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【能登半島】七尾で、レアな「定置網漁師体験」してきた

【能登半島】七尾で、レアな「定置網漁師体験」してきた

今回の体験、かなりレア度、高いです。

まず、実施されるかどうかは、天候によるところで、天気がよくても沖で風が強いと体験できない可能性があります。実体験できることは全国的に非常に少ないそうです。

明け方3時に出発します。さらに、直前まで海で泳いでいた魚をいただくことができます。

その体験とは、「大型定置網の引き上げ作業」を実体験するというもの。しかもホンモノの漁師さんと一緒にホンモノの漁船に乗って、です。

向かったのは、石川県七尾市。 北陸地方中央部に位置する市で、人口約53,000人、能登地方の中心市です。富山湾、七尾湾に面し、能登島を含みます。海に面していることからとにかく海産物が豊富。「七尾」の名称の由来は、七尾城のあった通称・城山の7つの尾根(菊尾、亀尾、松尾、虎尾、竹尾、梅尾、竜尾)からと言われるそうです。 全国的に有名な和倉温泉もあるまちでもあります。

大型定置網の漁の出港は朝の3時。なので港での集合時間は午前2時15分。和倉温泉に宿泊していたため、港までは車で飛ばして約40分。ということは、逆算すると宿泊先を午前1時30分に出発。というわけで、午前0時45分に目覚ましをかけました。多少の睡眠時間を取るために、午後10時には布団に入ったのですが、次の日への期待と興奮と緊張でなかなか寝つくことはできませんでした。よく考えてみたら、午前1時まで起きていることはあっても、午前1時前に目覚ましをかけて起きたことは人生においてもほぼありません。漁師の方はほんとにすごい。

当日の天気予報は、風もなく気温も高めの晴天。比較的海が荒れることが多い日本海においては絶好の漁師体験日和ということ。とはいえ、3月の北陸。明け方3時の実際の気温は3度。風もあるため体感気温はもっと低く、しっかりした防寒をしても、足の先から冷え込みます。
そして、今回は漁の観光体験ではなく、本当の漁に同行するわけですから、漁師体験のパンフレットには「船の揺れに慣れていない方には非常に厳しい漁になることがあり、その場合は乗船を断る場合があります」と注意書きがあります。漁の邪魔になるようなら、覚悟はしておいてね、と。

海が荒れて船酔いしたらどうしよう、寒かったらどうしよう、などとビビりまくり、やや憂鬱にもなっていたので、天候についてはちょっと安心。また前日には船にはトイレもない、というアナウンスがあったため、前日は水分も控えめにし、乗船前も便意もないのに何度もトイレに行って出ない用を足したにもかかわらず、船にはきちんとトイレもありました。

「鹿渡島定置」さんの番屋。番屋の周りは真っ暗

乗船する漁船を持つ「鹿渡島定置」さんは七尾市の東端、崎山半島の鹿渡島漁港を母港としています。市街地からは30分ほど。 代表・酒井秀信さんのもと、総勢16名で定置網漁を行っています。社員の平均年齢は30代前半で、富山湾屈指の若きガチ漁師集団です。

体験レポの前に、まずは定置網漁のおさらい。

定置網漁は、海中の定まった場所に網を設置し、回遊する魚群を誘い込むことで漁獲します。 巻き網などの能動的に魚を追いかける漁法と異なり、過剰漁獲に陥りにくい、継続的な漁業が可能な環境にやさしい漁法と言われています。また、漁場が沿岸付近に固定されているために、 魚の動きそのものを読む漁法であることから「待ちの漁」とも言われ、また、毎朝新鮮な魚を供給することができます。海の透明度が高く、プランクトンが豊富な富山湾では、この定置網漁が非常に盛んなのです。定置網漁でとれる魚は、一般的に「浮魚」と呼ばれる魚です。浮魚とは海水面から水深数十メートルから百メートルほどの、海底から離れたところを泳いで移動する魚のことです。イワシやアジ、タイ、ブリ、イカなどが浮魚の代表例です。ちなみにカレイ、エビ、カニなど海底に生息する魚介類を底魚といいます。こちらは定置網での漁獲が難しく、底引き網などを利用します。乗船した3月は海水温が上昇し、冬と春のさまざまな魚がいりまじって水揚げされます。マダラ、サヨリ、ハチメ(メバル)、マイワシなどが主に採れるそうです。

船のライトが唯一の灯り。宙に浮いているかのような出陣前の船

■いざ、出陣!

