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【鳥取県八頭町】廃校リノベーションで生まれた複合施設「隼Lab.」

【鳥取県八頭町】廃校リノベーションで生まれた複合施設「隼Lab.」

2017年夏に校庭スペースで開催した「PICNIC DAY」には、多くの来場者が訪れました

「やっぱりこの場所から、子どもたちの声がなくなってしまうのは寂しかったんです。みんなの思い出が、薄れていってしまうというか……」。鳥取県八頭町(やずちょう)の隼地区で、飲食業やゲストハウスを経営する「トリクミ」代表の古田琢也さんは、大きな挑戦となったプロジェクトのことを少しずつ語ってくれました。インタビューの場所は、さまざまな用途で活用されている複合施設「隼Lab.(はやぶさラボ)」。つい2年前までは、地元の子どもたちが通う小学校だった場所です。

八頭町が旧隼小学校を改修した「隼Lab.」

人口減少は全国で起きている問題ですが、人口が集中する大都市と比べ、それが顕著なのがいわゆる田舎です。八頭町も例外でなく、隼小学校があった旧船岡町には大江、船岡、隼と3つの小学校がありましたが、少子化の影響で、2017年3月に3校が船岡小学校に統合。約30人が通っていた隼小学校は廃校となりました。しかし、ピンチはチャンスといいますが、チャンスに変えようという動きがあったのです。

地方創生が全国的に叫ばれていた当時、町が総合戦略の一つとして計画していたことに、ITを活用した「イノベーションプロジェクト」がありました。ちょうどその拠点となる場所が必要で、この空き校舎に白羽の矢がたったのです。2億円近い工事費がかかった改修は町主導で施工。問題は、誰がその運営をしていくか……でした。変わろうとしている町に興味を示し、その可能性に出資する企業が集まり始め、最終的に地元銀行やIT企業、大手映像制作会社など民間企業7社が揃い、合同出資会社「シーセブンハヤブサ」を創設。その代表にはプレイヤーとしてプロジェクト引っ張っていける存在、トリクミの古田さんの名前が挙がりました。

町を背負っての事業です。失敗したら、親も含めて、もうこの町には住めなくなるんじゃないかと思うくらい怖かったですし、葛藤は大きかったです」。実際、船頭役となることを2度断ったそうですが、困難な道にこそ挑んでいくのが、古田琢也という人です。

右が古田さん

「ラボできあがってから、周りで批判するのは簡単です。『もっとこうしたらよかった』とか『これは微妙』とか。自分も、やらなかったらそんなことを言うかもしれない。でも、それって、カッコ悪いんじゃないかと思ったんです」。一念発起、覚悟を決めてオファーを受けることにした後も、オープンまではプレッシャーとの戦いの日々だったそう。

無事に迎えた2017年12月のオープニングイベントには、なんと1000人もの人が集まり、会場を埋め尽くすほどの熱狂ぶり! それだけでも期待の大きさを感じますが、実際には、走り出してからの反応のほうが「予想以上でした」と振り返ります。

広々とした校庭には芝生が敷かれ、イベントは多くの人たちでにぎわいます

元学校ならではの多様性

施設は3階建てで、1階は交流の場。トリクミが経営するカフェ「San」が入居するほか、その一角は多目的スペースとしてヨガ教室や地元の老人会の体操などに使用しています。Sanは広々とした屋内スペースのほか、屋根付きの屋外席もあり、夏場はバーベキューも楽しめることもあって鳥取市方面から訪れる若いお客さんも増えています。

1階のカフェ「San」のテラス。夏場はバーベキューなどで満席状態の人気ぶり

2、3階は多種多様な企業が集まるシェアオフィスやコワーキングスペースとして活用し、新たなビジネスの創出や拡大を狙っています。シェアオフィスはすでに全13室が埋まり、3件ほど「待ち」があるほどの人気ぶり。「当初の予定では、2〜3年かけてにオフィスが埋まっている計画でしたから」と古田さん。嬉しい誤算でした。

