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【スマホなし旅】第1回 釧路駅・世界三大夕日の町をさまよう【北海道】

【スマホなし旅】第1回 釧路駅・世界三大夕日の町をさまよう【北海道】

旅の醍醐味は、緊張とともに未知の世界を切り開くこと。インターネットにより、地球の裏側まで情報化された現代において、本当の冒険とはスマホを持たず見知らぬ土地を徘徊することかもしれません。たとえ隣町でもいい、スマホをロッカーに預けて新たな町へ出てみよう。きっと、新しい出会いがあるはずだから。

人生で一度も訪れたことのない駅に降り立ち、スマホなしで町をさまよう連載「スマホを捨てよ、町へ出よう」。記念すべき第1回は、北海道のJR釧路駅です。筆者は大学時代を札幌近郊で送ったうえに、幾度となくツーリングで同エリアを訪れているのですが、なぜだか釧路駅近辺はスルーしていたのです。

釧路のイメージといえば、世界自然遺産の釧路湿原に、勝手丼の和商市場、映画『幸福の黄色いハンカチ』冒頭のロケ地といったところでしょうか。そういえば、知り合いのライターが夕日の町と書いていたような…。夕焼け好きとしては聞き捨てなりません。

意外にも活気あふれる釧路駅構内の飲食店街。コンビニもあり。でも昔は地下街も広がり、もっと賑わっていたそう
飲食店街の一番奥にあるコインロッカーにスマホを預ける。ううっ、…心細い

ともあれ、初めて降り立った釧路駅。国鉄時代をほうふつとさせる構内はそこそこ活気にあふれ、飲食店や弁当屋をはじめ惣菜屋や古銭屋(!)まで、味のある飲食店や土産屋が軒を連ねます。そうそう、その前にスマホをコインロッカーに預けなくては。

観光客で賑わう和商市場。この時期はシャケよね

そんな釧路駅の観光案内所で地図をもらって近辺をさっと把握。ひとまずおなかが空いたので、ツーリング雑誌でも有名な和商市場を目指します。こちらの名物が勝手丼。どんぶり飯を片手に魚屋や魚卵専門店を巡って、オリジナルの海鮮丼をこしらえるという趣向です。とはいえ、いまや函館、青森ほか全国の海鮮市場でポピュラーになってしまったので目新しさはなく、そのうえ欲望のおもむくままネタを載っけていくと数千円にも上るため、ここはぐっとスルー。観光客向けのご馳走より、ローカルが愛する地元グルメを食べたい。

和商市場名物のアトラクション、勝手丼。ワクワクするけど欲望のおもむくままチョイスすると、寿司屋の丼価格を超えてしまうのが玉に瑕。ただ、朝8時から開いているのが旅人にはありがてえ

そんなグルメは、きっともっと場末にあるはず……との仮説でいったん和商市場を出ました。

駅前の案内地図にも載っていなかった「くしろ丹頂市場」

すると、すぐ隣に「くしろ丹頂市場」という小さな市場があるではありませんか。きらびやかな和商市場に比べると、地方のスーパーマーケットみたいな辛気くさい雰囲気がたまりません。心なしか市場内もくらーい。そんな市場の最奥部には、パイプ椅子とテーブルが並べられた薄暗い一角があり、そこで背中を丸めてラーメンをすする人たちの影がうごめいていました。なに、ここヤバい店?

市場の最奥部でラーメンをすする人影が!

と思いきや、ぼくの脇をサラリーマン風のグループが「よかったー、12時前だからまだ席が空いてた」と駆け抜けます。もしかしてもしかすると、隠れた名店?

釧路に来て魚介をパスするのはアホだなあ、と思いつつ勢いで入店。でも実は、この「らーめん工房 魚一(うおっち)」はサンマの魚醤を使った「魚醤ラーメン」が人気の名店だったのです。どれどれ、オーダーは魚醤チャーシューメン・こってり・太麺(1180円)をチョイス。

魚一の名物・魚醤ラーメン。あさりが載っているのがユニーク

着丼したそれは、敷き詰められたチャーシューの中央にあさりがひとつ。スープは意外にもクリアです。魚醤といえばナンプラーかしょっつるくらいしか知らず、サンマのそれは初めて。一口すすってみると……なるほど、わからない! そう、普段食べ慣れていない未知の味わいゆえ、舌の理解をオーバーしているのです。それよりもチャーシューの下に隠されていた炒め玉ねぎが、どことなくジンギスカンを思い出させます。

