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絶滅危惧“食”! 奈良時代以前に生まれたかつお節の原形「潮かつお」が絶品すぎる【静岡県・西伊豆町】

絶滅危惧“食”! 奈良時代以前に生まれたかつお節の原形「潮かつお」が絶品すぎる【静岡県・西伊豆町】

日本食に欠かせない重要な食材「かつお節」。近年では自宅でかつお節を削るどころか、削り節を買ってきて出汁をとる習慣さえ少なくなってきました。昔は当たり前だった、一本丸々のかつお節が店頭に並ぶ光景は姿を消し、スーパーには手軽で便利な調味料が並びます。
かくいう筆者も出汁パックに頼る日々で、日本人として少し残念なような、もったいないような感情を抱くようになってきました。

このままでは日本の伝統である「かつお節」は、本当にその姿を消してしまうかもしれない…。そんな懸念が現実になるかのように、かつお節の原形ともいわれる「潮かつお」が、歴史の幕を閉じてしまおうとしています。

海にたくさんの小島が浮かび、美しい景色が楽しめる西伊豆

訪れたのは、静岡県・伊豆半島の南西に位置する西伊豆町。人口8000人弱のこの町が、「潮かつお」を製造する最後の土地です。

11月初旬、この日は年に一度の「潮かつお」を仕込む日。創業から130年間、潮かつおの伝統を守り続けてきた「カネサ鰹節商店」は、熱気に満ちあふれていました。

そのまま食べても美味しそうなかつお
機械を使ってどんどん頭を落とす

普段から魚を釣ったり取材したりと魚まみれの筆者でさえ、一瞬たじろぐ大量のかつお。入り口では大きなかつおが、次々と頭を切り落とされていました。

熟練の技は見ていて飽きないほど

その隣では、複数の職人たちが黙々と魚を捌いていきます。片手でひょいと身を持ち上げ、削るように捌く手法は初めて見ました。魚を綺麗に捌くのは固定してでも難しいのに、さすが経験を積んだ職人は腕が違います。

優しくしっかりと塩を擦り込んでいく
2週間塩で漬け込んだ後、3週間冷たい潮風にさらして干す

捌かれたかつおは奥の台で寝かされ、まるでエステのように、大量の塩を身に擦り込まれます。

この塩が「潮(塩)かつお」と呼ばれる所以。潮かつおとは、かつおを大量の塩で漬け込み、乾燥して作る「塩干し塩蔵品」のことなのです。

本来は丸ごと一本、内臓をとって塩漬けする

潮かつおの歴史はとても古く、発祥は奈良時代以前まで遡るといわれます。およそ1300年前に西伊豆(田子地区)で税金として送られた記録が残っており、庶民が保存食などとして作り始めたのは、奈良時代、もしくはそれより前の時代だったと考えられます。

ワラで飾られた潮かつお

かつお漁がこの町の主産業だった当時、豊漁・豊作・子孫繁栄・航海の安全などさまざまな願いを込めて、お飾りをつけた潮かつおを正月の神棚にお供えするのが習慣でした。そのため潮かつおは、別名「正月魚(しょうがつよ)」とも呼ばれます。

正月の三が日を過ぎると潮かつおは神棚から下ろされ、お客さんに振る舞われたり、正月に疲れた胃を回復させるお茶漬けに使われたり、郷土料理としても愛されてきました。

しかし、かつおの漁獲量が減るにつれて、潮かつおを作る業者はどんどん数を減らし、今では西伊豆でもわずか3社となってしまいました。長く歴史を守ってきた西伊豆でさえ、潮かつおを食べたり、正月に飾ったりといった伝統がなくなろうとしているのです。

西伊豆しおかつお研究会を発足し、会長も務める

そんななか立ち上がったのが、カネサ鰹節商店の5代目となる芹沢安久(せりざわやすひさ)さん。「ありがつお!」と一度聞いたら忘れられない挨拶をキャッチフレーズに、潮かつおを使った現代風レシピを考えたり、都内はじめ各地に赴いてPRをしたりと、製造以外の活動にも力を入れています。

「ありがつお」と書かれたオリジナルのTシャツ

「かつおは日本人にとってシンボリックなもの。かつお節はもちろん、その原形といわれる「潮かつお」を守っていきたいんです。
現在は、潮かつおという存在そのものを知らない方も非常に多い。どんなものか、どんな歴史があるのか、どんな料理で食べられるのかなどを伝えて、歴史を守ると同時に、ずっと潮かつおを守ってきた西伊豆という地域も、皆さんに知っていただけたら嬉しいです」

