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パン屋が造る、発酵技術を生かしたクラフトビール【鳥取・タルマーリー】

パン屋が造る、発酵技術を生かしたクラフトビール【鳥取・タルマーリー】

この記事は、特集・連載「全国から厳選!クラフトビール特集」鳥取編 Vol.1です。

「ようやく、うちらしいビールになってきた。なんていうか、こうしみじみといつまでも飲めるビール。それでいて次の日に、二日酔いにならないものを目指したいんですよ」。今はパンを弟子に任せ、ビールの醸造人が板についてきた「タルマーリー」の渡邉 格(いたる)さんはうなずきます。

鳥取県智頭町にある人気パン屋「タルマーリー」が、ビールを造り始めたのは2016年1月。パンで培った発酵技術を応用し、オリジナルのビール造りを展開しています。当初はパン屋の元スタッフがビール造りを県外で学び、ビール造りをスタート。2017年9月に渡邉さんが引き継ぎ、そこからがらっと方向性を変えたそう。1年かけて原材料探しから始め、試行錯誤の連続。さらに半年かけて、ようやくレシピが完成してきたといいます。

パン屋のこだわり

パンも素材や製法にこだわっている「タルマーリー」。ビールの原料の一つである麦芽を、ドイツ産のオーガニック素材に切り替えたのにも理由があります。「パン用の酵母も、例えば酒種は無肥料・無農薬栽培の米を使います。過度の肥料を与えて育ったものは窒素分が多く腐りやすいんですが、自然栽培のものは腐敗しにくい。無肥料のものは生命力が強く、腐敗せずに発酵するんですよ」。ビール造りの工程では、麦芽を湯に浸して作った麦汁をビールタンクで発酵させますが、そこで残った麦芽カスが以前はすぐに腐敗していたのに、オーガニックに切り替えてからは腐らなくなったのだそうです。

発酵後のビールの澱(おり)は一般的には捨てるのですが、「タルマーリー」ではパンの酵母として再利用しています。「つまり最終的にはパンの原料になるので、ビールの材料もしっかりしたものでないと…」と渡邉さん。ホップも、パンに使うオーガニック原料の仕入れ先である輸入会社「NOVA」(埼玉県)の社長が独自ルートを作ってくれ、オーストラリア、カナダ、アメリカの有機ホップを仕入れることに成功。「うちは有機農産加工品のビール」と胸を張ります。

なかでも、渡邉さんのおすすめが次の3種類。

おすすめ1「ラジカルサワーエール」
乳酸菌を培養してから本仕込みをする製法で造った、酸味のあるサワービール。「ビールももっと多様性があっていい。酸っぱさのあるビールもその一つ。まさにうちらしいビール」と独特の言い回しで手応えを口にする渡邉さん。肉料理などによく合います。

おすすめ2「レベルシードエール」
品種改良をしていない古代小麦を50%以上使って造ったビール。オレンジの皮、コリアンダーシードが上品に香ります。オレンジのさわやかな酸味がほのかにあり、さまざまな料理に合います。

おすすめ3「レッドゾーンエール」
イチジク酵母で仕込んだビール。「うちの中ではどちらかというと、ビール単体で楽しめるビールかもしれない」と渡邉さん。食前や食後のお供に向いているとか。ある程度のコクや果物の風味を楽しめます。

なお、ビール醸造所は、カフェと隣接しています。元保育園だっただけに温かみのある作りで家族づれでもゆっくり過ごせ、同じく隣接するパン工場でできたパンや焼きたてピザを頬張りながらクラフトビールを堪能するお客さんも多いそうです。

多様な価値観をビールでも

渡邉さんはもの作りを通して、社会にメッセージを発信しようとしている。「ビールでも古代小麦をあえて使いたかった」と力を込めます。「この30年ほどで急激に産業構造が変わり、ロボットで収穫できるように均一に成長するような種が作られてきた。でも本来は子どもの成長がみな違うように、種もみな違う。効率化を進めれば人の手もいらなくなって労働は楽にはなるかもしれないが、多様性をどんどん無くしてしまって、果たしてそれでいいのかと言いたくて。パンやビールから何かを訴えたいんですよね」。

多様性でいえば、クラフトビールが台頭してきたビール業界にも当てはまります。「日本ではビールの味はこうだという固定概念があり、新たなものを受け入れる土壌がなかった。だからうちはいろいろな商品を出し、市場に多様な価値観を生んでいきたいんです。いろいろな地域にそれぞれの発酵があり、その土地が作る味があるのですから」と渡邉さん。

地域との循環

取材中、偶然店を訪れた地域住民と挨拶を交わす渡邉さん。「タルマーリー」が智頭町にできた当初から応援し協力している林業家の大谷訓大(くにひろ)さんでした。林業のかたわら農業もやっていて、「今は、訓ちゃんのところにもホップ作りを頑張ってもらっているんです。地産のビールを造れるんじゃないかと進めてきたんですけど、やっと向こうのほうに出口らしき光が見えてきた感じです」と渡邉さん。少量ながら、昨年は初めて大谷さんが地元の五月田集落で栽培したホップを使ったビールも完成し、みんなで楽しんだといいます。

「これからグローバル企業のために、いろいろなものが合理的に、大量に安く作られる。農業までそうなるのは問題です。だからこそそういうやり方ではなく、田舎でこういうのできちゃいました、という味を作りたい。気候と人間の味覚が一致したものがあるはずなんです」

「こうじゃないといけない」ではなく、多様性のあるビール造りを続けたいと話す渡邉さん。自らのビールを「酸味や雑味があったり、万人受けする味ではないけど、でも意味がある」と自負します。近い将来、店の敷地内の一角を麦芽工場にしようという計画もあるとか。渡邉さんの夢はますます広がっています。


タルマーリー
住所:鳥取県八頭郡智頭町大背214-1
TEL:0858-71-0106
営業時間:
◇パン販売/11:00~17:00
◇カフェ営業/平日 11:00~15:00 L.O.(ピザ14:00 L.O.) 休日 11:00~16:00 L.O.(ピザ15:00 L.O.)
定休日:火曜、水曜

撮影・取材・文/藤田和俊
鳥取県を拠点に活動するフリーのフォトグラファー、ライター、編集者。地元新聞社の記者を辞め、2019年6月に独立。「人の心が豊かになるように」をモットーに、そこにあるストーリーや本質を大切に取材する。人物を中心とした取材・撮影、書籍制作、企業や団体のブランディングなど幅広く携わる。

編集/くらしさ

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