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鬼のしらす集団が誇る「鮮度勝負の絶品しらす」を食べてきた【愛媛・佐田岬】

鬼のしらす集団が誇る「鮮度勝負の絶品しらす」を食べてきた【愛媛・佐田岬】

「鮮度のええもんは、手を加えなくてもええもんができるんです」

鬼たちを束ねる福島さん

そう教えてくださったのは、“鬼のしらす集団”を取り仕切る福島大朝さん。愛媛県・佐田岬の川之浜に12隻の漁船と日本最大級のしらす加工場を構える、朝日共販の代表です。

佐田岬で獲れるしらすは“カタクチイワシ”の稚魚ですが、鰯(イワシ)は魚へんに「弱」と書くように、とても足の早い魚。だから、しらすの美味しさは、とにかく鮮度にかかっているそう。

そして鮮度を保つために重要なのは、「スピード」と「とにかく触らないこと」。この2つに“鬼のように”こだわった絶品しらすを、現地まで味わいに行ってきました。

川之浜を本陣とする「福善船団」の1隻

10月初旬。川之浜の港に行くと、1隻の船が私たちを待っていました。この日は特別に、しらす漁への同行が許され、鬼たちと共に船で漁場へ向かいます。

どれほど走るのかと思ったら、港を出てわずか数分で船は減速。なんと陸からすぐの場所に、全国有数のしらす漁場があるそうです。
「“鬼”なんていうから、どんなに過酷な環境で漁をしているのかと思ったら、むしろ恵まれているのでは?」そう思いましたが、鬼たちは恵まれた環境に甘えず、鮮度を追求するため6つの試練を自分たちに課していました。

鬼のこだわり一:量を求めるべからず
機械も使うが、やはり人の手によるところが大きい

川之浜では大きな網を海中に沈め、潮の流れに乗って泳いでくるしらすを捕らえます 。こうした網は海中に仕掛けるのはもちろん、船上へ引き上げるのもかなりの重労働。だから通常、漁師たちはできる限り網が魚でいっぱいになるのを待って、引き上げ作業の回数を減らします。

網から飛び跳ねて逃げようとするしらすも
透明に輝く、獲れたてのしらす

しかし鬼たちは、量よりも鮮度が命。最長でも“1時間以内で網を引き上げる”ことをルールとし、たとえ少量しか入っていなくても、構わず網を上げるのです。捕らえたばかりのしらすは元気いっぱい。網の中で跳ね回るほどでした。

鬼のこだわり二:ひと時も放置するべからず
何匹いるのか数えることもできない、大漁のしらす

捕らえたしらすは間髪入れず、すぐに専用の管で吸い上げられ、船上のイケマ(魚を保管する水槽)へ移されます。しらすは本当に繊細で、水揚げした瞬間からみるみる鮮度が落ちてしまうのです。

そこで、しらすが傷まないよう氷の入った海水で〆る作業が必須なのですが、ここで重要なのは「スピード」と「海水・氷のバランス」。氷が少ないと〆るまでに時間がかかって鮮度が落ちてしまいますが、逆に多すぎるとしらすがふやけてしまうそう。だから獲れたしらすの量を見て、すぐさまイケマの海水と氷のバランスを調整します。この調整に必要な勘が、鬼たちが長年培ってきた知識と技のひとつです。

鬼のこだわり三:効率を重視するべからず

無事に船上での〆作業が終了。しかし、鬼たちは安心しません。網に入ったしらすすべてをイケマに移すと、船はすぐさま港へ。港にはコンテナが待ち構えており、船からしらすを受け取ると、加工場へ直行します。

帰港する途中、船上で食べた生しらすが美味しすぎた

しらすを水揚げしてから加工作業の開始まで、鬼たちに許された時間はわずか30分。イケマがいっぱいになるまで漁を続けたほうが効率は良く楽ですが、とにかく鮮度にこだわる鬼たちは、何度も漁場と港を往復します。

「佐田岬の鬼」と書かれた工場兼食堂

————ここで船を降り、今度は加工場の鬼たちの元へ。
加工場があるのは、港から車でわずか1、2分の場所。「スピードアップ」と「手作業をできる限り省く」ことを目指し、独自の自動化ラインシステムを導入しているそうです。

鬼のこだわり四:のうのうと待つべからず
届いたしらすは、すぐさま釜へ直行

船の鬼たちが水揚げを行う頃、加工場では大きな釜に大量の塩水がぐつぐつと煮立っていました。こちらにいるのは加工の鬼たち。港から届くしらすを、1分1秒でも早く“釜茹で”するため、万全の体制で待ち構えています。

こちらの特徴は“無添加”ボイルであること。これは、しらすの鮮度が抜群に良く、工場の設備・衛生管理が行き届いていてこそ可能になります。釜の塩分濃度はコンピューターで常に管理し、味・品質を一定に保っています。

