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【沖縄・宮古島】特別な島時間を求めて…レアな<共同店>の一つ「島尻パーントゥ購買店」に行こう

【沖縄・宮古島】特別な島時間を求めて…レアな<共同店>の一つ「島尻パーントゥ購買店」に行こう

パーントゥの里・島尻集落を訪ねる

日本には、その伝統的な背景を知らなければ奇妙にしか見えず、しかしそこに漂う非日常感が魅力でもある祭りが多数存在します。そんな“奇祭”と呼ばれる祭りの中でも、 “来訪神:仮面・仮装の神々”として、2018年11月、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された「パーントゥ」という伝統行事があるのを知っていますか?

仮面を着けた3体の鬼神・パーントゥが、人や建物に厄除けの泥を塗るという奇祭

沖縄県・宮古島で旧暦の9月吉日に行われる「パーントゥ」(正式には「パーントゥ・プナハ」)は、国の重要無形民俗文化財でもある重要な来訪神行事ですが、この記事でスポットを当てたいのは「パーントゥ」そのものではなく、“パーントゥの里”として知られる、この奇祭の舞台・島尻という小さな集落にある唯一の売店・島尻パーントゥ購買店です。

2019年4月から、「島尻パーントゥ購買店」の愛称に
高齢化する集落と、それを支える購買店

宮古島北西部、空港から車で20分ほどに位置する島尻集落は、珊瑚礁の豊かな海に面し、漁港からは島内で唯一、大神島への定期船が運航しています。先に挙げた「パーントゥ」をはじめ、マングローブ林などの自然遺産や史跡が多数存在し、貴重な地域資源として活用されている場所です。

特殊な生態系を持ち“海の森”とも呼ばれる島尻マングローブ林

しかし、そんな島尻集落も多くの地方集落が直面する超高齢化という問題を抱えていて、地域活性化という面で非常に厳しい局面に。そして、この集落において重要な役割を担っているのが島尻パーントゥ購買店なのです。

島尻パーントゥ購買店の歴史は古く、戦後まもなく「地域の人、買い物弱者とされる方々の生活の一助となり続ける」ことを目的として設立されました。住民が買い物をするには、市街地まで約8.5km の距離を徒歩で往復するしかなかった当時、この購買店の存在がどれほど物質的・精神的な支えになったか、想像するに難くありません。

地域の人々に愛されている食料品や生活雑貨が並ぶ
もちろん、宮古島名物「うずまきパン」やサタパンビン(サーターアンダギー)もあります

そもそも沖縄や鹿児島の一部地域には、明治末期より続く「共同店(共同売店、購買店とも呼ばれます)」という相互扶助組織があり、最盛期には200店舗以上あったともいわれています。一見すると、地方ならまだまだ見かける個人商店のようですが、地域の人々が皆で運営し、儲けが出たら地域に還元という、沖縄ならではの“ゆいまーる”の精神が息づいています。しかし、少子高齢化や利便性を追求する大型店舗・コンビニ等の影響により、その数は徐々に減少。島尻パーントゥ購買店も、今では70店舗ほどになった共同店の一つですが、店を存続させるためにいったいどんな取り組みを行っているのでしょうか。

「地域おこし協力隊」島尻・大神地区担当 井上歩美さんに聞く

「パーントゥ」がユネスコの無形文化遺産に登録されたのと同じ2018年11月、井上さんは宮古島市の「地域おこし協力隊(島尻・大神地区担当)」に着任、兵庫県から移住しました。そもそも井上さん着任の数年前より、島尻自治会が中心となり地域活性化計画を進めてきたそうですが……

「島尻パーントゥ購買店が赤字続きのため、運営していくことが困難との話が出てきました。高齢化率の高い島尻地区では、今後、今まで以上に住民同士で助け合いながら生活していく必要があります。島尻パーントゥ購買店は地域の中で生活の中心的な役割を担い、なくてはならない存在。この購買店の再生こそが、ひいては島尻地域全体の活性化にも繋がると考えました」

