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【ニッポンの名産地 Vol.3】金属カトラリーといえば新潟県燕市

【ニッポンの名産地 Vol.3】金属カトラリーといえば新潟県燕市

ニッポンのさまざまな地域の多様な名産品から「レアニッポン」が厳選&紹介する連載「ニッポンの名産地」。山梨県のネクタイ奈良県の靴下に続く第3回は、新潟県燕(つばめ)市にて生産されている金属カトラリーを取り上げます。燕市は隣接する三条市とともに金属加工製品の一大生産地として広く知られ、世界屈指の技術力を持つと讃えられている“名産地”なのです。

この記事は特集・連載「ニッポンの名産地」Vol.3です。

燕物産のカトラリー「月桂樹」/大正時代から約100年にわたり作り続けられ、今なお上野精養軒など洋食の名店で使われている日本製カトラリーの名品。洋白(ニッケルシルバー)の鮮やかなきらめきと、そこに型押しされたロココ調の月桂樹&稲穂モチーフが気高さを醸し出す逸品だ(詳細後述)。左から/ヒメフォーク、デザートフォーク、デザートナイフ、デザートスプーン、ティースプーン。25ピースセット(各アイテム×5本)6万4000円。燕物産 TEL:0256-63-6511 https://www.tbcljp.com/ 写真提供/燕物産
左/燕市は新潟県のほぼ中央に位置する。右/暴れ川と呼ばれた信濃川の洪水を日本海に流し出すべく、1907(明治40)年から約15年にわたり大河津分水(おおこうづぶんすい)が建設された。結果、水害は解消され、湿田の乾田化で越後平野が日本有数の米どころとなった。写真の左上が大河津分水、手前が信濃川、右上は燕市分水地区の市街地。写真提供/信濃川河川事務所

江戸時代初めの寛永年間(1624~1645年)、信濃川の度重なる氾濫により、燕・三条の農村は経済的に疲弊していました。そこで、大谷清兵衛なる代官が和釘の製造を奨励したのが事の始まりです。その後、近くの間瀬銅山(まぜどうざん)が開発され、そこから良質な銅が得られるようになると、周辺の山林から燃料となる炭が豊富に調達できることと合わせて、和釘作りは発展していきました。

結果、農家の副業として鍛冶産業は盛んになり、和釘の生産に留まらず、ヤスリ、煙管(きせる)、当て金で成形する鎚起銅器(ついきどうき)など多様な金物が生産されることに。そして明治以降、こうして培われた技術が金属洋食器作りの基礎となったのです。

今日、燕・三条地区は「日本で一番、社長が多い町」と言われており、要は家族経営など小規模な金属加工業者が数多く集結しているのです。しかも、その技術力の高さは国内はもとより、海外にも広く知られ、高い評価を得ています。

さて、燕市ではことに金属洋食器の生産が盛んで、金属製のカトラリー(食卓用のスプーン、フォーク、ナイフなどの総称です)にいたっては、国内生産シェアのなんと90%を占めているのです! しかも、そのなかには他に先駆けて、この地で誕生したカトラリーも。代表格に、1960年に市内の某工場が考案・製造したイチゴスプーンがあり、近年では燕物産が開発した「スマートスプーン」(後述)も、そうした発明品になります。

左/燕物産の8代目・捧吉右衛門氏の親戚で、同氏の依頼により、1911年に燕で最初に金属洋食器を製作した今井栄蔵氏による鎚起銅製の湯沸かし。右/往年の燕物産工場内。撮影時期は不明だが、写真機の露光に長時間を要する時代だったため、従業員たちは静止状態でポーズをとっている。写真提供/いずれも燕物産

燕市の金属カトラリー産業、その始まりと発展には、同地で金物屋を営んでいた捧 (ささげ)吉右衛門商店(現在の燕物産)が大きく関わっています。1907(明治40)年のある日、鎚起銅器の納品のため、同社の8代目・捧吉右衛門氏は東京・銀座の貿易商、十一屋商店を訪れ、その店先で舶来物のスプーンとフォークを目の当たりにし、これを燕の新しい産業にしたいと考えました。

きっかけは4年後に訪れます。ある富豪の注文を受けた十一屋商店の社員が燕の高い技術力を買って、捧吉右衛門商店に洋食器36人分の製作を頼み込んできたのです。吉右衛門氏はこれを受け、鎚起銅器などを手掛ける職人、今井栄蔵氏に製作を依頼。そして、これが燕で作られた最初の洋食器になりました。

1914(大正3)年に8代目・捧吉右衛門氏が東京からスプーンの見本を持ち帰り、大阪で注文を取ったのを機に、捧吉右衛門商店は本格的にスプーンとフォークの生産に取り組むようになり、燕の町工場31軒のうち、約20軒がその生産に協力しました。そして1921(大正10)年にはステンレスナイフの生産も始まり、ここにスプーン、フォーク、ナイフが出揃い、和食から洋食へという日本人の食の変化が進むにつれ、燕市の金属カトラリー産業は大きく飛躍していったのです。

ナイフの柄は太いほうが握りやすいものだが、そのぶん重くなり、刃先とのバランスも悪くなる。燕物産はこの問題を解消するため、「月桂樹」のナイフに最中柄(もなかえ)と呼ばれる中空構造の柄を採用。お菓子の最中のように、その内部に「あんこ」と呼ばれる重りを仕込むことで、重量とバランスを図っている。写真提供/燕物産
「月桂樹」のナイフでは、刃先にも注目を。左/えぐれのような曲線を見せる鎬(しのぎ。※黄色い線で囲んだ部分)は刃の強度を高めるためのもので、ヨーロッパの高級ナイフや日本刀などにも見られるディテールだ。右/目通し(めどおし)は刃先の表面を美しく仕上げたのち、そこに施される極めて微細なヘアラインのこと。これにより、表面についた傷を目立たなくできる。写真提供/燕物産
2014年に登場した「スマートスプーン」は、丼物などをスプーンで食べる人が増えたことを受け、大きく口を開けずとも食べられるようにと燕物産が開発したもの。一般的なスプーンに比し、皿部分が細長く、かつ薄くデザインされている。ステンレス製。Mサイズ500円、Lサイズ550円。燕物産 TEL:0256-63-6511 https://www.tbcljp.com/ 写真提供/燕物産

編集・取材協力/
燕市産業史料館
国土交通省 北陸地方整備局 信濃川河川事務所
燕物産
ベルクール

構成・文/山田純貴

※表示価格はすべて税抜き

 

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