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“ビールは農業”、熊本に個人でブルワリーを立ち上げた鍛島悠作さん

“ビールは農業”、熊本に個人でブルワリーを立ち上げた鍛島悠作さん

この記事は、特集・連載「全国から厳選!クラフトビール特集」熊本編 Vol.2です。

熊本市東区にある「BREWERY KAEN(ブルワリー カエン)」は、ビールの小規模醸造所(マイクロブルワリー)を併設したレストラン。他地域では飲めない「メイド イン クマモト」のクラフトビールを造り続け、今、地元で注目されている存在です。小規模とはいえ個人で醸造所を立ち上げるのは珍しく、困難も多かったといいます。それでも夢を成し遂げ、次の道へと走り続けるオーナー・鍛島(かしま)悠作さんに話を伺いました。

世界を巡る中で知った、「ビールは世界の共通言語」ということ
ひげがチャームポイントの鍛島さん

「ビアホールの横に、ビールの醸造所を作る」というのはよくありそうですが、酒造免許や大きな初期投資も必要で、実は個人で行うのはとても難しいといいます。それでも、並々ならぬ情熱でその困難を乗り越えたのが、「KAEN」オーナーの鍛島さん。常に誰かと会い何かを発案して動いている、アイデアと行動力にあふれた人物です。このブルワリーの立ち上げに至るまでには、さまざまな人生の転機があったそうです。

レストランの店内から醸造所が見える

熊本市出身の鍛島さん。若い頃はちょっとヤンチャだったそうですが、17歳の時の自分を次のように振り返ります。「これまで周りに迷惑をかけた分、これからは世のため、人のために生きよう。そのためにもまずは『社長』を目指すべきだと漠然と考え始めました」。まずは世界を見てみたいと、24歳の時に世界一周へと旅立ちます。帰国後は、出資者の協力のもとで飲食店を開き、経営も軌道に乗って順調に。そんなとき起こったのが、東日本大震災でした。

「九州からは遠い地での災害でしたが、テレビの映像を見て居ても立っても居られず、40tくらいの救援物資をトラックに載せて、仲間たちと東北へ向かいました。同じ国の出来事とは思えない被災地の姿を見て自分と向き合い、『何かを成し遂げないといけない』との思いに駆られたんです」と鍛島さんは話します。

その結果、世界に目を向け、海外とつながる仕事をしたいと、マグロの貿易に関わる職に就くことに。世界中を飛び回る中で何かの糧になるかもしれないと、各地の酒場を積極的に回り、その土地土地の空気を感じたり、料理やお酒の研究をしました。そんな日々の中で気づいたのが、「豊かな国にも貧しい国にも、必ずあるお酒、それがビールだ」ということ。

「『ビールは世界の共通言語』ということに気づき、改めてビールが持つ可能性に惹かれました。そこで、貿易の仕事を退職した後は、海外のクラフトビールを集めるお店『ビアホール KAEN』をオープンしました。日本ではピルスナー系のビールが主流ですが、『世界にはこんなに美味しいビールがあるんだよ』ということを多くの人に紹介したかったんです」。

クラフトビール文化は、食と農の宝庫・熊本にもマッチする!

そんな中、世界のビールを紹介するだけでなく、自分の手でクラフトビールを造りたいという気持ちが生まれてきます。
「例えば、日本の地酒や焼酎は、造られる地域ならではのストーリーや土地の雰囲気が感じられますよね。ワインも産地によって特徴があるし、相性のいい料理とのペアリング文化もあります。同じように欧米では地域ごとに特色あるクラフトビールがあって、料理に合わせて味の合うビールを選ぶペアリングも普通に行われているんですよ」と鍛島さん。

世界には130種類以上のビールが存在するそうですが、日本で主に飲まれているのはそのうちの1種、ピルスナー系ばかり。そして、「ピルスナー系のビールに合うおつまみや料理」を選ぶ飲み方が主流になってしまっています。

「限られたビールに合わせて飲み方を選ぶのではなく、土地や料理や気分、シチュエーションに合わせてビールを選ぶ。そんなクラフトビール文化を、熊本で作り、育てたい」と思った鍛島さん。この気づきが、一番の転機だったそうです。

