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「一日漁」が魚と漁師を持続可能にする? 島根県・大田市の漁師と商人の挑戦

「一日漁」が魚と漁師を持続可能にする? 島根県・大田市の漁師と商人の挑戦

威勢のいい声が飛び交う港の市場。早朝の風景かと思ったら、時刻は午後6時です。

70年以上の歴史を持つ「晩市」の様子

島根県・大田市で行われるのは、夕方から夜にかけての「晩市」。朝だけでなく晩にも競りが行われる、全国的にも珍しい魚市場です。

この地に「晩市」が誕生したのは、今から70年以上も前。
冷蔵機能が十分でないなか、どうすれば魚を鮮度の良いまま大きな都市へ流通させられるか、漁師と商人で話し合い、「その日のうちに発送すれば良いのではないか」と調整していった結果、晩に競りが行われるようになったそうです。

鮮度が良いと評判の魚

しかし晩市を行うには、漁師たちは夕方に魚を納める必要があります。つまり、漁を終える時間が早くなる=獲れる魚の量が減るということ。当初は売上げが落ちるのではと心配する漁師もいたようですが、実際に獲れたての魚を翌日には届けられるようになると、「鮮度が良い」と評判になり、都市で高値が付くように。
結果、短い時間・少ない量でも十分な稼ぎが出るようになったのです。

暗くなる前に帰港してくる一日漁の船
晩市に向けて獲れたての魚を納品

そんな「晩市」を支えるのが、日の出から日没の“前”まで漁をする「一日漁(いちにちりょう)」。
通常は日没(17:00〜18:00頃)まで漁をしますが、晩市に間に合うよう15:00頃には漁を切り上げて帰港。漁師はそのまま魚を市場に納め、17:00頃には仕事を終えて帰宅します。

翌朝まで魚を保管して競りを待つ必要がなく、その日のうちにすべての作業を終えるため、付いた呼び名が「一日漁」。この漁師と商人(魚市場や仲買人)が70年も前に生み出した伝統が、現代の大田市に3つの恩恵を与えています。

大田市・一日漁のロゴ

1つ目は「ブランド」。
大田市の“一日漁の魚”は鮮度が良くて美味しいといわれるようになり、高値で取引されています。“量ではなく質”という、現代ニーズに合った商売が実践される、数少ない浜のひとつです。

漁に出ればすぐに、活きの良い魚が獲れる

2つ目は「豊かな魚資源」。
2048年には“食べられる魚がいなくなる”なんてデータがあるほど、世界各地で魚不足が叫ばれています。日本でも資源保護に向けた取り組みが注目されていますが、大田市には豊かな漁場が残っています。

その理由が、“日没前に漁を切り上げる”という一日漁の特性に。獲る魚の量が制限されるため、自然と資源保護に繋がっているのです。
獲る量が限られるから資源が保たれ、良い魚が獲れる。良い魚が届けられるから、限られた量でも稼ぎが安定する。稼ぎが安定するから、無理に獲りすぎないでいられる。こんな“正の循環”が、大田市では自然に回り出しています。

若手やUIターンの漁師たちも働きやすい

3つ目は「漁師の担い手」
実は日本では、魚だけでなく漁師不足が深刻な問題となっています。2008年に約22万人いた漁業就業者数は、2017年には約15万人と、3割以上も減少。さらに、15万人のうち約4割が65歳以上と高齢化も進んでいます(平成29年度 水産白書より)

そのようななか大田市では、地元の若者をはじめ、県外からIターンで来て漁師になる人が増えています。理由は、それなりの収入と共に、“家族といられる時間”が確保できることにあるそうです。一日漁を営む漁師たちは夕方に仕事を終え18:00頃には帰宅します。それによって家族と夕飯を食べたり、お風呂に入ったり、コミュニケーションの時間が十分にとれるのです。

日没頃にはすべての仕事を終える

現在、この「晩市」と「一日漁」の仕組みを併せ持つ港は、日本で数カ所しかないそうです。それは、時代の変化や、もともと遠洋で大きな船を使って漁をしているなど、地域によって適した流通や漁法が違うから。

だから当たり前ですが、「晩市」や「一日漁」が正解とは言い切れません。
ただ、先に挙げた「3つの恩恵」の話を聞くと、このなかに魚や漁師を“持続可能”にするヒントが隠されている気がしてならないのです。

一日漁推進協同組合のホームページ

さらに、大田市では水産卸、加工、小売り、飲食業者などが集まり、6年前に「おおだ一日漁推進協同組合」を立ち上げました。
私が感動したのが、その組合では69歳の代表理事が中心となってクラウドファンディングにチャレンジし、その成果でホームページを作成。“鮮魚定期便”という商品をつくったり、都内のITベンチャーと協力してリアルイベントを開催したりと、いま話題の“ファンコミュニティ”を着々とつくりあげているのです。

若い世代でも躊躇してしまう新たな取り組みに、臆することなく挑戦する姿勢に、話を伺いながら思わず拍手してしまいました。

伝統と革新、この2つが共存する島根県・大田市の漁業が、今後どのように発展していくのか。ますます目が離せません。


撮影・取材・文/中川めぐみ
釣りアンバサダー 兼 ツッテ編集長。釣りを通して感じられる日本全国の地域の魅力(食、景観、人、文化など)を発見・発信するため、メディア「ツッテ」の運営や、初心者向けの釣りイベントを実施。自ら全国の港を飛び回っており、2018年は100地域での釣り旅を計画。レアニッポンでは全国の港町で見つけた地域や海にまつわるおもしろいものをお伝えしていきます。URL:https://tsutte.jp

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