もともと学校だったことで、使い勝手のよさは多方面に及びます。それが隼Lab.の最大の強みといえるかもしれません。図工室は大阪府から鳥取にUターンしたイラストレーターのひやまちさとさんら地元のアーティストが創作活動をする場に、家庭科室は料理教室に、図書室はシェアライブラリーや写真展のスペースに。古田さんいわく「大人が自由に色々学べて挑戦できる、大人の学校なんです」。

図工室を製作活動の拠点としているイラストレーターのひやまちさとさん

イベントも月に20本くらい開催。講演会では、高級家具ブランド「カッシーナ」の元社長やヤフーの会長、大手クラウドファンディング「CAMPFIRE」の家入一真さんなど、なかなか地方で聴く機会のない講師陣が登壇しています。

1か月に20本程度のイベントを開催しています。

化学反応で起業熱が高まる

さまざまな人が行き交う場となり、化学反応はさらに活発になっていきます。地元の農家5人が農業体験と農産物の販売を手掛ける株式会社「隼えにし」を設立。仕掛け人の東口善一さんは「ここにくるすごい人たちや頑張っている人たちに刺激を受け、何かわしらもできんだろうかと思いました。(隼Lab.という)拠点ができただけじゃだめですから」と笑顔で話してくれました。

一方、ラボのコワーキングスペースのマネージャーを務めていた主婦の藤田芳美さんは、1階の空き店舗を借り受け、女性がスキルを活かして働ける場とお母さんたちが安心して買い物ができる店を併設した「cocoto+(ココト)」をスタート。シェアオーナー制で日替わりのオーナーが事業を展開し、常設で子どもに優しい食材などを扱い、じわじわと利用者の輪を広げています。

ママがチャレンジする場、安心して買い物ができる場となっている「cocoto+」

隼Lab.がきっかけとなった創業も半年で5件に。3年で5件だった目標をはるかに上回るペースとなっています。各分野に精通した人材が揃い、ビジネスサポートが充実していることも要因の一つと思われます。現在でも、豪華な講師陣を揃えた本気の経営塾「隼アカデミー」を作り、十数人の経営者や起業を考える人たちが切磋琢磨し、新たな展開に繋がっていきそうです。

2階のコワーキングスペース。CAMPFIREの家入一真さんの講演には100人が詰めかけました

地域に新しいカルチャーを生む拠点

2年前に誰が想像していたでしょうか。カフェ営業やシェアオフィスの活用、年2回の「PICNIC DAY」など大小さまざまなイベント。小学校だった場所は、前向きに、楽しむパワーを確実に生み出しています。古田さんによると、累計ですでに3万人がここを訪れているのだとか。それでも古田さんの目は、さらに先に向いています。

「まだ、満足はしていないんですよ、たくさんの人に来てもらうことは大事なんですけど、来場数はこの場にとっての価値ではないんです。ここで新しいカルチャーが生まれ、新しいチャレンジが生まれることが重要なんです。もっともっと、生まれてほしいんですよ」と古田さん。手応えと、さらなる可能性への期待を、その顔ににじませます。

「トリクミ」代表 古田琢也さん 1987年生まれ。鳥取県八頭町出身。地元の高校を卒業後、大阪のデザイン専門学校で学び、東京のデザイン会社にデザイナーとして就職。5年前に地元の活性化のため、任意団体「トリクミ」を立ち上げ、その後株式会社化。カフェ「HOME8823」、ゲストハウス「BASE8823」をオープンさせ、現在は旧隼小学校を改修した「隼Lab.」を運営する株式会社「シーセブンハヤブサ」の代表も務める

●隼Lab.
住所:鳥取県八頭郡八頭町見槻中154-2
URL:http://hayabusa-lab.com/

撮影・取材・文/朴楽(bokura)
鳥取市在住のライター、フォトグラファー。「人生を豊かに」をテーマに、丁寧な取材を心がけ、地域の人々の暮らしや生き方、そこにある魅力を伝えるべく活動中。

編集/くらしさ

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