Close
人々の営みに支えられた、江戸時代の町並みの奇跡【広島・竹原町並み保存地区】

人々の営みに支えられた、江戸時代の町並みの奇跡【広島・竹原町並み保存地区】

国内大手航空会社が某国内男性超大物アイドルグループを起用して、2019年6月1日から流されていたテレビCM。ガイドブック片手に、昔ながらの町並みが残る謎の町に 「幸せのハート探し」のために旅に出るというストーリー。タイムスリップしたかのような町なかで、屋根にいる鶴を見つけたり、手裏剣のような形抜きがされた木壁を見つけたり、竹細工の風車をまわしたり、というCM。このロケ地こそ、今回訪れた 「安芸の小京都」として知られる広島県竹原市竹原地区の町並み保存地区です。

「幸せのハート」。町のどこかにあります!

竹原市は広島市と尾道市の中間に位置し、室町時代から瀬戸内海に面した海の交通の要所として、また江戸時代は製塩業で栄えた歴史ある町です。NHK朝ドラ『マッサン』の主人公の出身地でもあり、今も生家は造り酒屋として残っています。映画などで取り上げられることも多く、テレビアニメや映画にもなった『たまゆら』や原田知世さん主演の『時をかける少女』などの舞台となりました。

マッサンこと竹鶴政孝さんと妻・リタさんの銅像。マッサン、結構背が高い
アニメ『たまゆら』ゆかりの品々。明治5年に建てられた旧笠井邸は、塩田経営者の豪邸。見学可能で、2階に『たまゆら』の原画などがあります
『時をかける少女』のロケで使われた建物。大正8年創業の醤油蔵「ほり川」。建物の一部が改装され、お好み焼き屋さんに

昔ながらの町並みが保存されたエリアは、JR竹原駅から徒歩15分のところにあります。広島空港からは、車で25分くらい。広島市内に出るよりも近いところに、こんなレアスポットがあったのです。町並み保存地区は、「道の駅たけはら」から徒歩2分。街歩きマップなどもあるので、ここを目指して行くのがいいでしょう。

町並み保存地区の入り口の案内柱
旧笠井邸2階からの風景。町のメインストリート「本町通り」は、江戸時代から変わりない道幅。車がぎりぎりすれ違える幅です。自動車がない時代の軒が残っているので、気をつけないとぶつかってしまいます

江戸中期から明治にかけての町並みが残り、「安芸の小京都」と呼ばれる商家町は国の重要伝統的建造物群保存地区や都市景観100選に選定されています。一部の観光地化された古い町とは異なり、商家町の家々には実際に人々が暮らしており、生活の息吹を感じることができます。観光客も少なく(海外からの旅行客は一人もいなかった!)、近所に住むお年寄りや学校帰りの小学生が生活の場として町を行き交う風景は、タイムスリップしたかのようです。

町並み保存地区の中にある代表的な商家の建物「松阪邸」。唐破風の屋根や庇、出格子などあり、江戸時代・文政の頃に建てられ、明治12年に改築されました

 

メイン通りから脇にそれても、こんな感じ。左は頼山陽の叔父で、広島藩の儒医・頼春風の邸宅。町で唯一の武家屋敷風の長屋門と門構えをもつ建物。国の重要文化財

この古い町を栄えさせたのは、「塩」。かつて広島藩が赤穂の塩で有名な赤穂藩の協力を得て、塩田の開発に成功し、当時貴重だった塩作りが竹原の一大産業となりました。その塩田を管理した商家町が町並み保存地区というわけです。今でこそ塩田はありませんが、塩作りが盛んだった頃は、町並み保存地区のすぐ近くまで塩田が及んでいたそうです。

今の町並み。塩田があった頃は、見える範囲のほとんどが塩田だったそうです

町家のほとんどが 江戸中期から明治に建てられたもので、最古の建物は元禄4(1691)建造の吉井邸です。家の軒先にはいろいろな意匠を組み合わせた格子があり、とある旧家の格子模様に「幸せのハート」がありました。どこにあるかは、実際に行ってみて探してみましょう。

竹原の町並みにある建造物には、さまざまな細工の施された「竹原格子」を見ることができます。1階部分には出格子があり、中2階には虫籠窓や武者窓と呼ばれる塗格子等があります

町の北側の高台にある西方寺の石段を登ると町全体を見下ろすことができます。高い建物がないため、視界を遮られることもなく、濃いグレーの瓦屋根が続く町並みは、江戸時代から変わることのない情景なのでしょう。その風景は航空会社のCMでも取り上げられていました。
西方寺観音堂 「普明閣(ふめいかく)」 は京都・清水寺にならったといわれる舞台造り状の建築で、朱の柱は、シックな色使いの町並みに非常に映える特徴的なお寺で、町のシンボルとされています。

西方寺の石段。結構な高台です。こちらもロケで使われました
清水寺をモデルにした普明閣、結構小さいw。取材当日は工事中でしたが、普段は境内にある舞台に上がれるそうです
西方寺石段を上がりきったところからは、町の全景を見渡すことができます

CMでも取り上げられた「手裏剣」のように抜きされた格子は、町の本町通りの突き当たりの「胡堂(えびすどう)」というお堂にあります。胡堂の屋根の四隅には鶴、亀、茄子、蕪がのっています。商売繁盛の縁起物なのだそうです。ここでも、CMに映っていたキャラクターを探してみましょう。

CMにも登場した「手裏剣」は胡堂の側面にありました
胡堂全景。屋根の四隅に鶴、亀、茄子、蕪がのっています

決して広いというわけではない町には造り酒屋が2軒もあります。ニッカウヰスキーの創業者であり、ドラマ『マッサン』のモデルでもある竹鶴政孝氏の生家「竹鶴酒蔵」。もう一つが「龍勢」「夜の帝王」などで有名な「藤井酒蔵」。どちらの酒蔵でも日本酒の購入が可能で、こちらの店でしか購入できない超レアな生酒が買えることもあるそうです。ちなみに広島県は、日本酒の三大産地のひとつです。