麺はぷりぷり食感の玉子麺

結局のところ、未知の魚介だしとチャーシューが織りなす不思議なハーモニーに、最後までフォーカスをあわせることができず食べ終わってしまいました。でも、退店する頃には地元客や観光客による行列が。後から調べてみると、かつてTOKIOの『ザ!鉄腕!DASH!!』にも登場した話題店。ぼくの舌では味わい尽くすことはできかねましたが、もしかすると大阪ラーメンの『どうとんぼり神座』よろしく数年後に突然「あれ、食べたい!」と覚醒するのかもしれませんわかりません。

いつのまにかすごい行列が

食後はいったん駅に戻り、メインの北大通を釧路川に向かって南下することに。釧路駅前も他の北海道の町と同じく碁盤の目状に広がっているので迷いにくいのですが町をくまなく調べ尽くそうとするとけっこう骨が折れます。

釧路駅から南に延びる北大通。北海道大学とは関係ありません
駅前すぐにある「ミヤケ」は、今どき貴重な模型店。店頭にはうどん屋よろしく工房もあって、ここで店主が作り方を実演しているのだとか。残念ながら、ご主人が留守だったので取材できず
激安コインパ。でも地方在住者だと、駐車場にお金を払って停めることじたい抵抗ありますよね

それにしても、目抜き通り沿いなのに12時間600円とコインパーキングが安い。うちのマンションの隣だと、600円で20分しか停められないよ!

なにやら独特の雰囲気を醸し出す「なつかし館・蔵」

北大通を中心に時折、道をそれつつ歩いていたら発見したのが「なつかし館・蔵(北大通店)」なる個性あふれるお店。店頭ではおやきも売っているし、そういや釧路駅構内でも同じような店を見たような…。しかも「アイヌ資料館」まで併設? 普段だったらスルーしちゃうけど記事的にはこういう所に入るべきなんだろうな、と職務上の義務感を抱いて入店。1階は喫茶店風のカウンターがあり、1階・2階ともに懐かしい民芸品や映画・音楽のポスターが所狭しと展示されていました。

2階にはアイヌ資料館(無料)
アイヌの民族衣装と昭和のアニメ絵がフュージョンしたお土産(展示品)
こちらはニポポ人形(?)とこけしのコラボレーションかしら
年に2〜3回は観てしまう、映画『幸福の黄色いハンカチ』のポスター。後ろにはジュリーまでいますね(奇しくもTOKIOでつながったー!)

ぼくの大好きな映画『幸福の黄色いハンカチ』のポスターまで貼ってある。そういや、あの映画の冒頭は釧路だったよな。彼女に振られた武田鉄矢が買ったばかりのマツダファミリアで郵船フェリーまりもに乗り込み、釧路港に到着するんだった。駅前ではパレードがあって、その最中に洋服店で赤いラインの入った白いジャンパーを買うんだけど、あれはどこなんだろう?

釧路で活動する画家の半田晴利さん。ご出身は長野県

入場は無料なので、お礼にとアイスコーヒーを1杯。カウンターにいらしたのは釧路で活動する似顔絵画家で、東京でも個展を開くという半田晴利さん。とにかく手元には表面的な観光案内しかないため、ディープでコアな情報を仕入れるには地元の方に話を伺うのが手っ取り早い。

ふむふむ、聞けば武田鉄矢が白いジャンパーを買った店はいまだ営業中というではありませんか! 突然、聖地巡礼の趣が出てきましたよ。

いまだ現役! 一栄さとう洋品店

その「一栄さとう洋品店」は、北大通をさらに500mほど南下した角にございました。ここかあ。店内は地方在住のご婦人御用達の落ち着いたブティック然(婉曲表現)。入店すると社長さんが出てきて、店内の照明をつけて話をしてくれました。

ろくに買いもしないのに、快くお話しくださった社長さん

いわく、映画冒頭のパレードはこの北大通で行われたもの。うん、面影はまるでなし。面白かったのは映画に登場した白いジャンパーにまつわるエピソード。本州で似たジャンパーを着た容疑者による強盗事件が発生したため、遠路はるばる刑事が聞き込みにやってきたそうな。でも件のジャンパーは店頭で販売していたものではなく、映画のスタイリストが用意した衣装のため「松竹に聞いて」と追い返したのだとか。後年、久しぶりに同店を再訪した武田鉄矢にそれを話したところ、早速釧路での講演ネタにしていたとも。

