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いにしえの町のディープな夜【広島・竹原】

いにしえの町のディープな夜【広島・竹原】

江戸時代中期以降の古い町並みが残る竹原。令和元年10月26日、27日には町並み保存地区がライトアップされるイベント「たけはら憧憬の路」も行われ、普段はひっそりとした町並みがさらに幻想的になるそうです。そんな、夜の竹原には、もう一つ外せないポイントがあります。権威あるバーテンダーコンテストで、日本一に輝いたバーテンダーが営むバーがあるというのです。そんなバーがあるのであれば、竹原に泊まらないわけにはいきません。

バーに行く前に、腹ごしらえ、ということで訪れたのが、JR竹原駅からすぐ近くにある割烹料理店「味いろいろ ますや」さん。実は、お昼ごはんにいただいた「魚飯(ぎょはん)」は、こちらの「ますや」さんからの仕出しだったのだそう。研究熱心なご主人が古い文献を紐解き、幻のおもてなし料理を再現されたのだそうです。おかげで、古来のおもてなし料理をいただくことができました。そして、俄然期待が膨らみます。

お嬢さんが作った、「魚飯」を伝えるための手作り新聞。大将の宝物です

瀬戸内海の新鮮な食材を使ったお料理が美味しいことはもちろんなのですが、ここ竹原は老舗の酒蔵がいくつもあるところ。地酒をいただかない理由はありません。言い換えれば「ますや」さんは、地酒に合う料理を地元の食材を使って提供する店、というわけです。地元の割烹ならではのレアな日本酒も取り揃えており、秘蔵の日本酒をなんと全部(!)出していただき、ボトルを眺めながら舌鼓を打ちました。

カワハギの肝まで添えられた新鮮な瀬戸内海の地魚の刺身。本当に美味しかった。手前は田守(タモリ)という瀬戸内でよく食べられる魚。別名セトダイ
地ダコの唐揚げ。お昼の「魚飯」には、地ダコの刺身が添えられていました。味がとにかく濃い!!
竹原の酒蔵「中尾醸造 誠鏡」のあまり市場に出回らない生原酒と、同じく竹原の「藤井酒蔵 龍勢 和みの辛口」。両方かなりレア。そして、今井政之作の酒器
全部、竹原の酒蔵のお酒! レア物もたくさん

「ますや」さんの美味しい食事と地元の日本酒だけでも大満足なのですが、さらにダメ押しが、竹原が生んだ超有名陶芸家・今井政之さんの酒器で日本酒をいただけるのです。今井政之さんは、文化勲章を受章され、花や魚の模様を象嵌(ぞうがん)する技法の第一人者として、海外でも高い評価を得ている日本の陶芸界の重鎮中の重鎮。
大将の升谷さんは今井政之さんの酒器のコレクターで、数十年かけて作品を買い集められたそうです。その貴重なコレクションを惜しみなく使わせていただけるのです。木箱には、その象嵌技法の施された酒器が数十点収められ、そのすべてが今井政之さんの作品。1客数十万円のものもあるというのですから、酒器の入った箱を持つ手が震えました。
ちなみに竹原には、今井政之さんの作品を見ることができる作陶場及び作品展示館があります。
価値ある酒器で名産の日本酒をいただいた翌日に足を運べば、有り難みが倍増しますね。

竹原が生んだ有名な陶芸家・今井政之さんの酒器! 何度もお酌いただくのもなんなので、一番大きいのを選びました。酒器には蟹の象嵌が施され、いただく酒もより一層味わい深くなります
研究熱心な大将の升谷隆美さん。地元愛は半端ありません

味いろいろ ますや
住所:広島県竹原市中央4-1-22
TEL:0846-22-8623

お腹もいっぱいになったところで、楽しみにしていたバーへ向かいます。
駅から歩いて10分ほど、ということで、繁華街へ向かうと勝手に思い込んでいたのですが、バーへと道を進めば進むほど、店は減り、どんどん街明かりは暗くなります。店のある一角に向かうため、幹線道路を曲がると、そこはほぼ住宅街。こんなところにバーがあるのか、と頭の中が疑問符で満たされ始めたその時、ぼんやりと薄明かりに照らされたバーの看板らしきものが見えてきました。