竹鶴酒蔵、マッサンの生家。ひっそりと営業中。昼過ぎから販売を始められるとか
歴史を感じさせる看板
竹鶴酒蔵の店内は薄暗く、ひんやりした空気が漂います
藤井酒蔵が営む「酒蔵交流館」
日本酒だけではなく、酒にまつわる酒器や食器なども扱うおしゃれなお酒のセレクトショップ。看板横の色紙の書は、内閣総理大臣によるもの!
店先では日本酒の試飲もできます

竹原は町名にもあるとおり、竹細工も名産品です。町なかにある「まちなみ竹工房」では竹細工体験もできます。CMで、アイドルグループの一人が持っていた竹細工の風車も作れます。
まちなみ竹工房では、実際に竹の加工をしているところを見学することもできます。竹を使った工芸品、料理道具や竹編みのバッグなどを購入することもできます。しかも、価格を見てびっくり。有名観光地で購入する金額の半値近い価格だったので、買いまくってしまいました! なかでも、目を引いたのが「小鰯おろしへら」。最初に見たときは何に使う道具かさっぱりわからなかったのですが、小鰯などの小魚を三枚おろしにする使い方をお店の方が丁寧に教えてくださいました。「鰯七度洗えば鯛の味」と言われますが、広島ではよく「小鰯」(正式名称は「カタクチイワシ」)をさばき、刺身で食します。水揚げされたばかりの新鮮な小鰯が手に入る瀬戸内地方ならではの食文化から、こうした便利な調理器具が生み出されたのですね。

「まちなみ竹工房」の職人さんがかごの製作工程を丁寧に教えてくれます
「まちなみ竹工房」の商品棚。工芸品から手提げのかご、調理器具まで精巧な竹細工の商品が驚くほどのお買い得価格
工房の方に手伝っていただき風車製作中
竹の風車が完成!
「まちなみ竹工房」で購入した「小鰯おろしへら」。広島でよく食べられる小鰯の調理にはこれが使われるそうです。昔ながらの調理器具

まちなみ竹工房
TEL:0846-22-0973
営業時間:9:30~16:00 ※15時までに入店してください
定休日:年末年始
URL:https://www.takeharakankou.jp/experience/18486
備考:5名以上での体験希望の方は、前日までに予約してください。
【竹細工体験について】
内容:風車一連(写真のもの)800円/その他500円~2,000円
時間:40~60分

かつて塩田で栄えていた時代、お祝い事や祭事のおもてなし料理として出されていた「魚飯(ぎょはん)」という郷土料理があったそうです。昼食には、塩田の終わりとともに消えかけていた幻の「魚飯」をいただきました。竹原市内では失われた食文化を伝えるために、数店舗の飲食店で予約をすれば食べることができるそうです。「魚飯」は魚のそぼろ、干しエビ、穴子などの魚介と、人参やたけのこ、しいたけ、ごぼうなど季節の野菜をさいの目切りにしたものを甘辛く煮て、お好みでご飯にのせ、魚の骨でとった出汁をかけていただく、というもの。竹原でとれた竹の器にきれいに盛られた「魚飯」は、まさに写真映えするおもてなし料理。おかわり必至の、幻のごちそうでした。

昼食をいただいたのは竹原のお土産を扱う「竹楽」。建物は、江戸中期に建てられた旧村上邸。こちらの2階の和室で、仕出しで「魚飯」をいただけます
竹楽膳 2,500円(税込)/竹の器に盛られた「魚飯(ぎょはん)」。瀬戸内海の新鮮な刺身も
魚の骨でとった出汁をかけて、いただきます

竹楽
TEL:0846-22-1558
定休日:不定休
URL:http://www.tikuraku.com/

京都や金沢の、人で溢れかえった古い町並みとは異なり、竹原は町全体がひっそりとしています。これだけの規模の町並みなのにもかかわらず。いまだ観光地化されていない、手付かずに近い古い町並みは、そこに住む人々によって支えられてきました。観光客向けのサービスも正直、多くはありません。お土産屋さんや今流行りの食べ歩きの店もありません。買い物などを目的にした方には、やや物足りなさもあるかもしれません。ただ、人々が暮らしながら守ってきた江戸時代から続く町並みは、非常に貴重で、その空気感は他の町で味わうことのできないものです。
竹原町並み保存地区は、日本に残された正真正銘レアなスポットなのです。

竹原町並み保存地区内の旧家屋をリノベーションして建てられた宿泊施設。8月1日に「NIPPONIA HOTEL竹原 製塩町」としてオープンしました。

NIPPONIA HOTEL 竹原 製塩町
概要:3棟10室(HOTEI棟:フロントレストラン、MOSO棟客室6室、KIKKO棟客室4室)
TEL:0120-210-289
問い合わせ先:バリューマネジメント株式会社
URL:http://www.nipponia-takehara.com/

旧笠井邸の正面。本町通りの起点にある大きな商家。こちらではレンタルサイクルができるようになるそうです
廃屋になりかけていた旧笠井邸を手直しし、当時の部屋を再現したそうです。非常に貴重な空間です
町にたくさんいる猫。全然逃げない

町のいたるところにある古い看板。現役感バリバリ
かつて郵便局だった建物。軒下の黒いものは、昔のポストの復刻版

竹原市町並み保存地区
<問い合わせ先一覧>
竹原市観光協会  0846-22-4331
竹原市産業振興課 0846-22-7745

撮影・取材・文/レアニッポン編集部

Close