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国内唯一。ピュアすぎるのに深みがある「塩田熟成牡蠣」は、広島県の離島で産まれ進化する

国内唯一。ピュアすぎるのに深みがある「塩田熟成牡蠣」は、広島県の離島で産まれ進化する

「口に含んだ瞬間、なんだか少し申し訳ない気持ちになった…。あまりにピュアすぎて。でも噛み締めると“底ヂカラ”のように、深い旨味が湧き起こってきた」

私(筆者)が初めて「塩田熟成牡蠣」を食べたときの感想です。

ファームスズキが牡蠣を養殖する塩田跡地の池。美しさと穏やかさにうっとり

ご存じですか? 牡蠣は身の7〜8割が水分で、育った環境、つまり浸かっていた水の影響をダイレクトに受けるそうです。

広島県・大崎上島。ここは県内有数の透明度を誇る、澄んだ海に囲まれた島。そのなかでも特に綺麗な水だけを使うため、わざわざ地下海水を汲み上げる井戸まで掘ったというのが、日本で唯一“塩田の跡地”で牡蠣を育てている「ファームスズキ」さんです。

海外の牡蠣生産者たちと(中央が鈴木さん):写真提供ファームスズキ

代表の鈴木さんは、もともと水産関係の商社マン。世界各地で海産物を食べ歩き、数々の生産現場に足を運んでいました。そのなかでも特に感銘を受け、ぜひ日本で生産したいとフランスやニュージーランドで育て方を学んだのが、世界で一級品と呼ばれる「クレールオイスター」。日本語で表現すると「塩田熟成牡蠣」です。

クレールオイスターとは、クレールと呼ばれる“塩田跡地の池”で育まれ、熟成した牡蠣のこと。日本では馴染みが薄いですが、フランスをはじめ海外各地では、クレール熟成した牡蠣が愛されているそうです。

小ぶりで瑞々しい、塩田熟成牡蠣

人気の秘密は、そのピュアな瑞々しさと深い旨味。

塩田という閉鎖空間で育てられた牡蠣は、外部の影響(生活・工業排水など)を受けにくく、山から流れ込む雨水により自然と塩分濃度が下がることで、驚くほど澄んだ香り・味わいに仕上がります。

水を抜いた土をトラクターで耕す様子:写真提供ファームスズキ

さらに毎年必ず池の水をすべて抜き、沈んでいた土を一定期間休ませた後、畑のように耕すことで、生きものたちがすくすく成長する土台をつくります。そうして丁寧につくった土台に綺麗な海水を汲み入れて、牡蠣だけでなく車海老を同時に飼うそう。

すると海老の餌の食べ残しや排泄物を栄養とした植物性プランクトンが大量に繁殖し、その植物性プランクトンを食べた牡蠣が栄養と旨味たっぷりに育っていく…そんな循環ができるのです。

車海老も贅沢な環境で育っているため、抜群の品質
踊り食いにビビりつつも、美味しさに唸る筆者

文字にすると簡単なようですが、こうした循環、つまり生態系をつくりあげることは、とても難しい仕事です。

ささいなズレや自然の変化でも、生態系は簡単に崩れてしまう。鈴木さんはいくつもの国、幾人もの生産者を訪れては牡蠣養殖について学んできましたが、ひとつとして同じ条件の環境はないため、最終的には試行錯誤だと言います。

満足がいく「塩田熟成牡蠣」をつくるのに、年単位で失敗を繰り返し、やっと今の味・品質に辿り着いたそうです。

牡蠣と海老はともに、生と最新冷凍された商品とがある

ファームスズキの牡蠣は現在、ほとんどが国内の個人客向けにインターネットなどで直接販売されています。生態系を保つため、一気に生産量を上げることが難しく、飲食店などへ大量に卸すことは控えているそう。

大きな窓から海を見下ろしつつ、牡蠣と車海老をいただける

そんななか、現在も大崎上島行きの船が出る“竹原港 海の駅”には「ファームスズキ ベイサイドキッチン タケハラポート」という直営店があり、ファームスズキの塩田熟成牡蠣や車海老をお腹いっぱい食べることができます。

夕食も10名以上の団体は相談可能:写真提供ファームスズキ

4,000円で60分間、牡蠣も車海老も食べ放題(ランチタイムのみ)。生も焼きもOKのお得なプランなので、広島付近へご旅行の際には立ち寄ってみてください。

鈴木さんの奥様がデザインされたというロゴが素敵

また、大崎上島の養殖場にもオシャレなキッチンスペースがあり、10名程度から食事の受け入れをしています(状況によるので、事前の確認必須)

暖かい時期は、外のテラスでいただくこともできる

今回は取材ということで特別に1人でも受け入れていただきましたが、美しい水辺の景観を楽しみながら、そこで獲れた牡蠣や車海老をいただくのは、なんとも贅沢な体験でした。

専用の平らなネットで育てることで、殻の形も美しくなる

鈴木さんは日本の「塩田熟成牡蠣(クレールオイスター)」を世界に通用するブランドに育て上げるとともに、日本の漁師のイメージや働く環境も変えていきたいと言います。

日本では漁師という職業について、まだまだ“3K”などとマイナスイメージがぬぐいきれません。しかしオーストラリアやニュージーランドでは、牡蠣養殖漁師の年収は600〜800万円、マネージャークラスになると1,000万円もざらの、人気の職業だといいます。

これは機械化など作業内容が効率化されていることはもちろん、販売まで自分たちで行う漁師が多く、売値をコントロールできているから。そうした事情やノウハウも聞いてくれて構わない、そう言って、水産関係者の見学などもできる限り受け入れているそうです。

ファームスズキで受精卵からつくった、赤ちゃん牡蠣
子供の牡蠣を育てるための特殊な装置は、海外から特別輸入

またファームスズキでは生態系だけでなく、牡蠣の種苗(赤ちゃん)についても自分たちで研究・開発しています。これも海外では当たり前のことで、自分たちの自然環境に合い、より美味しい牡蠣をつくっていくには必要不可欠な仕事なのだそう。

こうしたこだわりを、当たり前としてやり続けるから、ファームスズキの「塩田熟成牡蠣」は品質・味ともに素晴らしく、進化し続けていくのです。

塩田熟成牡蠣と車海老を、地元の日本酒とともにいただいた

ピュアな旨味と、日本の水産業を盛り上げるヒントがたくさん詰まった、ファームスズキの「塩田熟成牡蠣」。牡蠣好きはもちろん、牡蠣のもつ独特の匂いや濃厚さが苦手という方も、ぜひ試してみてください。


撮影・取材・文/中川めぐみ
釣りアンバサダー 兼 ツッテ編集長。釣りを通して感じられる日本全国の地域の魅力(食、景観、人、文化など)を発見・発信するため、メディア「ツッテ」の運営や、初心者向けの釣りイベントを実施。自ら全国の港を飛び回っており、2018年は100地域での釣り旅を計画。レアニッポンでは全国の港町で見つけた地域や海にまつわるおもしろいものをお伝えしていきます。https://tsutte.jp

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