乗船する際には余計なものを持ち込まないように注意されたため、カメラとスマホと防寒具だけを持参。他の荷物は番屋に預け、ライフジャケットと長靴、ゴム手袋をお借りして、いよいよ乗船。真っ暗な港に浮かぶ船の備え付けライトが煌々と灯され、とても幻想的。ですが、乗船後、そんなロマンチックな気分は、船の大きなエンジン音と吹きすさぶ海風に乗って波間に飛び去りました。出港してまもなく、めざといカモメが船の後を大漁祈願なのか並行して飛び、いよいよ「漁場」へと向かいます。

ライトは出港とともに消灯され、同時に夜空に浮かぶのは満天の星。水平線まで星に囲まれ、船の揺れも伴い平衡感覚を失います。船のヘリをつかんでいないと、夜空に吸い込まれそうな錯覚を覚え、厳しい漁に向かう漁船に乗っていることをしばし忘却。

天草で造船されました
漁師さん向けの注意書き。なるほど
船の中の2畳ほどの休憩室。ストーブまである。青いジャケットの方が船長。漁場までのしばしの団欒

■定置網の引き上げ開始

漁場は港から30分ほど。星空を眺めていると、エンジン音が止み、突然漁船のライトが灯されました。いよいよ、定置網引き上げの開始です。

定置網は沿岸から30分程度の場所に、魚種や潮の流れを読んで沿岸を回遊する魚をさえぎる「垣網」と、それに沿って誘導された魚が入る「身網(袋網)」を設置。季節ごとにどんな魚がどこでとれるかという情報、狙う魚の習性や沿岸の潮の流れなど、蓄積してきた独自のノウハウによって網を海底に設置します。

2隻の船が対になり、片方の船に向かって網を巻き上げ、漁場に仕掛けた「身網」に入った魚を船内に取り込む、「網起こし」と呼ばれる魚の追い込みをかける作業をする漁師さんが10名ほど乗船した船と、私の乗った船とで引き上げを行います。この作業におおよそ40分から1時間くらいかかります。

網を巻き上げる巻き上げ機。つい最近までは人力で上げていたそうです
別の網の巻き上げ機。見事なチームプレイで網を手繰り寄せます

船のライトにどこからともなくカモメが集まり、乗客と漁師さんとともに漁を注視しています。最初2隻の船の間は約50メートルあるのですが、網が引き上げられるとともに、徐々に距離が縮まります。その間にどんどん魚が追い込まれ、2隻の船の間の網に魚影が見え始め、期待と興奮が高まります。

船の間の水面に魚影が!
巻き上げ作業。ゴム製のタイヤ状のローラーに網を挟み込んで巻き上げます

最初はイワシなど小さな魚影ばかりでしたが、徐々に得体の知れない大きな魚影も見えるようになり、大漁の予感も。漁師の方々は個々に網を上げているようでいて、見えない調和が取れており全体のバランスを取りながら網を引き上げられます。興味が先立ち船首を覗き込もうものなら「邪魔だ!どけっ」などと怒鳴り声が聞こえてきそうな緊張感。でも、漁師さんたちはにこやかで、乗客が危ない対応をすると優しく注意を促します。

2隻の船の距離はいつの間にかさらに縮まり、同時に網も海面に近づき、数え切れないほどの魚たちが蠢(うごめ)く影が見え始めます。

蠢く海面。すべて魚
ものすごい数のカタクチイワシ!

もう片方の船に乗る漁師さんの顔もはっきり見える頃になり、網もいよいよ海面から上がり、1メートルを超える大きな魚が混じったカタクチイワシの大群が水しぶきを上げ、その水滴が顔にまで届きました。

水揚げです。

船が傾くほどの大量の魚。水しぶきが顔にまで飛んできます
超大型、太刀魚。こんな大きいのは珍しいそうです
たまにヒラメも
こちらもかなり大きな鮟鱇。暴れまくっていました

