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【山梨・甲府】発酵文化を伝える「発酵兄妹」を知っていますか?

【山梨・甲府】発酵文化を伝える「発酵兄妹」を知っていますか?

「手づくり味噌」伝統の味を、独自の手法で守り続ける

甲府の中心街から少し離れた場所に、明治元年から続く「五味醤油」はあります。創業当時は味噌と醤油の製造を生業としていたそうですが、現在は味噌と麹を中心に、小規模ながら地域性を活かした特色のある製品を開発・研究し、昔ながらの製法にこだわった味噌の醸造、販売をしています。

150年以上続く老舗の味噌蔵。昔この周辺にはさまざまな卸問屋があったそう
味噌をはじめ、「塩こうじ」400円、「しょうゆ麦麹」432円、「てづくり手前みそキット」2678円など、多くの発酵食品を販売している(すべて税込み)

五味醤油の味噌は、いわゆる「甲州みそ」と呼ばれるもの。関東・東北味噌は米麹、九州味噌は麦麹、八丁味噌は大豆麹と、地域によってさまざまな麹を用いますが、甲州みそは、米麹と麦麹を半分ずつミックスした味噌。さっぱりしながらも甘くてまろやか、ふわ~っと心まで潤してくれるような優しい味わいです。山梨の郷土料理「ほうとう」も、この甲州みそなくしては完成しないものだそう。

米麹と麦麹をブレンドした甲州独自の「甲州みそ」
「甲州やまごみそ」小・540円(税込み)
木桶に仕込まれた味噌をじっくりと熟成させ、風味・香り・色合いまで時間を重ねて造り上げていきます

甲府で生きる「発酵兄妹」の物語

そんな「五味醤油」、現在は6代目の仁さんと妹の洋子さんの二人三脚で、昔ながらの味を守り続けています。

仁さんは地元の高校を卒業後、東京農業大学醸造科学科に進学。卒業後は、タイの醤油メーカーへ就職しました。「会社員時代は商品開発を担当していましたが、自分主体ではないというか、ほかの人でも代わりがきく仕事であることに違和感を抱いていました」と、当時のジレンマを振り返ります。3年後、五味醤油に入社した仁さん。2017年5月、五味醤油の6代目当主を継承しました。

「責任は増えましたが、誰にでもできる仕事ではないことに、やりがいを感じています」と仁さん。先代から「自由に、好きなように経営していっていい」と理解を得られたこともあり、「どうせやるなら楽しく、おもしろいことをやっていこう」と当初から感じていたと語ります。

ともにUターンした兄妹

妹の洋子さんも、地元の高校を卒業した後、東京農業大学醸造科学科へ。仁さんと同じ道へ進んだものの「食に興味があったので東京農業大学へ進学しましたが、家業を手伝うためという思いはありませんでした」。卒業後は、化粧品会社へ就職したそう。

「いつかは山梨に帰ろう」。その思いは、東日本大震災をきっかけに大きくなり、2013年、仁さんからの「家業を手伝ってほしい」という声を受け、山梨へUターン。「今まで学んできたことが活かせれば」と、決意したそうです。会社員時代は通販部門を担ってきた経験もあり、洋子さんは五味醤油の広報、そして味噌づくり教室を担当しています。

もともと、味噌は家でつくるもの。「どの家にも、その家の“手前みそ”があるんですよ」と話すように、昔は家の数だけ味噌のレシピもあったといいます。

幼稚園や小学校へ出向いて開催している「手前みそ教室」

2人が味噌づくり教室を通して気づいたのは、そんな「日本の手前みそ文化を伝えていくこと」の大切さ。両親がコツコツ続けてきた味噌づくり教室は、いつしかお年寄りから子どもたちまでが集まる、世代を超えたワークショップへと広がっていったそう。

「ずっと続いていることは、地域に根差しているということ。これからも続いていくよう、活動し続けています」

若い感性で、みんなが楽しめるよう“味噌の魅力”を発信している2人。その周りには自然と人が集まり、中には異業種の愉快な人たちも集まっています。それがまた、よい化学変化を生み、さまざまな形での発信へと繋がっています。

例えば、子どもたちにもわかりやすく、楽しく味噌づくりを学べる、歌って踊る「てまえみそのうた」や絵本の出版、県内外でのワークショップやイベントへの出店。発酵を取り入れた暮らしを提案するイベント「こうふはっこうマルシェ」は、自治体とともに取り組んでいます。また、地元のラジオではレギュラー番組「発酵兄妹のCOZY TALK」も担当。「発酵や町の話を、楽しく広げていけたらなぁ」と、企画を持ちこんでプレゼンしたそう。

「いつも突拍子のないことを発案するのは兄。楽しいこと、やりたいことを考えるパワーはすごいです。その兄の思いを、私は女性の観点で咀嚼(そしゃく)して、具現化していくことが役目かなと感じています」と洋子さん。

2019年の「こうふはっこうマルシェ」では仲間のブースで「甲州やまごみそ」を販売。このとき、仁さんと洋子さんはステージ上で、ラジオの公開録音を行っていたそう

そして2016年、手作り味噌のおいしさや食の楽しさに気づくきっかけになれば。そして人々の記憶に残ってくれれば、という思いで、食の体験スペース「KANENTE (カネンテ)」を設立。「KANENTE」という屋号は、教室やワークショップにさまざまな人が集い、甲府の町で発酵文化がさらに発展していくようにという思いをこめ、地元の金手(かねんて)自治会からとったといいます。

富士山を模した外観が特徴的なKANENTE
KANENTEでは味噌づくり以外にも、生産者を招いた「生産者さんから学ぶシリーズ調味料のイロハ」や、手作り調味料教室も開催
KANENTEの一角にあるコーナーには、地元の本屋「春光堂」が選書した本が並びます。もちろん「てまえみそのうた」の絵本も

「甲府の町の風景」を残す仕事をしていきたい

ともすれば、異色の存在と見られがちな2人。でも、「普通の生活ができたら、それが一番理想かもしれません。日本の食の基本である田んぼがどんどん減っていき、愚直にものづくりをしている人たちの環境も厳しい部分があります。私たちが前に出ていくことで、食の尊さ、ものづくりの大切さが伝えられれば。そして、その活動を通して地域が元気になっていったらいいなと。真面目に作って、普通の生活ができればいいだけなのに、それが通らないことも多く、不思議な世の中だなと感じます」と、仁さん。

洋子さんは「人は、食べるもので作られていきます。食べることで、健康で幸せに生きることができます。幼い頃から、母に言われてきたことです。家業である味噌作りを通して、発酵という食文化にもっと目を向けてもらえたら、そのきっかけづくりができたら、と考えています」。

兄妹だからこそのチームワークのよさ

伝統の味と地域を守るため、常に発信し続けていかなければならない。現代ならではのもどかしさを抱えながらも、その中でおもしろいことを見つけて、自分たちが楽しんでいるようにも見える発酵兄妹。ただひとつの信念「醸造はもちろんですが、食を作り出す“田んぼがある町の風景”をなくすわけにはいかない」を深く心に刻み、発酵兄妹は甲府で生きていきます。

●五味醤油
住所:山梨県甲府市城東1-15-10
TEL:055-233-3661
営業時間:10時~18時
定休日:日曜・祝日
URL:http://yamagomiso.com/

取材・文/平岡宏枝(anlib株式会社)
山梨県在住。anlib株式会社に籍を置き、毎日を楽しく幸せに過ごせるような“小さな発見”を大切に、日々アンテナを張り巡らせています。

編集/くらしさ

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