Close
ダニと寄生相手のディープで一途な関係

ダニと寄生相手のディープで一途な関係

突然ですが、日常あえて意識しない、したくないモノってありますよね?パッと思いつくのは虫!という人も多いかと思います。高速で這い回る黒い悪魔や、安眠の天敵である蚊といったような。かなうことなら絶対にお会いしたくない、害虫たちです。

お届けするのは、インパクトある外見や行動がイヤでも目に付くそんな虫たちに比べて、人の目では見えないミクロ世界の住人、ダニを主役にしたお話。しかし「ダニが居る」と分かれば躍起になって駆除にはしるであろう、害虫カテゴリーに入りがちな哀しい存在です。

生物学者でダニと原生生物の研究者である島野 智之先生に、そんなダニと寄生相手のディープな関係性について、コラムを寄せて頂きました。ダニという生物の存在は知らないことだらけですが、特に相手から捨てられないように必死でしがみつくダニの一途さと多様さに心躍ります。
今回は、そんなダニの生態についてのお話です。


僕(島野)が専門にしているダニのうちのひとつが、自由気ままに森の落ち葉を食べて生活している、ササラダニというダニだ。4億年前から既に、口器の形が落ち葉を食べるようにできており、人間の手に乗せても人の血を吸ったりする事はできない。
人間も含めて他の動物とは全く関わらず、森の落ち葉の下でただ毎日、落ち葉を食べながら一生を終える。

恐竜が陸上に現れたのが約2億年前、生きた化石とよばれるゴキブリが現れたのが3億年前だから、それよりもずっと前から、落ち葉をたべる一生を繰り返してきたのがササラダニ類達だ。
つまり、ダニと言っても人間の血を吸うものは世界で5万5千種もいるダニのうちのたった1%にしか過ぎず、少なくとも8割以上のダニは人間とは全く関係のない、自然の中での生活を送っている。

ササラダニもそのなかの一つのグループである。

図1. モンツキダニ属の一種(ササラダニ類)(走査型電子顕微鏡像に着色,撮影:島野智之)

しかしながら、人間にもっとも身近なのもダニである。節足動物(外骨格で覆われた昆虫や甲殻類などの生きもの)の中で、もっとも人間に近い。
近年の日本のマンションには、もはやゴキブリさえも姿を消しつつあるが、ヒョウヒダニ類(チリダニ類ともいう)は、人間の生活圏のなかで悠悠と過ごしている。
ヒョウヒダニの属名 Dermatophagoides はギリシャ語の derma(皮膚)と phagein(食べる)が合わさっている。人間のはがれた皮膚を食べながら生きているからである。

図2. ヤケヒョウヒダニ(走査型電子顕微鏡像,撮影:島野智之)

地上でもっとも種数の多いのは昆虫で約110万種、その次がダニで、3番目がクモの4万5000種である。
なぜダニがそんなに種数を増やすことができたかというと、クモは捕食性で他の生きものしか食べることができないが、ダニは進化の早い時点で、様々なものを食べることができるようになったからである。
吸血性のマダニは皆さんご存じだろう。それ以外にも、動物の皮膚に寄生するダニ、ヒョウヒダニのように動物のはがれ落ちた皮膚を食べるダニ、最初に出てきたササラダニ類は落ち葉を食べるし、ハダニ類は植物に口器をさして吸う。
コナダニ類はキノコを食べるものもいる。最近、僕が研究しているのは美味しいチーズにだけ、付くダニもいる。

そのダニを追いかけていくと美味しいチーズを見つけることができるわけだ。

※『e-Begin』内「撮影に成功! ダニの衝撃映像あり!?」にリンクします

また、ダニは体を、とても小さくして様々な環境に進出することができるようになった。昆虫もダニも陸上で進化したが、昆虫は極限られた種類だけが海に進出している。
一方、ダニは海岸ばかりではなく、深海にまで分布域を広げているものがいる。

ところが、体を小さくすると困ることが起きた。体が小さすぎると、羽をもたないダニは自分で最適な環境に移動できないのである。
そこで、水の中で他の動物を補食して生活しているミズダニは、昆虫に寄生することにした。ミズダニの幼虫はトンボがヤゴから脱皮するときにいそいで、その体に乗り移る。すると、次のあたらしい水辺までトンボが勝手に運んでくれるという仕組みなのだ。
タカラダニとよばれるダニの仲間も、親になる前に昆虫に乗る。このとき、栄養も少しもらう。昔、セミについている赤いタカラダニをお宝が溜まるお守りとして、タンスにしまったのだそうだ。だからタカラダニというらしい。
ダニも困ったことだろう。

さて、フィールドワークをしていると、毛が抜けたタヌキやイヌを見かけることがある。疥癬(カイセン)という病気だと言うが、疥癬とはヒゼンダニというダニの仕業で皮膚の下にトンネルをつくって栄養をもらいながら、繁殖をしている。これは、ダニにとって利益がある一方で、宿主には完全に不利にしかならないので寄生という。

図3. ヒゼンダニ(走査型電子顕微鏡像,撮影:島野智之)

ところが、トリの羽にいるウモウダニというダニは、鳥の風切り羽や尾羽の羽軸付近に付くダニで、羽の油脂などを栄養にしていると考えられている。
このダニは寄生のようだが、実は鳥の羽というのはこの油脂があるので雨に濡れても水をはじくことができる。このダニは古くなった油脂を食べ新しい油脂への置き換えを促すことで、鳥にとっても利益をもたらすと考えられている。
このような関係を寄生に対して、相利関係という。

このウモウダニは形態が様々で非常に面白い。鳥の生活が様々なので、ウモウダニのほうも、なんとか鳥にしがみついていられるように様々な形に進化しているのである。

次回は、ウモウダニの特性について説明したい。

【次回に続く】


島野 智之
1968年、富山県出身。横浜国立大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(学術)。農林水産省(独)農業・生物系産業技術研究機構主任研究員、宮城教育大学准教授を経て、2014年より法政大学国際文化学部・自然科学センター教授。著書に『ダニ・マニア チーズをつくるダニから巨大ダニまで』(八坂書房)、『生物学辞典』(東京化学同人/編集協力、分担執筆)など。世界初となるダニ写真集は近日刊行予定(風濤社/今冬刊行予定)。

Close