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【スマホなし旅】第2回 印西牧の原駅・ニュータウンと里山の境界をさまよう【千葉】

【スマホなし旅】第2回 印西牧の原駅・ニュータウンと里山の境界をさまよう【千葉】

旅の醍醐味は、緊張感とともに未知の世界を切り開くこと。インターネットにより、地球の裏側まで情報化された現代において、本当の冒険とはスマホを持たず見知らぬ土地を徘徊することかもしれません。たとえ隣町でもいい、スマホをロッカーに預けて新たな町へ出てみよう。きっと、新しい出会いがあるはずだから。

人生で一度も訪れたことのない駅に降り立ち、スマホなしで町をさまよう連載「スマホを捨てよ、町へ出よう」。第2回は北総鉄道(千葉ニュータウン鉄道)北総線の「印西牧の原駅」です。なぜ印西牧の原なのか? それは羽田空港から京急空港線・品川方面行きに乗るとよ〜く目にする終点だから(※同じく印旛日本医大駅行きもありますが、ここはドラマ『コード・ブルー』でおなじみドクターヘリの拠点として取材をしたことがあるので今回はパス)。

たまに見かける印西牧の原行き電車(都営地下鉄浅草線・大門駅)

そういえば、成田空港行きのエアポート急行で通過したこともあります。そのわりに一度も下車したことがない印西牧の原。他にも「大月」「国府津」「越生」「光が丘」「中央林間」「三崎口」「蘇我」「小金井」などなど、都心の電車ホームでよく見かけながら一度も訪れたことのない終着駅は、未知の世界って感じでエキゾチックじゃありませんか?

ならば、行ってみよう。それがスマホなし旅。

首都圏の鉄道路線では、極めて運賃が高いことでも知られる北総線。都心から1200円以上かかりました
写真ではわかりにくいけれど、左右にショッピングモールがえんえんと連なっています

渋谷から1時間半。印西牧の原駅の第一印象は、からっ風が吹きすさぶショッピングセンターのマトリックス。北総線と国道464号線の両脇にロードサイドでおなじみの大型チェーン店がどこまでも続く資本主義の荒野といった風情です。ユニクロ、ニトリ、サイゼリヤ、マック、王将、ジョイフル本田…。看板だけで歌が詠めそう。

こうなることは薄々気づいてはいたけど、こりゃまいったな。

スマホをロッカーに預けます

駅改札からは左右二手に分かれているのですが、どちらに向かっても似たようなショッピングモール。どっちにしようかな、どっちでもいいんだけどなひとまず観覧車に惹かれて左に歩を進めます。ささやかなロータリーがあり、そちらで地図をチェック。周辺施設を把握しつつ、後で参考にできるようデジカメで撮っておきます。

地図の脇には地域にまつわるコラムも。なにやらこの辺り一帯はかつて草深原(そうふけっぱら)と呼ばれる雑木林が広がり、人がキツネに化かされたという言い伝えも残っているほどの田舎だったとか。キツネでもいたら撮れ高は十分なんだけど……。

隣のモールは駅近にもかかわらず空きテナントも目立ち託児所や小規模クリニックばかり。そんな中に印西市役所の出張所が。もしかしたら観光案内がゲットできるかも、と入ってみたらビンゴでした。2019年春に発行したばかりの『まっぷる特別編集 印西市』をゲット! スマホなし旅では心強い味方です。

助かった…

一方で職員の方いわく「この辺は新興住宅地で地域色が薄いから、市中心部の木下駅(JR成田線)周辺に行ったほうが面白いかも」とのこと。「あるいは印旛沼とか、もしくは小林牧場もいいですよ。大井競馬場の競走馬を育てている牧場です」。

確かに『まっぷる』を開くと、かつて利根川水運の要衝として栄えた木下駅(きおろしえき)の方が歴史的にも文化的にもネタに溢れていそうです。でもだ、「印西牧の原駅編!」と銘打っておいて「実は木下駅」もないでしょう。ということで周辺での取材を続行。ともあれ、この辺一体を空から眺めて考えるべく「BIGHOPガーデンモール印西」にある観覧車に乗り込みました。