そんな状況を打開すべく手を挙げた有志たちは、島尻パーントゥ購買店を地域活性化の核となる組織にすべく、自治会運営から地域出身者で組織された合同会社への委託へと踏み出します。「自治会運営時よりも、自分たちの購買店に関する改善案やひらめきをいち早く形にすることができるようになりました」と井上さん。その証拠に、着任以降はSNSを使ったプロモーションをはじめ、パーントゥグッズや地域の特産物「カーキだこ」の再販、店内インテリアを見直して休憩スペースを新設するなど、これまでにないさまざまな施策をつづけて打ち出しています。

店内の一角には、オリジナル「パーントゥ」グッズコーナー
ここでしか買えない限定Tシャツ。同デザインの案内看板は、島尻のそこかしこに

タコが獲れた時だけ入荷する、知る人ぞ知る珍味「カーキだこ」は、タコを燻製にした特産品
コンビニにはない魅力

宮古島には1990年代以降、多くのコンビニができましたが、いずれも市街地に集中しています。商品の品揃えやサービスの多様さ、計算された店舗作りなど、資本力とブランド力に勝る全国チェーンのコンビニと比べた場合、島尻パーントゥ購買店のような小さな商店の魅力はどんなところにあるのでしょうか。

「地域の人に愛されるものを中心とした品揃えという点で、コンビニよりも地域の皆さんに寄り添ったお店だといえます。島のおじぃやおばぁがふらっと買い物に現れては、地元の人も観光客も関係なく、しまいには店のスタッフさんまで巻き込んで、いつの間にか“ゆんたく(おしゃべり)”がスタート、なんて光景もよく見かけます。夜は夜で、陽気なおじさんたちが自分の釣ってきた魚をつまみに、外のベンチで飲んでいたりして(笑)。コンビニよりももっと気兼ねなく近所の人が集まってくる……言ってみれば、集落に住む人たちのリビングみたいな場所だと思います。それから掛帳というものがありまして、地元の人はツケで買い物ができるのがコンビニとは全く違うところですね」

無料Wi-Fiが利用できるゆんたくスペースでは、テレビやDVDを楽しむことも。リビングさながらにリラックスできます
スタッフの新里さん(右)と、山内さん(左)。今後は「パーントゥ」のお菓子やお酒等も開発していくそうです
「共同店」の持つ可能性
大神島⇔島尻間を運航する定期便「スマヌかりゆす」の前で

井上さんは最後に、「共同店」の未来について語ってくれました。

「現代の生活と『共同店』の在り方は時代遅れで合っていないと言われることもありますが、『共同店』を中心に形成される文化はとても合理的なんです。『共同店』は家から近くてガソリン代がかからないから経済的、顔なじみの店員さんが笑顔で迎えてくれる安心感があって、食べ物も飲み物も日用品も買えて荷物を発送できる利便性もある。利益が出れば、配当金として地域に還元されるのも『共同店』ならではです。地域の皆さんが、島尻パーントゥ購買店を中心とした大きな家族のように、当たり前に触れ合い、助け合う光景を見ていくうちに、時代遅れと言われる「共同店」に、自然災害にも強い、未来的な地域自治モデルとしての可能性を感じています」

島尻パーントゥ購買店は、住民によるコミュニティの中心として、信頼関係を根底にした福祉的機能も担っており、単なる商店以上の可能性に満ちています。ただ、そんな背景を知らなくとも、大神島やマングローブ林、「パーントゥ」を見に行くときに、ふらっと買い物できる場所でもあるのです。宮古島を訪れた際には、ちょっとだけ車で足を延ばして、こんな空間を楽しんでみてはいかがでしょうか。リゾート開発の波が押し寄せ、今まさに“バブル”真っ只中の宮古島ですが、昔ながらの景色と人がまだまだ残るこの場所では、きっと、それまでの宮古島とはちょっと違った“島時間”を楽しめるはずです。

島尻パーントゥ購買店
住所:沖縄県宮古島市平良字島尻533
TEL:0980-72-5258
営業時間:6:00~21:00
不定休
公式Facebookページ

撮影・取材・文/レアニッポン編集部

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