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【飛騨高山】白洲正子が愛した、暮らしの道具「有道しゃくし」

【飛騨高山】白洲正子が愛した、暮らしの道具「有道しゃくし」

「奥井木工舎」有道しゃくし

白洲正子が「杓子の王者」とたたえた「有道しゃくし」

「有道(うとう)しゃくし」は、岐阜県高山市久々野の有道地区に、江戸時代より伝わる木のしゃくしです。冬の農閑期、主に汁用として作られてきた有道しゃくしは、温かみと機能美に溢れた”暮らしの道具”。鍋の具材に刺さることなく形も崩しにくい、具材をしっかりすくえて逃がさない、鍋にあたったときの音は優しく傷もつきにくい、継ぎ目がないので軽くて丈夫……と、いいことずくめ。材料となるホオノキ(郷土料理”朴葉味噌”の朴葉とは、ホオノキの葉っぱのこと)は比較的やわらかく、素朴な色合いを持つ白木で、乾燥しても形が変わらないそう。随筆家・白洲正子が著書『日月抄』(世界文化社刊)の中で、”杓子の中の王者”とたたえた「有道しゃくし」の魅力とは。数少なくなってしまった作り手の一人「奥井木工舎」の奥井京介さんを訪ねました。

「奥井木工舎」奥井京介さん。え!? この丸太から削り出していくんですか!?

有道しゃくし作りは、まずホオノキの生木(なまき)の丸太を、無駄が出ないよう木目を読みながら、マンリキと呼ばれる飛騨地方独特の道具で割っていきます。

柄の部分の木目が”真っ直ぐ”になることで強度が高まります。そのため、木の繊維を生かして丸太を斜めに割っていくのです。水分を逃がさないよう、丸太の切り口には接着剤が塗られていました。乾燥を避けるため、冬の間は丸太ごと雪に埋めて保存することも

比較的加工がしやすいホオノキですが、水分を含んでやわらかい、生木の状態が最も加工しやすいそう。ウグイス色とも称される、緑がかった木目が美しい

ここから、しゃくし作りが始まります。剪定用のノコギリ、片刃のナタで、木の繊維に沿って、柄の部分を切り出していきます。

しゃくしの強度を高めるため、すくい(頭)の部分と柄の先の高さを揃え、くびれの部分に角度をつけていきます
奥井さんのしゃくしの柄は、持ちやすい台形のフォルムで、箸のような先細のシルエット。「昔は、しゃくしを囲炉裏に刺して使っていたそうです」

ナタで大まかに形を作ったら、次は出刃庖丁で、細かく削って形を決めていきます。すくいの凸部分は、台形が並ぶように削っていくそう。

出刃庖丁で削ると、凸部分に台形の面が並んでいきます。この台形が、鍋へのあたりを優しくしてくれるのです

次は、いよいよすくいの凹み部分を「曲がり鉋(かんな)」で削り出していきます。

すくいの部分に、いい木目がくるよう、丸太の状態から割り出していたのです

柄を足で固定して、すくいの凹み部分を削っていきます。シャッシャッと、リズミカルな音が響きます。中心から外側へ、深く深く、波のような模様が刻まれていきます。

くるんと丸まった削りカスからは、ホオノキのいい香りが
凹み部分の波模様があることで、具材をしっかりすくうことができるのです
仕上がりの薄さは光が透けるほど

出刃庖丁で丁寧に面取りし、全体に鉋をかけて仕上げます。「鉋をかけることで防水性や防汚性も高まり、製品の持ちもよくなるんです」と、奥井さん。

ついに「有道しゃくし」が完成しました!

美しい木目、模様、形が、”用の美”であることが理解できました
「奥井木工舎」オリジナルの有道しゃくしは、古来の意匠を残しつつ、すくいやすいよう、蛤(ハマグリ)型へリ・デザイン
汁ものの具材をすくうだけでなく、凸部分で裏漉すこともできます。「うちでは、炒飯など炒めものにも使っています」と、奥井さん。使用後は、洗剤を使用せずに水洗い。汚れが気になるときはたわしで落とし、直射日光のあたらない、風通しのよいところで乾燥させればOK
奥飛騨の山あいでは、雪が降った翌朝、新雪の上にできる大きな凹みを”雪入道(ゆきにゅうどう)の足跡”と言うそう。夜明け前に出るといわれる、一つ目で一本足の妖怪「雪入道」。奥井さんは、しゃくし作りのときに出る木片で、ナタや出刃庖丁やノコギリなどで成形、色づけした「雪入道の置きもの」を作ります。家や子どもの成長を見守る、なんともかわいい魔除け飾りです
「奥井木工舎」奥井京介さん。大阪府出身、高山高等技能専門学校 木工工芸科卒。「自然素材から生まれるものは、人にも環境にも優しく、暮らしにそっと寄り添います。丁寧に作って、日々の暮らしに楽しみが増え、みなさまから愛される、持続可能なモノ作りを目指しています」