1辺が1メートル以上ある大きな網の柄にはクレーンからロープが繋がり、2人がかりで大群の魚をすくい上げます。網の先端は、紐で開閉ができるようになっていて、魚をすくって、ひょうたんのように膨らんだ網を船の中央部の水槽の上部に持っていき、一気に紐を引き、ざざっと水槽に落とします。カタクチイワシに混じった大物(タラ、カレイ、真鯛、フグ、石鯛、鮟鱇、太刀魚、ブリ、コウイカ、スルメイカなどなど)は別に引き上げ、大きな青いかごに振り分けます。

こうした作業に迷いはなく、テンポよくスピード感をもって進みます。もうこうなると、少しでも動くと邪魔になりそうで、立っている場所だけが自分の居場所と化し、ひたすら大物に興奮し、今見ている現実を信じられない風景として捉えていました。

気づけば船の周りにはおこぼれにあやかろうというカモメたちの群れ。一瞬のすきをみてカタクチイワシを盗み取りするものの、漁師さんたちにとっては当たり前の光景。カモメの大群にはお構いなしで水揚げ作業が続きます。

ふと、水揚げとは関係のない動きをしている漁師さんに気づきました。大物の魚を船尾に運んでいます。

水揚げの邪魔にならないように近づくと、次々と大物の魚たちに「神経締め」を行っています。ついさっきまで海の中にいた魚たちにとって、水揚げの瞬間に「神経締め」されるのですから、苦しみもなく、そしてその恩恵を受ける私たちが本当に新鮮な魚をいただけるのは、こうした陰ながらの働きによるものなんだ、と感心しきりでした。それにしても、神経締めの神業的な作業のスピード。迷いもなく、やり直すことなどもちろんなく。本当に職人的な漁師さんの「技」を目の当たりにしました。40分ほど続いた水揚げはあっという間で、「大漁ですね!!」と浮かれて船長(社長)にうかがうと、「数は多いけど安い魚ばっかだから。まあまあかな。次、次……」と浮かない感じでの返答。なかなか厳しい。あとで聞いたのですが、このカタクチイワシは実際には養殖業者のエサ用に出荷され、漁師さんにとっては利益の薄い魚種なのだそうです。

2つ目の漁場に向かい、1回目同様、2隻の船で網を手繰り寄せます。そうした作業を飽くことなく見学していると、漆黒に近い濃い紫色の水平線がうっすら明るくなり始めました

■夜明けとともに、水揚げもクライマックスに

出港したのが午前3時でしたが、いつの間にか夜明けが近づく時間となっていたのです。立山連峰の稜線に沿い、夜空を朝焼けが彩り始め、水揚げもクライマックスに向かいます。2回目の水揚げも1回目と同様、多くのカタクチイワシに混ざり、大物が垣間見えましたが、おそらく「安い魚」が多かったのかな、などと思いつつも、やはり高まる興奮を抑えることはできませんでした。

水揚げが終わると網にかかった小魚を追い求め、夜通し待ち構えていたカモメたちが一斉に飛びかかります。帰港する船を追いかけるカモメのあまりの多さに慄(おのの)き、ある種の恍惚感に浸り、3月の明け方の富山湾の風に吹かれながら、朝日に染まる空に感動を覚えました。

荒々しい定置網の水揚げ作業を終え、帰港してからは、休む間もなく荷揚げと分別作業が始まります。慌ただしい雰囲気での作業には、出港する前の緊張感はなく、「まあまあ大漁」(船長談)のせいか、漁師の皆さんも朗らかな表情での作業でした。

網で水槽から魚をすくい上げているところ。その先にある大型の選別機がイワシと他の魚を自動的に分けます
選別機で分けられたイワシ以外の魚。カレイやフグ、ホウボウ、タラなどが見えます
イワシだらけの船の水槽に紛れていた鮟鱇の口はイワシでいっぱい

■漁師めし、も体験

そうした雰囲気の中、ついさっきまで富山湾で泳いでいた魚たちのご相伴にあずかる船長による「漁師めし」。

大きくお腹が膨らんだ50センチを優に超えるタラ2尾があっという間に捌かれ、アラや中骨、頭、白子(エラまでも!)などが、一抱えもある大きな鍋にどんどん放り込まれます。タラは捨てるところがない魚と言いますが、本当にそうでした。タラの身は、見ているそばからお造りに。タラのお刺身?!しかも、分厚い!!