この時間帯は誰も乗っていません。1人500円

しかし、この日は最大風速7.8mの強風。高度が上がるにつれ、ゴンドラがぐらんぐらんと揺れます。案内によると遥か西には新宿副都心や富士山、北にも筑波山や牛久大仏が見えるようですが、撮影もままならないほど。事実、下車後係の方に訊いたら「あと2〜3m風が強くなったら運転中止でした」とか。そりゃあ怖いはずだよ。

遠くに東京スカイツリーと富士山

いずれにせよ観覧車からの視察と『まっぷる』の地図でわかったのは、沿線にショッピングモールがびっしりと張り付き、それらをマンションが『進撃の巨人』の壁よろしく取り囲み、その外には戸建て住宅や田園風景、里山が広がるというこの辺りの地勢。まるで首都圏の縮図とも言えましょう。

このまま資本主義に抱かれショッピングモールを徘徊するか、郊外に飛び出してキツネでも探すか。考えをまとめるため昼メシを食らうのですが、どれもこれも地元と関係のないチェーン店ばかりで画になりません。『まっぷる』で紹介されている地元の飲食店も、平日は定休日が多く無駄骨に終わりそう。さて、どうする?

困ったときは食べたいものを食べる。

実は、印西市の字面から西インドのイメージが頭から離れず、ずっと気分はカレー色。ならばとBIGHOPのフードコートにあった「GEETA(ギータ)」で本場のインドカレーをいただくことにしました。チョイスしたのは1000円ちょいのダブルカレー。チキンとサグチキン。

印西市といえばインドカレー。激辛にしたけれどさほどでもない

しかも同市は「印度じゃないよ、印西市」というPR動画を作るほど、日頃からインドと混同されているとか。そういや見たことあったかも。インドのプロモーション大成功じゃないですか。いっそのこと「インドの西だから印西市」と盛っても面白い気がします。

問題は、GEETAが千葉だけのローカル店舗なのかどうか、です。店員のインド人といくら話しても埒があかなかったので、後日調べてみたら富里市に本店がある小規模チェーン店。千葉県を中心に茨城県、埼玉県、栃木県、山梨県のフードコートで手広くやっているのでした。一応、千葉発祥ということでセーフ(何が?)

と、くだらないことを考えつつランチを食べてもなお方針が固まりません。仕方がないのでBIGHOP内にあるスーパーマーケット「ロピア」(川崎が本社のチェーン店ですが、ここだけ「ビフテキ」という立ち食いステーキ店が併設されています)でお買い物。イヤミに聞こえるかもしれませんが、都心暮らしの筆者にとって郊外のスーパー巡りは一大イベントなのです。ここでもインドつながりで、銀座デリーのカシミールカレーソースを購入。何をしているんだ、俺は。

千葉名物のマックスコーヒーもペットボトルでこのお値段。そういや、つい先日も房総半島で道行くおばあちゃんがフツーに飲んでました
さらにお菓子問屋が営む「上野アメ横 二木のお菓子」もチェック

こうして身も心も郊外型SCに取り込まれようとしましたが、せめて駅前ロータリーで見た草深原の原風景だけでも拝んでおこうと、駅から3kmほどの距離にある「草深の森」を目指すことにしました。

印西牧の原駅南口に広がるメタセコイア並木

しかし壁は厚く、またもや団地内のスーパーに足をからめとられて、しばしお買い物。営業マン時代にサボった飲食スペースの居心地の良さよ……。違う、そうじゃない。

後ろ髪を引かれる思いでスーパー巡りをやめる

スーパーから外れるといよいよ住宅地です。まだ空き地も多く、売地の看板がちらほら。個人経営の飲食店は皆無。下手するとコンビニすら潰れる荒野です。しかしそんな中でも、唯一残っている店舗が美容室と予備校。うちの地元、いや全国の地方とまったく同じ風景です。確かに、予備校は子どもさえいればニーズはありますし、美容師や理容師には死ぬまでお世話になります。どっちも在庫がいらないし、ライターより食いっぱぐれのない、究極の職業と言えるかもしれません。

