベーションしたカフェ「HOME8823」

「いろいろなことが重なったんです。自分も独立願望があったし、大好きな鳥取を楽しくしたかった。鳥取の人は、田舎には何もないと思ったりするんです。それを変えたくて。鳥取を、みんなが帰ってきたくなる町にしたかったんですよ」。

昔から絵が好きだった古田さんは、高校卒業後に大阪のデザイン専門学校に進み、就職を機に21歳で上京しました。著名なデザイナーの下で働き、大手企業の広告を手掛ける日々。デザイナーとして順調に歩んでいるように見えて、沸き起こっていたのは違和感だったそう。「基本的には企業の依頼を形にしていくので、すべてを自分たちで生み出しているわけではありませんでした。もっと、近くの人が喜んでくれるような、顔の見える仕事がしたいと思い始めて……」。

「自分たちで面白い町に」。同級生7人での始動

そんな時、転機が訪れました。都会に出てからも定期的に帰るほどの地元好きで、帰るたびに気のおけない仲間と飲んでいたそうです。ある日、友人の思いがけない一言が古田さんに突き刺さりました。「地元にいる友人たちから『お前は鳥取に住んでいない。たまに帰ってくるから楽しいんだろ』と言われました。僕は東京に行っても、どこにいても鳥取が好きでしたから、同じマインドで育ったと思っていた仲間の言葉がショックでした。だったら町が面白くなることを、自分でやってやろうと思ったんです」

「トリクミ」代表 古田琢也さん 1987年生まれ。鳥取県八頭町出身。地元の高校を卒業後、大阪のデザイン専門学校で学び、東京のデザイン会社にデザイナーとして就職。5年前に地元の活性化のため、任意団体「トリクミ」を立ち上げ、その後株式会社化。カフェ「HOME8823」、ゲストハウス「BASE8823」をオープンさせ、現在は旧隼小学校を改修した「隼Lab.」を運営する株式会社「シーセブンハヤブサ」の代表も務める

思い立ったら行動に移すのが早い古田さん。彼の誘いに元野球部の同級生7人が集まり、立ち上げたのが任意団体「トリクミ」でした。それぞれが自分の仕事を持ちながら地元のイベントで企画を考えてやっていましたが、ある日地元の人に「隼駅前にある農協跡地をなんとかできんか?」と持ちかけられます。「この依頼はさすがに断ろうと思いましたね。一日何人が駅を利用するかわからない。人が来るような場所じゃないですから。あの場所で商売は、さすがにできないだろうと思いました」と振り返ります。「だから、決して僕からはやろうと仲間に言いませんでした。やるなら本気じゃないとダメだと思いましたから。でも、北村がカフェをやろうと言い出したんです」

この話に真っ先に手を挙げたのが、飲食店で働いたことのない、当時工場勤務の北村直人さんでした。「『俺に考えがある』と言って、2~3日後には、京都で飲食業に就いていた(竹内)和明を料理長として来てくれるよう口説いてきたんです」。自身の思いが仲間へと広がった瞬間だったのでしょう。古田さんは笑顔で懐かしみます。こうして、2014年4月、隼駅前にカフェ「HOME8823」が誕生しました。

東京でデザイナーの仕事もする古田さんが、ロゴデザインなどを担当

こんな辺鄙(へんぴ)な場所に誰が来るだろうと思われた店は、今では近所のお母さんグループや高齢者、若者世代と幅広いお客さんに愛される店となっています。そこにある風景はスローガンに掲げる通り、まさに「ちいきの台所」そのものという印象。古田さんも「単におしゃれなカフェでは何も変わらない。地域の人たちが集まって、コアな熱気が集まる場所にしたかったんです」と話す通り、地域の人々が集まり、顔を合わせ、おいしいご飯を食べ、会話をし、人と人とがつながっています。

HOME8823の1階。奥には大人数のパーティができるスペースもあります

2階の「PARK8823」は、子どもが遊べるスペースを完備した座敷スタイル。平日でも小さな子どもを連れたお母さんたちが集まり、のびのびと遊ぶ子どもたちの横でくつろぐお母さんの姿が見られます。