暗闇にポツリと浮かぶバーの看板

しかし、そのバーの看板がかかっているのは、普通の一軒家。でも確かに、住宅のドアとは思えないような重厚なドアがあります。重いドアを開けると、そこは別世界。薄暗い一枚板のバーカウンターの後ろには、夥しい数のボトルが並ぶオーセンティックな空間が存在していました。聞けば一枚板のカウンターはアフリカンチェリーとのこと。
マスターの堀内信輔さんは、数々のバーテンダーの腕を競うコンベンションで入賞されていて、昨年の権威あるコンクールでは日本一の栄冠に輝いたそうです。定番のカクテルはもちろん、季節のフルーツを使ったカクテルも得意ということで、最初はマティーニからスタートし、そのあとはおまかせにしました。最初のマティーニだって普通ではありません。使われたジンは、地元で作られた「桜尾」というイギリスの品評会で金賞をとったジンというこだわり。風味が豊かだったのでマスターに聞いてみると、ジンの歴史から「桜尾」の製法まで語る語る。酒にまつわる豊富な知識は、それだけでいい肴になります。
堀内さんは、好みや気分からオススメのカクテルを作ってくれるので、カクテルや酒の名前を知らなくても、安心して美味しい酒をいただくことができます。
こんなところに(と言っては失礼ですが)、こんな空間が存在するとは、竹原、深すぎる。

このドアのおかげで、普通の家じゃないことがわかりました
薄暗い店内。一枚板のバーカウンター。オーセンティックなバー。後ろの酒棚には3列に並ぶボトルが
このシェイクでチャンピオンに!
地元の白桃を使ったカクテル。フルーツのカクテルは得意だそうです
数杯目のカクテル。美味しかったことしか覚えていません
地元で作られたジン。これでマティーニを作っていただきました
酒について語りだしたら止まらないマスターの堀内信輔さん。その内容があまりにマニアックなので、「変態ですね」といったら、「それはバーテンダーにとって一番の褒め言葉です」と喜ばれてしまいました

BAR ROBERTA
住所:広島県竹原市中央3-8-8
TEL:0846-22-9907

時間の感覚がないのは、バーの暗闇のせいか、オススメされるままに重ねたカクテルのグラスのせいかわからないまま、後ろ髪を引かれつつ店をあとにしたのは、11時過ぎ。店の周りは住宅街なので、あたりは真っ暗。つい一瞬前までバーにいたのが錯覚だったかのような落差を感じつつ、千鳥足でホテルに向かう道すがら、同行した方がどうも小腹が空いた様子。とはいえ、タクシーはおろか通り過ぎる車さえないような町なかで、開いている店もなく、もちろんラーメン屋さんの看板も見当たりません。諦めかけたその時、突如その店は現れました。

「王将」。どうやらお好み焼き屋さんらしい。決してきれいとは言えないながら、店から漂う雰囲気は尋常ではありません。選択肢がないということもありましたが、突撃入店。
カウンターと座敷からなる店を女将さんが一人で切り盛りされています。お好み焼き屋さんですが、カウンター奥にはおでんの鍋も。何を頼むか悩んでいると、女将さんから「広島来たら、お好み焼きでしょ」と背中を押すツッコミが入ります。迷うことなくお好み焼きとおでんをいただきました。後で聞いたら、この店、かなり有名店らしく、大手航空会社のCAさんも常連とのこと。

もう、このあたりから記憶が定かではありませんが、竹原のディープな夜は更けてゆきます。

「王将」の明かりが町なかにぽつんと灯っていました
年季の入った店内のメニュー札。ツッコミを入れたくなるメニュー
肝心のお好み焼きの写真を撮り忘れ、おでん。ピンぼけですが、八丁味噌で煮込まれていて、色の割にはあっさりでした

王将
住所:広島県竹原市中央5-1-8
TEL:0846-22-1243

撮影・取材・文/レアニッポン編集部

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