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【ニッポンの名産地 Vol.1】ネクタイといえば山梨県富士・東部地域

【ニッポンの名産地 Vol.1】ネクタイといえば山梨県富士・東部地域

近年、ジャパンメイドのよさを見直そうという声が高まっています。で、全国津々浦々を見渡せば、実にいろんな地域に多様な名産ありき。ということで、この新連載「ニッポンの名産地」では毎回、レアニッポンが「ジャパンメイドの真価をもっと知ってほしい!」との思いを込めて、独自の視点で選んだ名産地&名産品をご紹介。第1弾では、山梨県のネクタイを取り上げてみました!

この記事は特集・連載「ニッポンの名産地」Vol.1です。

HADACHU ORIMONOのシルクネクタイ/富士吉田市で1935年に創業した羽田忠織物のオリジナル商品。写真左から/ジャカード織りシルクネクタイ「NTM-125」、同「NTM-134」、紗織り(しゃおり)シルクネクタイ「NTsha-608」。いずれもシルク100%、長さ144cm、剣先幅6cm。各7000円。羽田忠織物 TEL:0555-22-4584 URL:https://hadachuorimono.jp/
山梨産ネクタイは、多くが県東部(「郡内地域」と呼ばれる)と富士五湖周辺で作られており、このうち、染色に富士山由来の天然水が活用できる富士吉田市に生産工場が多い。上記商品を展開する羽田忠織物も、このニッポンの名産地にある、そうしたメーカーのひとつだ。

高級ネクタイというとメイド・イン・イタリーが有名だけど、日本でも高品質なネクタイが数多く作られていて、その年間総生産量はなんと約400万本! しかもあまり知られていませんが、それら国産の約49%(2017年度)が、実は山梨県東部と、富士五湖周辺地域で作られています。で、「そうだったんだぁ」と意外に思いつつ「なぜ山梨なの?」との疑問……。

それは、この地域が富士山から流れ出た火山灰土ゆえ、農業に不向きだったから。副業として養蚕と絹織物の生産が盛んになり、明治時代に「甲斐絹(かいき)」なる高級絹織物が広く認知され、この技術が昭和以降、ネクタイ作りにつながったわけです。

で、これらのネクタイには3つの特徴があります。第1は、糸から染める先染めだということ。富士山由来の天然水には染色を邪魔する物質が少ないため、良質で色鮮やかな糸に仕上がります。第2に、細番手の糸が使われていること。手織り時代から天然繊維の中で最も細い絹糸を使ってきたため、難しい糸の扱いに長けているのです。第3は、高密度織り。美しく染められた細番手糸を高密度に織ることで、プリント生地では表現できない色柄や立体感、高級感が生まれます。

このように染色×絹織りの技術が相まって作られる山梨生まれのネクタイは、単に生産量が多いだけではなく、品質でも国内随一であり、それはイタリアの高級ネクタイに勝るとも劣らない、知られざるジャパン・クオリティ! 山梨県の特産品というとブドウ、ワイン、桃、信玄餅、ほうとうといった飲食物がお馴染みですが、実はビジネスマンのVゾーンづくりにも、密かにお役立ちしていたのですネ。

写真提供/甲斐絹ミュージアム

秦の始皇帝の命で日本に渡った、かの徐福がこの地で織物の技術を伝えた、なんて伝説もあるのですが、ちゃんとした記録が残っているのは平安時代。当時の法律を記した書物『延喜式(えんぎしき)』に「甲斐(山梨)の国は布を納めるように」という意味の一文があるそうです。

下って江戸時代、贅沢を禁ずる「奢侈(しゃし)禁止令」のもとでも派手好みをとおしたい江戸っ子たちは、羽織などの内側に美しい色と柄の絹の裏地を張り(写真上を参照)、粋を気どったとか。こうして生まれた甲斐絹は日本中に知れわたり、織物産地の中心的な存在に。そして戦後、洋装が広がるにつれ、こうした技術を活かしてネクタイの生産が始まったのです。

戦後の復興期~高度成長期では「ガチャマン(“ガチャッとひと織りすれば1万円儲かる”という意味!)」なる言葉さえあったほどの好景気でしたが、昭和の終わり頃に安い外国製が出回ると、多くの会社が織物産業から撤退。以後、今日まで、危機感を覚えた職人たちが高級ブランドに積極的に製品を提供しつつ、オリジナルブランドも展開するなどし、産地の知名度を高める努力を続けています!

使用する絹糸には先染めが施されている。一般的な後染めや製品染めに比して、より手間を要する技術だが、できあがる糸は深みある色合いとなり、これらで織り上げられた生地も美しく、繊細な表情に仕上がるのだ。 写真提供/羽田忠織物
光沢や質感を損なわぬよう、織機でゆっくりと織り上げる。なかでも紗織り(2本の経糸が緯糸1本ごとに絡み合う織物。粗目地だが、薄くて軽い)なる、夏の着物などにも使われる生地で作られたネクタイは、羽田忠織物の看板商品のひとつだ。写真提供/羽田忠織物
羽田忠織物のアトリエショップは、機織りのやさしい音を聞きながら、商品を手に取って買い物が楽しめるお洒落な空間だ。毎月第3土曜日は予約なしで来店可能(11~17時)。その他は事前連絡が必要。住所:山梨県富士吉田市上暮地3-7-26 TEL:0555-22-4584 写真提供/羽田忠織物

編集・取材協力/羽田忠織物、山梨県産業技術センター、富士技術支援センター(甲斐絹ミュージアム)
構成・文/山田純貴
※表示価格は税抜き

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