釧路市街を一望できるという「まなぼっと幣舞」まで坂を上がります

いやあ、スマホなしのぶらり旅おもしれえなあ、と感心していたら以降ケチがつくというか、不運が続きます。一栄さとうの店主にオススメされた、釧路を一望できる生涯学習センター「まなぼっと幣舞(ぬさまい) 展望室」。坂道をひーこら登っていったら、休館日でした。

昔から、図書館に行こうと思った日に限って休館日だったなー

ならば一杯ひっかけるにはちょっと早いけど…と「なつかし館」で聞き込みした、釧路駅北口のホルモン焼「百萬里」までバスで戻ったら…はい、定休日。

釧路駅の北側にある、地元民も知る人ぞ知る(実際、聞き込みしても知らない人が多かった)ホルモン焼の「百萬里」
しかし定休日

マジかー! せめて酒でも飲みたいと迷い込んだのが、その釧路駅北口にある戦後の闇市みたいなスーパーマーケット「ショッパーズ菱光」。缶ビールしか買いませんでしたが、衣料品と食料品が渾然一体となった店内はカオスチック。価格チェックをすると、先日知り合いの羅臼の民宿のご主人が、中標津で大量に購入していた250円のパン一斤が、200円以下とバカ安ではありませんか。惣菜も妙にそそるラインナップだし、なにここ…。

穴ぼこだらけの荒れ果てた駐車場と、バックヤードが混在となったエントランスが戦後を感じさせる「ショッパーズ菱光」

後日わかったことですが、このショッパーズ菱光は件の主人もバスに乗って買い付けに行くという激安スーパーなのでした。ディープ釧路を味わいたいなら、駅の北側!

天然温泉が出るホテル「パコ釧路」

ビールも飲んでちょっと疲れちゃった。温泉にでも浸かりたい、と再び徒歩で「一栄さとう」近くまで戻りました(行ったり来たり…)。この裏手には末広町・栄町という釧路随一の繁華街が広がっているのです。その街なかにあるのが天然温泉が楽しめるホテル「パコ釧路」。釧路市街をなんとか一望できる屋上露天風呂は、宿泊者のみならず立ち寄り客も楽しめます。

泉質もさることながら(ろくに浸かっちゃいない)、サウナ上がりの露天寝湯がサイコー

サ道的にも絶好の設備で、水風呂こそ冷たさが物足りないものの、屋上露天風呂に併設された4つの寝湯が冷たすぎもせず熱すぎもせず外気浴にぴったんこ! しばしのディープリラックスを味わいました。サウナーは要チェックの施設ですよ。

ひとしきりととのったら、時刻はそろそろ夕暮れどき。夕日の町としても売り出している釧路だけに、夕焼けハンティングをライフワークとしているぼくとしても、この旅のハイライトが迫っています。そんな釧路の代表的な夕焼けスポットが幣舞橋なのですが、取材日の9月上旬の鑑賞ポイントはどうやら南岸。このへんスマホアプリがあれば一目瞭然なんですが、ないのでアシで探すしかありません。

幣舞橋の南岸にある喫茶店「BROS」の名物・コーヒーゼリー

その南岸には、これまた「なつかし館」でオススメされたジャズ&ソウルの喫茶店「BROS」が。夕焼け待ちのひとときに絶品と評判の、コーヒーゼリーをいただきます。うむ、確かにおいしいけど湯上がりだからビールも飲みたい! でも店主の木嶋秀康さんいわく、純喫茶ゆえにアルコール類の提供はないのだそう。聞けば、釧路川対岸の繁華街で長年ソウルバーを営んでいたという木嶋さん。そろそろ釧路への恩返しとばかりに、悩み多き思春期の頃、心のよりどころとなった町の喫茶店を始めたのだとか。

夕日を浴びながら、釧路への想いを語る店主の木嶋さん

ええ話や…としんみりしつつも、外はそろそろ夕焼けのハイライト。幣舞橋の特徴であり釧路のシンボルでもある4つの橋上彫刻「四季の像」が、夕日をバックにドラマチックなシルエットを描きます。これは夢中でシャッターを切ってしまうやつ!