続いてスルメイカも次から次へと捌かれていきます。そばで見ていてそんなに食べられるかと不安になるほどの量……。

番屋のキッチン
おかあさんの手さばきは目にも留まらぬ早さ。さすが
船長も手馴れたもの。ちゃっちゃかと調理を進めます

テーブルに料理が並び始め、何か手伝おうとタラ鍋をお椀に注ごうとしたら、「そっちのお椀じゃなくて、丼(どんぶり)に注がないと、食った気せんじゃろ!!」と大きな丼を指さします。これぞ、「漁師めし」。

朝ごはんを抜いたのにもかかわらず、漁の興奮と緊張で忘れていた空腹感も「漁師めし」を目前に一気に目覚め、マックスに。「タラの刺身は足が早いから、あんまり市場では食べられないんだよ。だから、とれたての魚のおいしさを知ってもらいたくて、あえてタラを出したんじゃ」と船長。タラの刺身を食べたのも初めてでしたが、こんなにコリコリして、甘みがあって、あぶらものってておいしいものとは!! 本当においしい魚です!!

大皿に大胆に盛り付けてある刺身を味わいながら大切に食べていると、船長が「こうやってごそっととらないと、だめじゃろ」とお箸で横から5~6切れぐらいをすくってご飯にごそっと。あー、こういうのやりたかったんだよな、と真似てごそっと。しあわせ!

味噌味のタラ鍋には、身や白子のみならず、アラや皮も入って具が丼から溢れんばかり。「出汁なんて取る必要なかろ」と船長。確かに。冷え切った体に浸透するタラ鍋は言葉を失うウマさ。至福の時間です。

さらに、シイラのハラミ(いわゆる「トロ」の部分)のバターソテー、カレイの干物、ねばねばのアカモクなどが御膳に並び、心ゆくまで富山の豊かな海の幸を堪能しました。

タラ鍋。ネギは番屋裏の畑から。我慢しきれずすでに半分くらい食べてしまってからの写真
カレイの干物。うまし!
タラのお刺身! 初めて食べた! 本当においしい!!!
スルメイカのお刺身。これも勢いあまって2/3以上くらい食べてしまってからの写真。最初は山盛り

おいしい食事をいただきながら、船長でもある社長に話をうかがいました。そもそも今は、気候の変動によって魚の分布が変化し、また近隣国の乱獲により漁獲量が減少し、そのうえ魚価が低迷するなど、漁業の操業環境が厳しい状況であり、単に魚をとるだけではなく、付加価値を付けるなど漁師も知恵を絞らなくてはならない時代である、と。そのために、魚の鮮度を長く維持できる「海氷シャーベット」や、「活締め」「神経締め(抜き)」などの技術を積極的に導入し、また最近では、鵜浦漁港内に水産加工場を設立し、厄介者扱いされていた海藻のアカモクを「海のじねんじょ」という人気商品にするなど6次産業化へ向けた積極的な取り組みも行っているそうです。

また、漁業従事者の高齢化が課題となっている中、見て覚える昔ながらの風習から脱却し、作業のマニュアル化や社員研修の開催等により、海外からの研修生を含む若手後継者の育成に取り組むとともに、台湾など海外への技術の伝授にも貢献されているそうです。漁師の仕事は、AIで代替できるものではないとおっしゃっていましたが、指をくわえて現状を眺めているだけではないのですね。船上では漁師として男らしく、力強く躍動していた船長が、経営者として漁師の仕事をビジネスに転換させていることに、さらなる驚きと尊敬の念を抱きました。

そんな話をうかがいながら、ふと部屋を見ると立派な表彰状がかけてありました。漁業継続者の確保と環境保全、若者の雇用の場として、よりよい労働環境づくりに努力しながら、「夢のある成長分野」として、新しい取り組みを続けていることが高く評価され平成26年度の総務省主催の「ふるさとづくり大賞」の最優秀賞にあたる内閣総理大臣賞を受賞されたそうです。漁業を未来につなげるビジネスに変える先駆的な会社でもあるんです。納得。

始まる前は緊張でいっぱいでしたが、約5時間におよぶあっという間の漁師体験。漁師を仕事にする方々の絶え間ない努力も知ることができました。これからは魚を購入する際や居酒屋でお刺身を食べる際にも見方が間違いなく変わるでしょう。

でも、漁師さんにはなれないな、たぶん。

俺たちの能登地域活性化協議会
URL:http://noto-ziwamon.jp/

撮影・取材・文/レアニッポン編集部

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