Close
【岩手山の四季】盛岡人を365日見守る「静かな絶景」

【岩手山の四季】盛岡人を365日見守る「静かな絶景」

ふるさとを思い出すとき、誰しも一つは、心に焼きついた風景があるものですよね。盛岡市民にとっては、「岩手山」がそんな存在かもしれません。左右対称ではないアシメトリーな稜線をなす独特のバランスは、幼い頃からその山を眺めて育った盛岡人にとって「美意識の物差し」だと言った人もいます。「今日の岩手山はキレイですねえ」とか「今日は岩手山が見えませんね」といった挨拶が、あちらこちらで聞こえます。盛岡の日常に、この”静かな絶景”はすっかり溶け込んでいるのです。

盛岡の町中から望む「岩手山」

さて、そんな「岩手山」のプロフィールを簡単にご紹介しましょう。標高2038mの県内最高峰であり、日本百名山の一つに数えられる山。登山者にも人気で、山頂を目指すルートは7コースもあり、登山初心者から上級者まで楽しめます。数多くの高山植物が季節ごとに咲き、日本でも有数のコマクサ群生地としても有名。東側のなめらかな稜線を称して「南部片富士」と呼ばれたり、残雪の模様が鷲の形に見えることから「巖鷲(がんじゅ)山」と呼ばれたり。見る角度や地域によって、多様な表情を見せるのが「岩手山」の面白さです。

春の岩手山の魅力

春、田植え直前ならでは!水鏡の美しさあふれる風景

夏の岩手山の魅力

毎年6月の風物詩「チャグチャグ馬コ」も、「岩手山」が見守っています
8月16日、北上川で催される送り盆行事。夕暮れの「岩手山」のシルエットが郷愁を誘います

秋から冬へと……

冬、「岩手山」の初冠雪は、岩手の定番ニュース!

盛岡の町中には高層ビルがほとんど建っておらず、建物の合間や車窓など、さまざまなところから「岩手山」を眺めることができます。そう、振り返れば、そこに山はあるのです。岩手山を見上げつつ「今日も頑張ろう!」と思う人は多いかもしれませんね。

ところで、太平洋戦争中に岩手県花巻市で疎開生活をしていた彫刻家・高村光太郎が、「岩手山の肩」という一編の詩を詠んでいます(昭和23年1月1日の新岩手日報/現・岩手日報に掲載)。美しさと無骨さと大らかさを併せ持つ「岩手山」を感じる作品なので、引用して紹介します。

「岩手山の肩」  高村光太郎

雪をかぶつた岩手山の肩がみえる。
少し斜めに分厚くかしいで
これはまるで南部人種の胴體(トルソオ)だ。
君らの魂君らの肉体君らの性根が
男でもあり女でもあり、
雪をかぶつてあそこに居る。
あれこそ君らの實體だ。
あの天空をまともにうけた肩のうねりに
まつたくきれいな朝日があたる。
下界はまだ暗くてみじめでうす汚いが、
おれははつきりこの眼でみる、
岩手縣といふものの大きな圖態が
のろいやうだが変に確かに
下の方から立ち直つて來てゐるのを。
岩手山があるかぎり、
南部人種は腐れない。
新年はチャンスだ。
あの山のやうに君らはも一度天地に立て。
(筑摩書房「高村光太郎全集 第三巻」に収録)

盛岡市内から、遠く眺める「岩手山」

SNSでも「岩手山」とタグ検索すれば、たくさんの写真や投稿が見つかることでしょう。でも、やはり岩手の地で、岩手山を前にして、山のさまざまな表情と出合い、その堂々とした佇まいを感じてみてほしいもの。そう、山はずっとそこにいて、いつまでも待っていてくれるのですから。

取材・文/水野ひろ子
岩手県在住フリーライター・エディター。岩手を中心に、北東北の食、街、地域の暮らし、工芸、地方ビジネス等の取材、企画編集物制作を行う。また、有志と立ち上げた編集ユニット「まちの編集室」にて、地方誌「てくり」を発行。ホームスパン作家とのコラボによる商品開発も行っている。

編集/くらしさ

Close