作り上げてから、木が落ちつくまで3~4か月。しっかりと乾燥させてから出荷するそう。この冬の奥井さんの仕事が「有道しゃくし」として完成するのはもうすぐ。飛騨高山の春は、もうすぐそこまで来ています。

●奥井木工舎
URL:https://mainichi-kotsukotsu.jimdo.com/


奥井木工舎「有道しゃくし」を扱う、民藝と古本と暮らしの店。「やわい屋」

飛騨高山の山間の集落で、移築した築150年の古民家で営む、民藝と古本と暮らしのお店「やわい屋」。店内に並んでいるのは、日本各地の作り手を訪ねて選んだ品々。「奥井木工舎」の有道しゃくしや雪入道には、こちらで出合うことができます。

奥井木工舎「有道しゃくし」
<蛤型 汁杓子>(特大/幅10×長さ33cm 大/幅9×長さ30cm 小/幅8×長さ27cm) 7000円台~
<飯杓子>(大/幅8×長さ25cm 小/幅6.8×長さ21cm) 3000円台~

●やわい屋
住所:岐阜県高山市国府町宇津江1372-2
TEL:0577-77-9574
営業時間:11時~17時
定休:木・金曜
URL:https://yawaiya.amebaownd.com/


しゃくし作りのワークショップを行う「有道しゃくし保存会」

熟練の技を教えてくれる青木 保さん。農閑期の手作り品を販売する、毎年1月24日開催「二十四日市」でも、保存会の有道しゃくしを販売しています

「肉じゃがが崩れにくく、湯豆腐もすくいやすいんだよ。飛騨高山では、ほとんどの家庭に1本はしゃくしがあるんじゃないかね」と語る「有道しゃくし保存会」松下満男会長と青木 保さん。4月~9月、10月~3月の年2回(各10回コース ※ビデオレクチャー、講義、製作、受講証授与)、有道しゃくし作りのワークショップを開催しています。初心者にも作りやすい、長さ20cmのサイズでしゃくし作りを丁寧にレクチャー。「本当は10回で作れるわけじゃないんです。でも、まず興味を持っていただきたい。そこから、続けて来てくれたら嬉しいですね」

●お問い合わせ/久々野町まちづくり協議会
TEL:0577-52-3098


日本遺産「飛騨匠の技・こころ ― 木とともに、今に引き継ぐ1300年 ―」

飛騨工制度は、古代における租税制度の中で、飛騨国1国のみに対して特別に定められた制度です。養老2(718)年に制定された養老令賦役令(ようろうりょうぶやくりょう)の斐陀(ひだ)国条に、庸(よう)、調(ちょう)といった税の代わりに年間100人程の匠丁(しょうちょう ※技術者)を都へ派遣することが定められました。この匠丁が飛騨工です。飛騨は、奈良時代以前の古代寺院が14か寺以上と、全国でもまれにみる密度で確認されていて、飛騨工制度ができる以前から寺院を建てる高い建築技術を持っていました。都の造営にあたり木工技術者の需要が高まり、その優れた技術力を活用するため、この制度が設けられたのです。飛騨工制度は鎌倉時代、古代律令制度の終焉とともに消滅しましたが、飛騨匠(飛騨工制度消滅後の飛騨の木工技術者について「飛騨匠」と記載する)は、その後も全国で建築活動を行ってきました。飛騨匠の技術の特徴は、木の性質を見極め、それを生かす技術にあります。飛騨で優れた木工技術が育まれた理由の一つが、豊富な自然。高山市は現在でも市域の92%を森林が占め、豊富な森林資源に恵まれています。飛騨の山林がほかと異なる特徴として、利用できる樹木の種類の多いことがあげられます。普段から多種多様な性質の樹種を使いこなすために磨かれた技術が、世界に通じるレベルへと発展したのです。

●日本遺産「飛騨匠の技・こころ ― 木とともに、今に引き継ぐ1300年 ―」
URL:https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/stories/story029/

撮影/赤石 仁 取材・文/レアニッポン編集部

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