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【ニッポンの名産地 Vol.2】靴下といえば奈良県中西部

【ニッポンの名産地 Vol.2】靴下といえば奈良県中西部

ニッポンのさまざまな地域の多様な名産から「レアニッポン」が厳選&紹介する連載「ニッポンの名産地」。第1回目は山梨県のネクタイを取り上げましたが、今回は奈良県中西部の靴下作りのご紹介です。国産靴下の生産量トップに当たる約6割がここで作られているという、ちょっと意外なこの事実。その「何故?」にお答えしましょう!

この記事は特集・連載「ニッポンの名産地」Vol.2です。

グレン・クライド「スルックス ウールパイル」/奈良県葛城市の工場で30年以上使われた機械の改良型で、3層構造に編み立てられたもの。片手でも容易に穿くことができるのに締め付けが少なく、ずり落ちしにくい。この特性から、全国の介護施設でも導入されている。穿き心地はモコモコと柔らかめ。ニュージーランド産・最高級ウール製。伸縮性に富むため、22.5~27cmに対応の男女兼用1サイズのみ。各2000円。グレン・クライド TEL:03-3823-7631 URL:https://glen-clyde.com/jp/
奈良県産の靴下は、その多くが広陵町、大和高田市、葛城市を中心とした6市2町で作られている。この地域一帯は江戸時代から綿の栽培が盛んだったが、そのことが今日の靴下産業の下地となっている。写真は、奈良盆地から南東に望む音羽三山の山容。

南北に長い奈良盆地は、京都盆地へと続く北部に平城京が、天香久山などを望む南東部に飛鳥京や藤原京などが、さらに北西部に斑鳩宮が開かれた古代日本の中心地です。その斑鳩町より南方に広がる一帯が、今回ご紹介の国産靴下の一大生産地になります。

奈良県靴下工業協同組合の県下組合企業は6市2町(上記地図参照)で、このうち、特に靴下産業が盛んなのは広陵町、大和高田市、葛城市。古墳が点在する歴史ある地である一方、生駒山地と、その南の金剛山地との山間から大阪平野へのアクセスが容易であるため、大阪市の通勤圏として発展してきた歴史もあります。

現在、この地は国産靴下においてシェア約6割という生産量日本一を誇り、生産工場数も日本トップ。ですが、バブル崩壊後は安価な輸入品が急増したことで斜陽化し、生産業者は減少し続けています。とはいえ近年、家業を継いだ比較的若い世代が生き残りをかけ、培った技術力を活かしながら新しいことにチャレンジしているのです。

長らくこの地のメーカーと取り引きしてきたグレン・クライド(本社・東京)の橋本満社長曰く「ローゲージの旧式の機械だけを揃えて、それを売りにしているメーカー、スポーツソックスに特化しているメーカー、ブランディングに注力して海外進出を図っているメーカー……と、それぞれが特徴を打ち出しています。こうして見ると、奈良の靴下産業はとても面白くなってきたなと感じています」。

奈良県靴下工業協同組合も、消費者に最適な靴下選びを提案する「靴下ソムリエ」の育成、地域内メーカーの協業で展開するオリジナルブランド「The Pair」の企画・運営、品質基準を満たした商品への認定マーク付与など、地域の活性化を推進する意気込みをさまざまな形で見せています。

写真左:吉井泰治郎氏。写真提供/『奈良県靴下のあゆみ』(奈良県靴下工業協同組合)より 写真右:手回し式編み立て機。写真提供/『広陵町の靴下百年史』(広陵町靴下組合)より

古墳時代~奈良時代に中央政府が置かれ、今も史跡や古墳・陵墓、寺社などが残る奈良盆地ですが、実は昔から慢性的な水不足のため、米の生産量には限界がありました。

江戸時代初期、庶民の普段着の素材が麻から木綿中心になったことから、奈良盆地では米の作付面積を減らし、代わりに休耕地での綿花栽培が積極的に行われるようになり、女性たちはその綿糸で木綿布を織って工賃を得るように。こうして品質の良い大和木綿は、全国に知れ渡る特産品となりました。

幕末の開国で大量のインド綿が輸入されるようになると、奈良盆地の綿花栽培は縮小し、大和木綿は衰退したのですが、近代的な紡績技術が海外から導入されるにしたがい、多数の紡績工場がこの地に誕生しました。

そんななか、糸屋を営んでいた馬見村(現在の広陵町)の吉井泰治郎氏(写真左)が靴下作りに着目。1910(明治43)年、海外視察で入手した手回し式の編み立て機(写真右)を持ち帰り、工場を設けて、機織りに代わる仕事として靴下の製造をスタート。この靴下作りは、次第に周辺地域に広がっていきました。

戦後、ウーリーナイロン糸が登場すると、靴下産業は飛躍的に発展し、この地は日本一の靴下生産地へと成長していったのです。

靴下は、円筒状の編み機で穿き口からつま先に向かって螺旋状に編まれたのち、別の機械でつま先部を縫い閉じて袋状にすることで完成する。穿き口はずり落ちぬよう、ウーリーナイロン(ナイロン繊維に人工的なカールを加え、ウールに似た風合いにした素材)のゴムが入れられるのが一般的だ。写真提供/『広陵町の靴下百年史』より
アンドライフソックスの「クリケット」/首回りにラインが入ったケーブル編みのクリケットセーターを表現した、この靴下は、広陵町にて40年以上前のヴィンテージマシンを回し続ける某工場で生産されたもの。ケーブル編みが交差する部分では、生地裏から手技で糸を結ぶことにより凹凸感を出しているのだが、このような作業ができる人材の確保が他の地域では難しいという。各2000円。グレン・クライド TEL:03-3823-7631 URL:https://glen-clyde.com/jp/

 

編集・取材協力/奈良県北葛城郡広陵町地域振興課 グレン・クライド
構成・文/山田純貴
※表示価格は税抜き

 

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