ここからはしばらく、夕焼け写真にお付き合いください。幣舞橋のシルエットが美しい…
撮影にはスマホじゃなくて、200mm以上の望遠レンズがオススメ!
夕焼けに集う家族連れや観光客。いいですねえ
木嶋さんのご厚意で「BROS」の2階倉庫からも撮影。いやはや素晴らしい夕焼けでした

ちなみに釧路は、世界三大夕日のスポットとしても知られているとか。初耳、初耳ミク! ちなみに他は、フィリピンのマニラとインドネシアのバリだそう。やけにアジア寄りですが、いずれも港町だと考えると船乗りが語り継いだのかもしれませんね。

しかしぼくには時間がありません。なぜなら旅のスケジュール上、釧路駅を19時前に出る列車に乗らなければいけないからです。で、日没が18時。だったら晩ご飯は30分くらいしかない! あわててタクシーを捕まえて、やっぱり「なつかし館」でオススメされた駅前の居酒屋「だいこう」に駆け込みます。18時過ぎなのにカウンターは満席! 「くしろ夕日ハイボール」なる飲みものと、一年中牡蠣が食べられることで有名な厚岸のカキフライ、大粒のアサリの酒蒸しを、30分ほどで文字通りかき込みました。もっとゆっくり味わいたかった…。

「だいこう」のくしろ夕日ハイボール。味は甘め
釧路に来たなら食べたいのが厚岸の牡蠣! 本当は生牡蠣もいきたかった……

でもおかげで、18時52分発の網走行に無事間に合いました。ちなみに車内でのお楽しみというか、晩飯の食いっぱぐれに備え、気になって買っておいたのがサバとイワシの「ほっかぶりずし」。ネタの上に薄い大根が載っていて、まるで頬かむりをしたように見えるからこの名前だそう。これも後から教えてもらったのですが、駅弁マニアには定番ともいえる人気商品だったようで、確かに青魚の旨味にシャキシャキとした大根の食感、アクセントのショウガと大葉が織りなすハーモニーはさっぱりしていてシメにサイコー。わずか7時間の初釧路でしたが、ほぼ100点満点なのではないかと自画自賛したいほど完璧なフィナーレを飾ってくれたのでした。

車内で食べた駅弁「ほっかぶりずし」

●まとめ
旅のスタート付近でキーポイントとなる「なつかし館」で、さまざまな情報収集ができたこと。また、和商市場や「フィッシャーマンズワーフ」、末広町・栄町の繁華街といったわかりやすい観光スポット、また「釧路といえば海の幸!」的なステレオタイプなチョイスを思い切ってカットしたのが旅の勝因といえるかもしれません(勝ち負けじゃないんですけども)。

ただ、編集者やライターといった職業の悪いクセで「町のすべてを知り尽くしたい!」「味わい尽くしたい!」「記事として成立させねば!」と必死に駆けずり回ってしまったのが反省点。もう少し地元の方との交流や、各スポットでのひとときをじっくり味わっても良かったなあ。ここはたとえ“撮れ高”がゼロでも紀行文として読ませる力量が問われているのか、と思うと避けたい事態でもありますけども。

いずれにせよ、初めてのスマホなし旅は、聞き込み中心で進めるあたりが、少し海外旅行的に似ているなと感じました。つまり、情報がなければ隣町ですら旅になるのです。

ちなみに次回以降は旅のコンパニオンとして、ぼくのアバター「ミニくまちゃん」が登場します。さて、次はどの町に行きましょうか。

「フィッシャーマンズワーフ」で見かけた花咲蟹(?)のクレーンゲーム。うまくいけば300円でゲット!

熊山 准(くまやま・じゅん)

リクルート編集職を経て『R25』にてライターデビュー。執筆分野はガジェット、旅、登山、アート、恋愛、インタビュー記事など。同時に自身のゆるキャラ「ミニくまちゃん」を用いた創作活動&動画制作を展開中。ライフワークは夕焼け鑑賞。マレーシア・サバ州観光大賞2015メディア部門最優秀海外記事賞受賞。1974年徳島県生まれ。

熊山准のおブログ
http://www.kumayama.com/
Yahoo! JAPANクリエイターズプログラム
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