この記事は、特集・連載「全国から厳選!クラフトビール特集」宮崎編 Vol.1です。
九州のクラフトビールを代表する「宮崎ひでじビール」。場所は限られていますが、東京や大阪でもタップから注がれる生のひでじを味わうことができます。
でも、地元に行くとやっぱり違う。それは、ココでしか飲めない生ビールの存在です。クラフトビールはローカルの風土、人によって造られるものであり、それゆえに大量生産はできません。“お膝元”でしか飲めない酒があるのも至極当然です。
前置きが長くなると、ビールがぬるくなっちゃう…。宮崎ひでじビールの直営店「延岡三蔵・県産酒Bar HIMUKA」の内田智和さんに、店主が選んだ「宮崎ひでじビールベスト3」を聞きました。
ひでじの原点、きれいな味がする「太陽のラガー」
1つ目はフラッグシップであるピルスナー、「太陽のラガー」です。さっそく、いただきます……うん、スッキリ。さわやかな苦みに加え、ほどよいコクがあり、非常にバランスがいい。これが、自家培養のフレッシュ酵母が生み出す特徴なのか。元気のいい酵母ががんばった結果、純粋で明るく、まっすぐいい子に育ちました、というような素直な味のビールです。まるで宮崎県人みたい? 日照量の多い“日本のひなた”宮崎のビールにふさわしい味わいです。

「はずさないビールで、いい意味で万人受けします。個性の強いタイプが好きなクラフト好きに言わせると物足りないかもしれませんが、ひでじが誇る『きれいなビール』だと思います」と内田さん。誰もが好きな味で、人にたとえると、誰とも合わせられる人気者といったイメージのビールです。
宮崎特産のあの柑橘を使い、人気上昇中「九州CRAFT日向夏」
続いて2つ目は、「九州CRAFT日向夏」。宮崎特産の黄色い柑橘「日向夏」を使ったビールです。日向夏はグレープフルーツのような苦みはなく、甘さと酸味のバランスがとれていて、冬から春にかけてが旬。地元・宮崎では、外皮と実の間にある白いふわふわした部分も食べるのが一般的です。
それをビールにしたらどうなるか。日向夏の特徴そのままに、ほどよい甘さと酸味でフルーティーな味わいに仕上がっています。「ビールは苦いから苦手」という人でもぐびぐびいっちゃいそうですし、逆に「フルーツビアは甘ったるいから苦手」という人でも、「これは違うわ、食事にも合うわ」といってぐびぐびいっちゃいそうです。

九州CRAFTというシリーズは、他に「九州ラガー」と季節によって限定醸造される「柚子」「金柑」「かぼす」などがあります。日向夏のビールは以前から出していますが、2018年11月から始まった同シリーズにラインナップされました。九州の名がついている理由は、主原料の大麦、ホップ、副原料の日向夏、柚子などを九州産としているから。豊かな食材の宝庫、九州をビールで表現するとともに、担い手が減少している農業を少しでも応援したいという気持ちまで込められているそうです。
内田さんは「最近では太陽のラガーより、日向夏を真っ先に注文する人が多いほど人気。宮崎といえば日向夏というイメージがあるようで、宮崎ひでじビールの代表商品に躍り出ています」と教えてくれました。
ここでしか飲めない! WBA世界No.1「栗黒」の熟成樽生ビール
最後に3つ目は、宮崎ひでじビールの名を世界にとどろかせた黒ビール「栗黒(くりくろ)」です。36か国から1900以上の銘柄が参加した2017年のビールコンテスト「ワールド・ビア・アワード」(WBA)で世界一の栄冠に輝いたもの。もともと輸出用に作られ、北米のビール好きが満足するようにアルコール度数は9%と高め。日本らしいビールにするため、宮崎産の和栗を副原料としています。

国内流通が非常に少なく、それも瓶のみ。けれども、地元・延岡の直営店では栗黒の生が飲めます。ビアフェスなどの特別なイベントを除き、常時飲めるのは本当にここだけです。そう、大事なことなのでもう一度言います、ここだけです。超レアです。
漆黒のスタウトビールは、ブランデーグラスのように胴が大きく、ステムが短いグラスに注がれます。では、飲んでみましょう。
あれ、モンブラン? 栗の甘い香りが鼻腔をくすぐります。飲んでみると、スタウト特有の重厚さはあるものの、押しつけがましくない。麦茶というと言いすぎですが、ローストした麦の香ばしさを感じます。これは、大麦を高い温度で乾燥させたローストバーレイを使っているから。栗のまろやかな風味が加わっているおかげか、以前、スタウトが苦手な友人が「このスタウトは大好き」と絶賛していました。
「今は1年熟成のものを提供しています。このグラスでお出ししているのは、栗黒はじっくり手のひらで温めて、常温くらいで飲んでいただくのが適しているからです。デザートの代わりに、締めの一杯としてもおすすめです」と内田さん。温めれば、もっと香りも立ってくるだろうし、アルコール度数が高いからゆっくりと味わって飲むのがいいのですね。まさに大人のビール。バニラアイスクリームに栗黒をかけた「栗黒アフォガード」500円(税込)もあります。
番外編 宮崎を愛するひでじが、宮崎のために造ったビール
直営店ならではの生ビールを飲みながら、全国各地のクラフトビールを飲んできた内田さんとのビール話も楽しいお店、「延岡三蔵・県産酒Bar HIMUKA」。平日は地元の人よりも、仕事やプライベートで延岡にやってきた県外の人がカウンターにずらりと並ぶことも多いそうです。
店の「三蔵」の意味は、延岡にある酒蔵「千徳酒造」、焼酎蔵「佐藤焼酎製造場」とひでじビールの三社のこと。地元の日本酒、焼酎、ビールが飲める酒好きにとってはたまらない店なのです。
生ビールは今回飲んだ3種と「森閑のペールエール」「月のダークラガー」の計5種が定番。その他、季節によって2種が加わります。取材に伺った日は、令和の始まりに発売され、ネットで即完売になった限定醸造のレッドビール「ことほぎ」と、こちらも限定醸造の「ゴールデンアローピルスナー」を飲むことができました。

最後に、宮崎産の材料で造り、宮崎県内の飲食店にしか販売されないビール「YAHAZU(やはず)」をご紹介します。宮崎で初めて自家製「宮崎モルト」造りに成功し、それを100%贅沢に使った希少価値の高いビールです。「飲みたければ、宮崎に来(き)ない」と、クラフト好きに手招きしているかのようです。その味わいは…ぜひ、現地でお確かめください。

思わず、ビールを飲むためだけに来たくなる店、それが「HIMUKA」でした。
延岡三蔵・県産酒Bar HIMUKA
住所:宮崎県延岡市船倉町2‐5‐9
電話番号:0982‐27‐4200
営業時間:20:00~翌1:00
定休日:日曜
取材・文/小御門 綾
編集者/ライター。福岡県生まれ、神奈川県川崎市育ち、宮崎県在住。明治学院大学卒業後、メーカー勤務。その後、出版社勤務を経て、フリーランスの編集者、ライターに。現在、「日向経済新聞」(みんなの経済新聞ネットワーク)の編集長を務め、宮崎から情報を発信する。築150年ほどの古民家に住み、おいしいもの探しが趣味。
撮影/本井信哉
編集/くらしさ