駅徒歩15分で、まだまだ入植可能。組合と株式会社って両立できるんでしたっけ?
ここも駅徒歩15分
秋ですな

相変わらずの強風と直射日光のなか、地元・徳島にも通じる既視感だらけの景色を歩いて30分。ちょっと道に迷いながらたどり着いたのが丸山観音堂です。実はこれも『まっぷる』情報で、印西市在住のC.W.ニコル的存在、ケビン・ショートさんによる「おすすめの里山散策ルート」をほぼ逆からなぞっているだけだったりします。

江戸時代後期の観音堂。大師堂にある89体の石像
駅、繁華街、マンション、住宅地、田園、里山…と一気に様相を変えます

この辺りともなると、近代的なニュータウンのおもむきはまるでなく里山のそれ。言い伝えの核心部でもある草深の森へと分け入ります。がしかし、昼間でも薄暗く、うっそうとした道をいくら進んでも森への入り口が見つかりません。キツネにでも化かされたのかな、と何度も往復しましたが、森の奥から聞こえてくるのは重機が木をなぎ倒す音ばかり。ようやく見つけたのは「閉鎖のため立入禁止」の看板。近隣の住民に聞き込みをしても「そうなんだ、知らない」とのこと。

昼間でも女性ひとりで歩くのは憚られるほどのうす暗い小道

これは、もしや、リアルタイムで『平成狸合戦ぽんぽこ』的な宅地開発・環境破壊が沸き起こっているのでは! 言うなれば『令和狐合戦こんこん』。

途端に環境問題を追いかけるジャーナリスト気分でどうにか脇道から森への潜入を試みたところ、なんのことはない、過日の台風で森が荒れたため整備しているだけなのでした。

俺たちのパークが…
南側だけ営業中(?)の草深の森

いっそのこと里山を歩いて千葉ニュータウン中央駅まで行くか、と心を決めたとき、トラブルが発生します。突然デジカメが起動しなくなったのです。さっきまで元気にシャッターを切っていたのに? これはお稲荷様の祟りか、はたまた単なる電池切れか。ここから貧相な文章だけで、間が持つはずがありません。幸いモバイルバッテリーは持っていたので遠くに見えたコンビニへと飛び込み、いつもなら家に溢れているmicroUSBケーブルを500円(!)で購入。事なきをゲットしましたがなんという無駄。

マジかよ!

コンビニから前述の「里山散策ルート」に復帰すると、谷津田と呼ばれる田園地帯。アルファインスタグラマーが「#トトロみたい」なんてハッシュタグを付けて投稿したら、バズりそうなくらい昭和初期の農村風景が広がっています。BGMは古関裕而『ひるのいこい』(NHKラジオ)ですよ。わからない人はググってください。40代以降はきっとガッテンするはず。

子どもの頃、こういう里山で遊んだなあ

かつての田舎道と違って油断できないのは、イノシシよけの電気柵がそこかしこに張り巡らされているところ。田んぼやあぜ道に分け入って、ショートカットすることすらままなりません。そもそも、子どもの姿はゼロ。まれに健康維持や犬の散歩にジジババが歩いているだけ。それも「危ない人がいるかもしれないから気をつけてね」と心配しちゃうほど。

子どもは田んぼで遊べないね
場所によっては、大仁田厚もびっくりの両サイド電気柵デスマッチ状態
さらに道端には懐かしいひっつき虫

世知辛い世の中になったもんだなあ、と思いつつ自身を省みると……金髪、サングラス、全身ブラックコーデ、片手にぬいぐるみ、「たべっ子どうぶつ」のワッペン付きリュックといういでたち。不審者情報を共有されても文句はございません。

などとくだらないことを考えているうち、源頼政の首塚経由で、行基に由来するという晴天山結縁寺。シーズンは終わってましたが、彼岸花の名所だそうです。

源頼政の首塚
彼岸花で有名な結縁寺

そろそろ日没間際。釧路に続き夕焼け写真を狙いたく、一気に歩を進めて「北総花の丘公園」を目指します。『まっぷる』の地図上では川の土手っぽく見えたので、高台から日没を望めるかと踏んだのですが、なんのことはない、川だと間違えたのは防災用のため池なのでした。思ってたんと違う! 公園展望台の直下を走る県道61号線はクルマがビュンビュン。そのなかに小林牧場から運搬されると思しき、競走馬の輸送車が何台も行き交います。

