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【熊本地震を乗り越えて】三兄弟で営む、熊本・山鹿の一風変わったパティスリー

【熊本地震を乗り越えて】三兄弟で営む、熊本・山鹿の一風変わったパティスリー

熊本県の北部に位置する山鹿(やまが)市。古くから交易の中継地として栄え、良質な農産物の産地としても知られる自然豊かな町に、一軒のお店がオープンしました。その名は「ricca(リッカ)」。山鹿に生まれ育った三兄弟が営む、一風変わったパティスリーです。

閑静な住宅街を抜けると、木立に囲まれた一軒家が

2018年7月にオープンしたパティスリー「ricca」は、ジェラテリア、喫茶スペースを併設し、自家製のパンやお惣菜の販売もしています。いわゆる「ケーキ屋さん」とは一線を画する、そのスタイル。主にジェラートと経営全般を担当しているのが長男、「あいがもん倶楽部」の名で活躍するのが農業人である次男、銀座や代官山のパティスリーで腕を磨いたのが三男。三兄弟が、それぞれの得意分野を担っているのです。

「自分たちが行きたいお店を作ろう」と、構想を具体化し始めたのは2015年頃。熊本地震の前年でした。

ショーケースには、芸術品のように美しいケーキ。焼きたてのマドレーヌやフィナンシェ、バターが薫るクロワッサンなども並びます

2017年のオープンを目指し、三男・市原勇生(ゆうき)さん夫妻が帰熊したのが2016年3月。本格的に準備を始めようとした矢先、熊本地震が起こりました。「地震直後は、やっぱり迷いましたね」と、当時を振り返る勇生さん。熊本の経済はいつになったら回復するのか? 今、新しいお店を作る意味はあるのだろうか? ……それでも「今、帰ってきたことに意味がある」と、計画を進めていったそうです。

「準備は遅れましたが、その間にしっかりコンセプトを固められたことが、不幸中の幸いでした」。結果的に、トントン拍子にいかなかったからこそ、今のriccaにたどり着いたといいます。

喫茶スペースの建具は、大正時代に建てられた鈴木邸(熊本市の旧中村小児科医院)から譲り受けたもの

三兄弟の実家は、全国に卸先を持つアイスクリームメーカー。自分たちも、いつかは山鹿で店をやりたいと夢を語り合ってきたといいますが、人口もさほど多くない地での出店に迷いはなかったのでしょうか。「生まれ故郷だから……という気持ちはありましたが、ちゃんと試算もしました(笑)。家賃の高い都会で喫茶スペースを作るとしたら、利益率や効率を考えざるをえません。でも、ここなら時間を気にせずゆっくり過ごしていただけますし、極端にいえばノーゲストでも問題ないんです。そういうメリットもありきで、地元を選びました」

洋菓子店は半径4km程度を商圏とするのが一般的ですが、riccaは熊本市内や福岡など商圏外のファンが多いことも特徴のひとつ。「地元と九州全域、どちらも大切にしたいと思ってスタートしました。その目論見は、ある程度成功していると思います」

ファンを魅了しているのが、山鹿という肥沃な土地の恵みを活かした商品。例えば、山鹿産の栗は、全国の菓子店や企業から求められるほどクオリティが高いもの。しかし、地元の人は、そのことをほとんど知らないのだとか。「山鹿には、こんなに素晴らしいものがあるということを知ってほしい。スペシャリテのモンブランには、兄が栽培した地元産の栗を使っています」と勇生さん。

季節限定、数量限定「いちごパフェ」は知る人ぞ知るスペシャリテ。契約農家から仕入れられた分のみ、喫茶スペースで提供している。 photo by Kunihiko Ichihara

とはいえ、地元産にこだわりすぎず、季節ごとにおいしいものを取り入れているといいます。「でも、地元に新鮮でおいしい果物がたくさんあるので……自然と地産地消に近くなります(笑)。その日に入ってきた素材で、即興でケーキを考えることもあるんです」。喫茶スペースでは、SNSでもお知らせしない限定メニューが登場することも。足繁く通う人が多いのも頷けます。

地域と一緒に育っていきたい。手を取り合って地元を盛り上げる

しっかりと質感のあるクリームに、甘みと酸味のバランスが絶妙な旬の果実、それらを引き立てる生地の食感。お菓子のおいしさは一級品! 食べた人は必ずリピーターになり、なおかつ「誰かに伝えたい」とウズウズしてしまうそう。その味わいの秘訣をうかがったところ「正直、味はどうでもいいんです……といったら語弊がありますね(笑)。おいしく作るのは最低限というか、当たり前のことだと思っています。大切にしているのは“おいしい”のその先です」

「Angel Flower Work」のフラワーアレンジメントが店内を彩ります。お茶の時間とセットになったワークショップは、毎回予約が殺到するそう

「Angel Flower Work」や「洋食や 花小町」といった県内の人気店とのコラボイベントやワークショップ。さらには、愛知県から「ROLE COFFEE」の焙煎士を招いて行うコーヒーレッスンなど、常に新しい取り組みを続けている同店。「これからのお店には、おいしさプラスアルファの魅力が不可欠だと思うんです。riccaを知らない人、ふらりと立ち寄ってくれた人を、どうやって引き込んでいくかが重要と考えています」

喫茶スペースで提供している「ROLE COFFEE」の焙煎士、中村真悟さんを招いてのコーヒーレッスン。 photo by Kunihiko Ichihara

「riccaだけの力で伸びていくには限界があります。だからこそ、地域の元気な店同士が繋がっていくことで、地域全体を掛け算で盛り上げていければいいなと考えているんです。いろんな人の力や魅力を借りながら、互いにプラスにしていけるやり方を探っているところです。僕らの取り組みを見てくれて、地方でお店を始める人が増えてくれたら嬉しいですね」

商品のパッケージを手がけるイラストレーター・西山徳子さんの個展、大人の男性に向けた1日だけのバー営業、7月の1周年のときには大々的なイベントを……と、予定は常にいっぱい!「お菓子はもちろんなのですが、店舗としてもイベントも季節感の表現を大切にしています。熊本の四季を感じてもらえる店でありたいです」。今後はパンやデリの商品にも一層力を入れ、“フランスの街角にある、普段使いの菓子店”のような存在になりたいと考えているそう。「遠くから訪れてくれる人がいて、地元の人も楽しみにしてくれる。そんな、皆さんにとってお気に入りの場所になれたら」と話す瞳には、楽しい企ての種が静かに宿っていました。

「洋食や 花小町」とのコラボイベントでの一皿 photo by Kunihiko Ichihara
三兄弟とパートナーで。中央左が、お話をうかがった三男・勇生さん

●ricca
住所:熊本県山鹿市方保田279-1
TEL:0968-41-9399
営業時間:10時〜19時
定休:火・水曜
URL:http://ricca-yamaga.jp/

取材・文/井関麻子
ライター・編集者 イセキ文書製作所 代表。1983年熊本県生まれ。早稲田大学人間科学部卒業後、経済誌『くまもと経済』の記者兼営業職に従事。ブランディング・マーケティングの(株)アールコネクト、(株)ニュースカイホテルの営業企画を経て2009年1月に独立。熊本を拠点に、広告やタウン誌の記事制作をはじめ書籍、WEBサイト、季刊情報誌などに幅広く携わる。

編集/くらしさ

 

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