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林業家のホップが地ビールに。「タルマーリー」から広がる「豊かさ」の連鎖

林業家のホップが地ビールに。「タルマーリー」から広がる「豊かさ」の連鎖

この記事は、特集・連載「夏のクラフトビール特集」鳥取編 Vol.3です。

「ホップのことなんて、何も知らなかった」。鳥取県智頭町のパン屋「タルマーリー」が目指す地産地消のビール造りに協力し、ホップ栽培を始めた男たちがいます。智頭杉が有名な林業の町で林業会社「皐月屋」を営む大谷訓大(くにひろ)さんは、自社メンバーでホップを栽培。少しずつ収穫量を増やしながら、地域内循環の一役を担っています。

林業家たちの挑戦

大谷さんは自伐型林業というやり方で林業を行っています。自伐型林業とは、その名のとおり自分の山を自分で伐採、木材を搬出し、出荷するやり方。「型」が付くのは他の所有者の山も依頼を受けることがあるから。利益を求めてたくさんの木材を切る大型林業とは相対する姿勢で、「100年先に残る山を作りたい」という信念が、「小さくても本当のことがしたい」という渡邉さんのそれと共鳴しました。

「タルマーリー」の渡邉 格(いたる)さんからホップの苗をもらったのが2015年春。「『タルマーリー』も当時は外国のクラフトビールを置いていたころだったけど、そこでビールの奥深さを知ってこんな世界もあるんだと思った。そんなとき、育ててみないかと声かけられた」。

大谷さん(左)と「タルマーリー」の渡邉さん(右)

もともと林業だけでなく、山里で収穫する米やシイタケ作りから個人事業を始めた大谷さん。とはいえ、ホップ栽培はもちろん初体験。「村(五月田集落)が使っていなかった耕作放棄地も有効活用できるし、山から出た杉を使ってホップを育てる棚を作るところから始まった」と一歩踏み出しました。

ホップ作りを順調に進められたのには、社員の小谷洋太さんの存在も欠かせません。同町の野山で育った環境もあって根っからの植物好き、もともと花屋で働いた経験もあったそう。林業の道に入ったのも花屋時代の苦い経験が理由の一つで「農薬をたくさん使った花を扱いすぎてアレルギーが出ちゃったんです」と話します。「どの世界もそうかもしれないけど、経済を優先しすぎるとそうなるよな」と大谷さん。

縁あって皐月屋に入り、ふと気づいたことがあると小谷さんはいいます。「山に入るようになって、そこにあったもの、人が手をつけていない植生に触れたかったんだなぁと気づきました。そこにある本物の花を見てもらいたいと思って」。植物を知る小谷さんが加わり、現在は京大卒で皐月屋にやってきた加藤 翼さんと3人で作業に当たっています。

小谷さん
自分たちのビールの味に感動

収穫量はまだ多くありませんが、それでも多年草のホップは一年一年株を大きくさせ、昨年初めて1kgを収穫。これまで冷凍しておいた3年分のホップと合わせ、初めて渡邉さんがビールを仕込んでみたそう。大谷さんは「超衝撃」、小谷さんは「感動した」と自分たちが栽培したホップを使ったビールの味に驚きました。「500Lのビールに対し、ホップの香りを出そうとすると10kgはいるみたいですけど、これだけの少量でもビールのスパイスになるんですよね」と小谷さん。

実際栽培してみて、直面する課題も少なくないとか。小谷さんは「まず気候。ホップの主な生産地は東北で、夏の平均気温が25度くらい。鳥取は年々暑さが厳しくなってきているので、どう耐えしのぐか。どうしても環境が違うのであれば、どう対処していくかが重要」と話します。今後、自然栽培にしていくためには、よりその土地独自のやり方を確立しなければいけません。

「昨年までは(渡邉)格さんの知り合いから苗を分けてもらっていましたけど、今年は株分けで畑を埋めることができました。大きく定着させていくための準備がようやく整ったので、来年の収穫はもっと期待できます」と小谷さん。一方で大谷さんは、「どこでマネタイズしていくかは経営の課題」と経営者の顔をのぞかせます。今はいかに自分たちの作るホップの存在を知ってもらうかが大事です。地元のイベントに出店して、収穫したホップの葉を使ったお茶や、葉を混ぜて作るアイスクリームを販売しているといいます。

ホップで広がる豊かさ

畑の広さからしても、収穫の限界はあります。「それでたくさん儲けようという考えがなく、『タルマーリー』で使ってもらえる分が補えたらいいなと思う」と大谷さん。「ホップを作っていることやビールを飲んだ感想など、町の人からも声をかけてもらうことがうれしい。格さんが造るビールに使われるのでごまかしはできない。その責任感もついたし、自分たちの仕事に誇りを持てる」と小谷さんが続けます。

小さくても、着実に。「それで俺らの生活が豊かになる」と大谷さんは胸を張ります。「タルマーリー」のビール造りから始まり、皐月屋のホップ作りと、地域内循環が動き始めています。


撮影・取材・文/藤田和俊
鳥取県を拠点に活動するフリーのフォトグラファー、ライター、編集者。地元新聞社の記者を辞め、2019年6月に独立。「人の心が豊かになるように」をモットーに、そこにあるストーリーや本質を大切に取材する。人物を中心とした取材・撮影、書籍制作、企業や団体のブランディングなど幅広く携わる。

編集/くらしさ

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