あわてて歩を進めます
無人販売も多し
北総花の丘公園はもうすぐ。日没ももうすぐ
千葉ニュータウンの夕映え
沈む〜
なんとなくキリンジの『エイリアンズ』が聴きたくなる鉄塔の列
川だと思ったら池。戸神川防災調整池というそうです

「釧路に比べると夕焼けのクオリティはずいぶん落ちるけど、まあ、天気も良かったし、こんなもんかな」とニュータウン大橋を渡り、「真名井の湯」なる温泉施設に向かおうとしたところ……。

あ、あれは!

そびえたつ千葉ニュータウンのマンション群のあいだから、見慣れたシルエットが浮かび上がっているではありませんか。で、振り返ると満月。意外といいところもあるじゃん。

手持ちゆえガビガビですが満月

天気がいい日を取材日に選んだのはもちろん自分ですが、こうして町の魅力を見せつけてくれたのは決して偶然ではないはず。そう、町から受け入れられている気がするのです。住もうとは思わないけど。

都合3万歩も歩いたので、駅前の真名井の湯でチル。筆者が好きなサウナを中心に、露天風呂からは満月が楽しめました

印西牧の原駅から千葉ニュータウン中央駅まで、田舎道を歩き通して風呂でさっぱりした後は、ディナーで美しくシメたい……ところですが、そこはやっぱりニュータウン。駅前もショッピングモールも見渡す限り全国チェーンの飲食店、居酒屋だらけです。川向こうならぬ道向こうのイオンにも足を延ばしましたが、何もなし。これがニュータウンの宿命と受け入れ、餃子の王将でリアルなサバービアの現実を観察するかあ、とあきらめかけた矢先に見つけたのが、あきらかに巨大資本が入ってなさそうな「焼肉ダイニング京城苑」なのでした。

おつかれちゃーん!
A5カルビを中心にハラミ、ホルモン、さらに馬刺しレバー
基本的に2店舗しかないようです。千葉NT店では限定のさくらレバ刺しが楽しめます

とりわけA5カルビが白眉でした。お値段は、好き勝手に飲み食いして1人5000円ほどなので安心して使えると言えましょう。もっとも……その後、千葉ニュータウン中央駅までの道すがら、個人経営っぽい居酒屋や寿司屋を見つけてしまうんですけどね…。

ここから印西牧の原駅まで、スマホを回収しに帰らないといけません
まとめ

ともあれ東京の西側(渋谷、新宿、池袋)からは1時間半以上かかるエリアながら、東側(上野、東京、銀座)であればアクセス至便の印西牧の原。知り合いのファッション誌編集者もこの辺りに家を買ったと聞きますし、LCCも利用できる成田空港は激近だし、個人的にスーパーマーケット巡りは大好きだし、足を延ばせば自然も景色も豊かだし……交通費だけはかさみますが合理的にとらえれば印西牧の原は所帯を持って腰を落ち着けて生活するにはほどよい町なのかもしれません。

その証拠に、家賃や住宅価格も調べました。5万円も出せば今と同じ水準(家賃3倍)のおうちに住めますし、なんなら月々4万円弱でマイホームが手に入ります。

そういう人生もありなのかなあ、と心を揺さぶられるほどには考えさせられた。そんな印西牧の原の旅でした。もうちょっと渋谷で頑張るけどな!

なぜかコンビニ店内にあった自衛隊迷彩グッズ販売の案内。意識高めの新興住宅地のすぐそばに、本来の北関東が見え隠れ

熊山 准(くまやま・じゅん)

リクルート編集職を経て『R25』にてライターデビュー。執筆分野はガジェット、旅、登山、アート、恋愛、インタビュー記事など。同時に自身のゆるキャラ「ミニくまちゃん」を用いた創作活動&動画制作を展開中。ライフワークは夕焼け鑑賞。マレーシア・サバ州観光大賞2015メディア部門最優秀海外記事賞受賞。1974年徳島県生まれ。

熊山准のおブログ
http://www.kumayama.com/
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