鬼のこだわり五:しらすに温もりを残すべからず
冷却ファンで素早く冷ます

釜揚げで重要なのは“茹でる”作業と思われがちですが、実は同様に重要なのが“冷ます”作業。茹でて水分と熱を持ったしらすは、そのままにしておくと、すぐに雑菌が繁殖してしまいます。

熱さへの恐れより、美味しいしらすを届ける思いが勝る

そこで加工の鬼たちは100度の熱湯で茹でたしらすを、すぐに広げ、冷却ファンにかけます。熱々のしらすを基準とする約20度まで冷ますのに、鬼たちに許された時間はわずか1分。熱さに動じない、迅速かつ正確な作業が求められます。

その後、しらすはマイナス45度までさらに急速冷凍され、マイナス25度に管理された倉庫に保管されます。水揚げからここまでにかかる時間は、わずか1時間。まさに鬼のスピードです。

鬼のこだわり六:見逃しを許すべからず
一部の作業は外から見学できる

冷凍されたしらすは出荷に合わせて、水分・旨味が低下しにくい“静電式解凍”で解凍され、異物の混入がないようX線探知機、金属探知機などの検査にかけられます。

ここでも「触らない」を徹底

そして最後は、鬼たちによる目視での選別作業へ。小魚や不純物が紛れ込んでいた際には吸引機を使い、周りのしらすに触れることなく異物だけを取り除き、最終的なパック詰めに進みます。
パックは特殊な殺菌装置に通すことでタンパク質の変性を抑え、賞味期限を従来の3日から1か月まで延ばすことに成功しました。

このように、鬼たちのさまざまなこだわりが込められたしらす。今回は特別に“盛り放題”でいただいてきました。

真ん中の穴は通気性をよくするため

見てください、この濁りのない真っ白な釜揚げしらすを。釜茹で時の天然塩(讃岐産)以外は何も入れず、“極限まで手を加えない”で、「スピード」と「触らないこと」にこだわり抜いた結晶です。

船上とほとんど変わらない、新鮮そのものの生しらす

そしてこちらは現地だから味わえる、獲りたてすぐの生しらす。透明で艶があり、生臭さも一切ありません。

白飯の2倍近く、ワガママに盛り付けた

この2つを贅沢に白飯の上へ、こんもりと。鬼のしらす集団が誇る「鮮度命の絶品しらす丼」が完成しました。

美味しすぎて「ふうう〜ん♪」しか言えない

ほんの少しだけ、出汁醤油をかけたら口の中へ。これがもう、唸るしかない美味しさでした。

釜茹でしらすはふっくら柔らかく、優しい甘み・塩味が噛むごとに湧き出てきます。生しらすはツルリと舌触りが良く、釜茹でより少し強めの塩味を感じたあと、ねっとりした甘みと、ほのかな苦みが追いかけてきます。

オマケに雲丹まで載せていただいて、箸が止まらない

それぞれ単体で食べるも良し、温かい白飯と食べるも良し。とにかく鮮度を落とさないよう、もりもりかき込むのがおすすめです。

ちなみに盛り放題メニューはありませんが、工場の2階には食堂があり、しらす丼やしらすかき揚げなどをランチで食べることができます。
さらに2020年4月には、近くに「はなはな」という道の駅がリニューアルOPENし、そこでは鬼のしらすをはじめ、さまざまな海の幸が食べられるそう。

獲りたてのアワビを見せてくれた

しらす船に乗せてもらった時も、近くで海女さんが大きなアワビやサザエを獲っていたので、そうした地のものもたくさん並ぶのではないでしょうか。

「鬼のしらす」と聞いたときは、なんだか恐そうな、固そうなイメージを持ちましたが、実際に現地へ訪れると、そこにいたのは“ひたすら自分たちを律し、鬼のような強いこだわりを持つプロフェッショナル集団”でした。

そして鬼たちがつくってくれるのは、真っ白でふわふわで、食べた瞬間から笑顔がこぼれてしまう、優しい絶品しらす。

鬼と写真が撮れる、お茶目なパネルも

愛媛に訪れる際は、鬼の厳しさと優しさを味わいに、佐田岬まで足を延ばしてみてはいかがでしょう。


撮影・取材・文/中川めぐみ
釣りアンバサダー 兼 ツッテ編集長。釣りを通して感じられる日本全国の地域の魅力(食、景観、人、文化など)を発見・発信するため、メディア「ツッテ」の運営や、初心者向けの釣りイベントを実施。自ら全国の港を飛び回っており、2018年は100地域での釣り旅を計画。レアニッポンでは全国の港町で見つけた地域や海にまつわるおもしろいものをお伝えしていきます。URL:https://tsutte.jp

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