そんな芹沢さんらの呼びかけで、町内を中心に、潮かつおを食べられる飲食店が徐々に増えてきているそう。

地元民にも観光客にも人気の、オシャレな食堂
海側は一面窓で景色も楽しめる

せっかくなら潮かつおを食べてみたい!と筆者がお邪魔したのは、洞窟巡りができる遊覧船観光などで人気の、西伊豆・堂ヶ島にある「堂ヶ島食堂」。美しい海岸の景色を楽しみながら、西伊豆のさまざまなグルメが楽しめるお店です。

笑顔が素敵なオーナー兼漁師の鈴木さん
ところてんは食前にも、食後のデザートにも

オーナーの鈴木洋史(すずきようじ)さんは飲食店を営むと同時に漁師でもあり、店内には鈴木さんが自ら獲った天草で作るところてんが、食べ放題で置いてあります。

裏面にも西伊豆らしい一品メニューがずらり

メニューを見ると、美味しそうな料理がずらり。潮かつおは、昔から食べられている「お茶漬け」のほか、ご当地グルメとして芹沢さんたちが考案したという「うどん」などがあります。どちらも捨てきれず、「潮かつおうどん定食」に、300円で付けられる「潮カツオ茶漬け」をプラス。欲張りなセットでお願いしました。

今回は特別に厨房へ入れていただき、潮かつおの調理を一部見せていただきます。といっても、調理法はとてもシンプル。

さらに薄く切ってそのまま食べると、生ハムに近い味らしい

まず潮かつおを1cm弱ほどの厚みに切ります。

塩と一緒に余分な水分も滲み出てくる

切った身を片面5分目安で焼きます。すると表面に余分な塩が浮いてきます。
これだけで、お酒のアテにぴったりの塩辛いおつまみになります。

洋風のパスタなどにアクセントとして使っても美味しそう

今回はご飯やうどんに絡みやすいよう、粗めにほぐしたら準備完了です。
あとはお好みの材料(ごま、海苔、ネギ、ワカメなど)と一緒にご飯やうどんに載せ、お茶漬けには出汁、うどんには卵の黄身と軽く醤油をプラスすれば、あっという間に出来上がり。

潮かつおの新旧メニューをいっぺんに

潮かつおの茶漬けとうどんのセットです。ふわりと香るかつおの香りが食欲を刺激します。

熱が加わって、また良い香りが漂う
食べだしたら止まらなくなる美味しさ

まずは伝統のお茶漬けから。ご飯の量に対して潮かつおが少なめかなと思いましたが、香りも塩味もしっかりわき出ています。

塩味は単純なしょっぱさでなく、かつおの旨味が溶け出したような濃厚さ。強いのにクドさはなく、三が日明けの疲れた胃でも、食欲を呼び起こしてくれそうです。

全体をしっかり混ぜてから食べるのがポイント

そして新たに考案されたという、ご当地グルメの「潮かつおうどん」。お茶漬けに比べて水分も少ないので、これだけ濃い食材を少量加えて味付けをするのはムラができてしまうのではと思ったのですが、そんな心配は無用でした。

食べる前に混ぜ合わせると、潮かつおの旨味が想像以上に広がり、さらに黄身が全体へ絡み付いて補助するように味を馴染ませてくれます。

筆者はどちらかというと、「潮かつおうどん」派

口に入れた瞬間は力強い潮かつおの旨味を感じ、そのまま麺と噛み締めると、麺の優しい甘みと混ざり合い、思わず笑顔がこぼれる絶妙な美味しさに。単体でランチなどにはもちろん、飲んだ〆にもぴったりそうです。

潮かつおはかつお節の原形ということで、料理全体を支える土台のような食材かと思いましたが、とにかくパンチのある旨味としょっぱさが特徴で自己主張ばっちり。とても美味しくて、筆者が今まで食べたお茶漬け・うどんのトッピングとして、ナンバー1かもしれません。

見た目や名称は素朴なので、「映える」ことが望まれる現代では、もしかしたら地味な食材かもしれません。しかし、奈良時代から現代まで伝統が守り続けられてきたのは、ただの慣習ではなく、やはり「美味しい」というシンプルに愛される理由があったのではないでしょうか。

一度なくなったら戻すことは容易くない、絶滅危惧“食”のひとつ「潮かつお」。どこかで見かけたら、ぜひ試してみてください。その伝統と美味しさに、受け継ぎ続けてくれた職人たちに、きっと感謝を伝えたくなるはずです。


撮影・取材・文/中川めぐみ
釣りアンバサダー 兼 ツッテ編集長。釣りを通して感じられる日本全国の地域の魅力(食、景観、人、文化など)を発見・発信するため、メディア「ツッテ」の運営や、初心者向けの釣りイベントを実施。自ら全国の港を飛び回っており、2018年は100地域での釣り旅を計画。レアニッポンでは全国の港町で見つけた地域や海にまつわるおもしろいものをお伝えしていきます。URL:https://tsutte.jp

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