酒造免許の取得や、必要な機材の検討、購入など、個人事業主が行うにはハードルの高い事柄が次々に押し寄せてきたそうですが、持ち前の行動力と、人との縁によって一つ一つ乗り越えました。マイクロブルワリーが多い欧米をはじめ、アジアなどへ行って学ぶ日々。そこで出合ったのが、機能性や使い勝手、大きさなどの条件が合ったスロベニア製の小型醸造機でした。さまざまなレシピを作れる柔軟性を備えた半自動の機械なので、手作業によるビールの個性が生まれやすいそう。これらの準備期間は2年にも及びました。

半自動の機械なので、個性やアレンジを加えやすい
醸造機をレストランの横に設置することは珍しく、業者も試行錯誤の中で設置に臨んでくれたそう

さらに酒税法が改定となり、フレーバーなどを添加したものも麦芽50%以上なら「ビール」として扱われるようになったことも、大きな追い風になりました。このように人の縁と行動力と運とがクロスし、2018年にマイクロブルワリー「ダイヤモンドブルーイング」併設のレストランをリニューアルオープンしたのです。社長になる、世界一周をする、ビール醸造所を作る…。これらの夢をすべて実現してきた姿から、鍛島さんは周囲の人から「有言実行の男」と呼ばれています。

ビールを通して、熊本の農業を世界へ発信したい
こまめに品質チェック。香りや濁り、泡の状態を確かめます

オープン以来、鍛島さんが徹底してこだわっているのが、「メイド イン クマモトのビール造り」です。九州でも有数の農業大国である熊本県には、農産物が豊富にあります。また、ビール醸造に不可欠な「水」ですが、熊本市は阿蘇の伏流水が流れてきており、水道からミネラルウォーターが出るといわれるほどの「水の都」。水の軟らかい美味しさも、熊本らしい風味を創り出すそうです。これらとビールとの組み合わせでさらに魅力を増して、熊本の美味しさを発信したいと思っています。

実は鍛島さんのビール造りはほぼ独学というから驚きです。その分、固定観念にとらわれず、料理人としての経験、そして世界中で飲み比べたクラフトビールの知識と経験を糧に、いろいろなことに挑戦できているといいます。

「晩白柚(ばんぺいゆ)や晩柑(ばんかん)、デコポン、スイカ、ごぼう、栗と、さまざまな農産物に挑戦しています。ありがたいことに、農家さんやJA、自治体の方からお話をいただいて、新しい素材と出合える、という機会も多いんです」という鍛島さんは「『ビールは農業』なんです」と付け加えます。

「これまでは海外のクラフトビールの商品や手法を日本に取り入れる、という流れでしたが、逆にビールを通して熊本の食と文化の魅力を世界に発信したい、というのが私の次の目標です」とその目線は世界に向かっている鍛島さん。2019年7月には2号店を中心市街地にオープンし、今後はより大きな工場の建築や、海外輸出までを想定した瓶詰めでの販売なども目指すといいます。

地方から世界へ、熊本のクラフトビールが海を越える日も、そう遠くないのかもしれません。


BREWERY KAEN(ブルワリー カエン)
住所:熊本県熊本市東区長嶺南3-1-102
営業時間:月~木曜 17:00~翌0:00(料理L.O. 23:00 ドリンクL.O. 23:30)
金・土曜・祝前日 15:00~翌1:00(料理L.O. 翌0:00 ドリンクL.O. 翌0:30)
定休日:日曜・祝日
TEL:096-384-0178
URL:https://kaen-kumamoto.owst.jp/

撮影・取材・文/中川千代美
長崎生まれ、熊本在住。地方出版社に勤めたのち、「チヨミ編集事務所」として独立。地域の子育て情報誌や生活情報紙をはじめ、幅広いジャンルの編集・ライティング・企画を手がける。食欲・物欲・お出かけ欲・温泉欲・ビール欲が赴くままに熊本・九州を駆け回る日々。趣味は二胡。

編集/くらしさ

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