2階のPARK8823は、お母さんや子どもたちがくつろげるスペースとして人気

ゲストハウスを創設し、交流人口が増加

少しずつ、しかし着実に、地域の「内需」を拡大してきた古田さん率いるトリクミ。次に着手したのは、外から訪れる交流人口を増やすことでした。活動の拠点となっている同町の隼地域は、スズキの大型バイク「隼」と同名の駅があることで、バイカーが多く訪れていました。が、宿泊場所が町内になく、滞在時間の短さが課題となっていたのです。

(画像提供:トリクミ)

そこで、トリクミのメンバーはクラウドファンディングなども活用して築80年の古民家を改修し、バイカーたちが気軽に泊まれるゲストハウス「BASE8823」をオープン。HOME誕生から2年後のことでした。

(画像提供:トリクミ)

ここでも、“共有”することを大事にしたと古田さんは語ります。地元の大工さんに本格的な工事はお願いしながら、ペンキ塗りや芝植えなど、できることは自分たちでやったそう。「“自分たちが関わった場所”と認識してもらい、ファンになってもらうことが大事なんです」。これを機に、中学以来初めて再会した同級生が再び遊ぶようになったり……この“場”が、共有から交流へとつながっていったのです。

今では、広い中庭を使った少人数のゲストウエディングや音楽ライブ、さまざまなイベントも展開。夏場はバーベキューが人気で、バイカーや宿泊客、地元住民が焚き火を囲みながら交流の輪を広げているほか、施設前に借りた田んぼではみんなで田植えを体験し、ピザ窯も作りました。収穫した米をHOME8823で使うなど、おいしい食材を自給自足する仕組みも増やしているそう。

(画像提供:トリクミ)

熱意が広がり、周囲にも少しずつ変化が

熱意あるトリクミの活動は、どんどん人を惹きつけています。BASE8823ができるタイミングで、東京から1つ年下の山田 景さんがUターンを決意。さらに、何度も隼を訪れていたバイカーの山村俊太さんが会社を退職して移住してきました。

現在は正社員が8人。「北村以外はみんなUターンやIターン。四大卒もいなくて、冗談でドロップアウト人材と言っています(笑)。でも、うちは苦手なことをやるよりは、自分たちの個性を生かしてほしくて。楽しくないなら、やる必要はないと言っています」と笑います。一方で、「自由を勝ち取るために、数字にはこだわっています。そこには妥協せず、みんなが長所を生かせているのが理想ですね」と経営理念を語り、社長としての顔をのぞかせます。

小学校や中学校に講演に赴く機会もあるそうで、「この町の大人はかっこいい!と、下の世代に憧れてもらいたい。そこは常に意識しています」。自分たちの町を愛し、誇れるようにしていこう――。一切のブレがない古田さんの思いは、徐々に実を結んできています。「初めは『失敗するのではないか』という目で見られていたと思います。でも、今は違います。周囲の人たちが僕たちを受け入れてくれて、やったことがないことも応援してくれる雰囲気に変わってきています」と嬉しそうに話し、最後にこう付け加えてくれました。

「HOME8823とBASE8823を作ったじゃないですか。HOMEとBASEで『ホームベース』になるんですよ。僕らは最初、野球部の仲間で始めたので。野球って、仲間で協力し合って点を取るんです。そして、最後はホームベースに帰ってくる。完全に後付けなんですけど、そんな風に“みんなが帰ってくる、帰ってきたい町”にしたいですね

社員やアルバイトを含めたトリクミのメンバー

●株式会社トリクミ
URL:http://torikumi.co.jp/

撮影・取材・文/朴楽(bokura)
鳥取市在住のライター、フォトグラファー。「人生を豊かに」をテーマに、丁寧な取材を心がけ、地域の人々の暮らしや生き方、そこにある魅力を伝えるべく活動中。

編集/くらしさ

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