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ダニと寄生相手のディープで一途な関係 Vol.2

ダニと寄生相手のディープで一途な関係 Vol.2

生物学者でダニと原生生物の研究者である島野 智之先生が、ダニと寄生相手のディープな関係性を語るコラムの第二段。今回は、誰も知らない!?日本のトキとウモウダニの一途な関係の結末をお届けします。


佐渡の空を舞うトキ(撮影:高橋 智計)

ダニは一般的に寄生する生物だと考えられているかもしれない。
しかし、同居人に迷惑をかけ続けるやっかいなヤツだけではなく、とってもとても良いヤツもいる。鳥にとってのそれとは、ウモウダニだ。

鳥の羽は油脂があるので雨に濡れても水をはじくことができるが、脂が古くなるとその機能を失う。水に濡れたままだと空を飛ぶ事ができないし、体温を保つ事も出来ない。ウモウダニは古くなった油脂を食べ、常に新鮮な防水油脂を身に纏えるように掃除してくれているのである。言ってみれば、レインコートを常に繕ってくれる職人を背中に乗せているようなもので、このような利益が発生する関係を寄生に対して共生、特に双方に利益をもたらす場合には、相利共生という。

イワツバメについていたウモウダニ類の「家族」(走査型電子顕微鏡像、撮影:島野 智之)

このウモウダニは形態が様々で非常に面白い。鳥の生活が様々なので、ウモウダニのほうもなんとか鳥にしがみついていられるように様々な形に進化しているのである。これは前回で書いたとおりだ。

さて、ここからが本題だ。日本の空にはトキが帰ってきた。トキの学名はNipponia nippon(ニッポニア・ニッポン)まさに、日本を象徴する鳥だ。東京駅に行くと、新幹線「トキ」を見ることができる。ピンクのような肌色のような不思議な車両の色だが、これが「トキ色」なのだ。トキの羽根は一度実物をみると、忘れられない美しさがある。桜の花の色のような、あるいは朝焼けのような、しかし他のどの色とも異なっているのがトキの「トキ色」だ。

日本では2003年に最後の日本産トキ「キン」が死亡した。このことにより日本産のトキは地球上からいなくなってしまった。現在、佐渡の空に帰ってきた300羽以上のトキは中国からきたトキの子孫である。

佐渡のトキの群れ(撮影:高橋 智計)

実は日本産のトキには、トキウモウダニCompressalges nipponiaeが付いていた。残されているキンの羽には、ちゃんとトキウモウダニが観察できる。しかしながら現在、佐渡の空を舞っているトキからはトキウモウダニは、全く観察できない。現在入手できるありとあらゆるトキの羽根を観察したが、トキウモウダニは1頭も見つける事は出来なかったのである。トキは、美しいトキ色の羽と共に日本の空に帰ってきたが、パートナーの職人は二度と日本の空に帰ってくる事はなかったのだ。

トキウモウダニ 日本産のトキとともに絶滅したらしい(光学電子顕微鏡像、撮影:脇 司、島野 智之、 標本:環境省提供)

【次回に続く】

※2019年11月18日追記:相利関係の説明の補足や画像キャプション等一部表現を追記しました


島野 智之
1968年、富山県出身。横浜国立大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(学術)。農林水産省(独)農業・生物系産業技術研究機構主任研究員、宮城教育大学准教授を経て、2014年より法政大学国際文化学部・自然科学センター教授。著書に『ダニ・マニア チーズをつくるダニから巨大ダニまで』(八坂書房)、『生物学辞典』(東京化学同人/編集協力、分担執筆)など。世界初となるダニ写真集は近日刊行予定(風濤社/今冬刊行予定)。

Special thanks to Tomokazu Takahashi

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